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♯13 私がAV女優になる前、正社員だった頃

私が正社員だった頃、毎朝6時には起きていました。

身支度が終わると、人がぎゅうぎゅうになった電車に揺られて、脳が半分寝ている状態で会社へと向かうのです。

会社の建物はそれはそれは大きく、何より人が多かったのをよく覚えています。

社員数は1万人程の会社だったので、不思議な事に同じ会社に勤めているにも関わらず、殆どの人の顔と名前を知らないのです。

当時は初めての就職で、正社員になるとこんな感じなんだなあ、と新鮮な気持ちで物事を捉えて見ていました。

そもそも何故、この会社に入りたいと思ったのか。

何故、田舎在住の私が大都会東京の会社を選び、上京する事になったのか。

敢えて言うのであれば、ただ大手企業だったからという理由なのですが、実際にこの会社入りたかったのかと聞かれると、そういった訳ではありませんでした。

では、何故ああして暫くの間、その企業に勤める事になったのかです。

採用通知書が届いてしまったからです。

まだ私が学生だった頃、就職活動というものはとても苦労するものだ、と聞かされてきました。

一足早くその活動を始めた周りの友人達が大変な思いをしているのを、実際に近くで見ていたのもあり、それはあながち間違いではなさそうだと思っていました。

そんな訳もあり、私は計画を練りました。

『まず最初に徹底して面接も作り込まれていそうな、そして大変そうである大手企業のどこかへ行って、様子を見てこよう』

こう考えました。

つまり、大手企業であればどこでも良かったのです。

先立って、しっかりしていそうな大手企業の面接を受けておく事により、本来の希望である中小企業の面接を気楽に受けられ、しかも有利に働くのではないかと考えたのです。

当然、周りを見ていても分かる様に一発で受かるものだとは思っていませんでしたが、もし万が一採用されてしまった時の為に、少しでもやりたい事に近いものを選択はしました。

旅費が出る、宿泊費が出る、ついでに東京で遊べる、この三拍子が決定打でした。

本当の意味での就職希望をしていた中小企業の候補も早々に第2希望まで絞り、この時既に決めてありました。

当日を迎えると、会場には大勢の現職の方や面接希望者が集まり、朝早くから夕方まで、丸一日掛けての面接が始まります。

驚く事に、健康診断までもが面接の一部として組み込まれていたのです。

もっと驚く事に、その日は私の誕生日でした。

少しばかり虚しい気持ちにはなっていましたが、会場で仲良くなった人が面接終わりに小さなお祝いをしてくれた事で、良い誕生日になりました。

この大人数の中でも合格するのはほんの一握りの人だけなんだと思うと、就職活動もそれは大変だよなあ、と納得です。

私みたく軽い気持ちで受けに来ている人も居れば、本当に好きで受けに来ている人も居り、軽い気持ちで受けに来ている人の中では、親を安心させたいが為だけに来ている人が意外と目立ちました。

とりあえず受かったら暫く働いて辞めて本当にやりたい事をやる、と話す人も多かったのです。

様々な事情の人が居る事を知り、やりたくもない仕事を選ぶ人は凄いなあ、とこの時、尊敬の気持ちが芽生えました。

「まあ受からないでしょ」と仲良くなった人と一緒に笑っていましたが、何と後日、お互いに採用された事を報告し合う事になりました。

採用通知書が届いてしまったのです。

そんなつもりでは無かったので、学校の先生に採用の報告と相談をする為に職員室へ行くと、「嘘だろお前、紙見せてみろ」とゲラゲラ笑われる始末です。

学校には私が採用されるなんて思っていた人は居なかったので、誰一人におめでとうと言ってもらえなかったのは悲しかったのですが、そもそもが「こんな会社に受かる訳ないからやめとけ」と言う先生方の反対を押し切り、自分の意図を説明して行かせてもらった面接だったのです。

先生もびっくりですが、私もびっくりです。

面接の際に『採用結果となれば必ず入社しなければならない』といった内容の契約書にサインをしてしまっていた事で、私は惜しくも就職活動の大変さを経験出来ないまま、東京への上京と、この大手企業への就職が決定したのでした。

世の中、何が起こるか分かりませんね。

余談ですが、面接で東京へ行ったあの日に、AV出演のスカウトという出来事が起こっています。

本当に、何が起こるか分かりません。

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