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塞翁が憎まれわんこ ①

 禍福は糾える縄の如し。

 まさか自分にそんなことが起きるなんて。って、いうことがほんとに起きるなんて。

 ワタクシ、良い子で(小デブの糞婆ですが)真面目にパートに勤しんでおります。
 そんなありふれた午前。
 ♪♪♪、あれ?スマホ鳴ってるよ。
 お客様からの電話かな。
 はい、もしもし、って、パート先の仕事人の声で出たら、内職の納入先からの電話でした。
 ワタクシ、週に何日か出勤するパートの他に、細々と内職もやらせていただいておりますの。内職先斡旋会社から納入先いただいて、こちらで制作した物を納入する。材料は内職会社から来る。手元で制作した品物を納品する。納品の受け取りを内職会社に提出して、給料が振り込まれる。よくある出来高制の内職です。
 その内職会社が潰れた、と。
 ほえ?変な声が出ちゃいました。

 カイシャガツブレタ


 晴天の霹靂

 まさにその日、納品書を内職会社に提出しようとしてたんですよ。

 先方からの説明がスマホから聞こえてくる。
 「弁護士事務所から手紙が来てまして、多額の負債で倒産した、って書いてあるんです。どうなっているかわかりますか?」

 わかりますか?って言われてもわっかんないよ。今日はパート従業員の日なんですよ。老骨に鞭打って、時給の仕事に精を出している村の鍛冶屋状態の真っ最中でございます。自宅の郵便受けも今は覗けません。

 「すいません。こちらも今初めて聞いた状況です。出先なので、確認次第、またご連絡いたします。」

地震でもないのに、めっちゃ頭がぐらぐらしますよ。そこをなんとか立て直して、よくお答えしました、ワタクシ。海千山千のババアですもの。えー、うそ、どーしよー、どーしたらいいのー、とか言って許される小娘さんではございません。
 納品先にとっては、ワタクシは会社側の人間ですよね。へえへえ、その旨で対応いたしますわん。

 とはいえ、今月分のわたしの給料は、どうなるの?

 とりあえず、倒産って、ほんとなの確認からですよね。
 パート中なんですが、もう少しお許しください。
 代表電話の番号をポチっとな。
 はい。出ません。
 携帯の番号も、
 出ません。
 状況を教えて欲しい、給与に関しての説明が欲しい旨、記録になるかしら、と、ショートメールを送信。

 一瞬放心。

 イケナイ、イケナイ。

 あと1件メールしなきゃ。
 ワタクシの、請負先2件あるんです。連絡のこなかった方に、倒産の情報あり、詳細を確認次第連絡、と、取り急ぎメールを送って、パート従業員の人に戻ります。
 パートの仕事が頭を使わない仕事で、本当に良かった。
 頭は、(内職契約の)会社倒産の映像でいっぱい。内職会社は近場にはなくて、メールとか電話の連絡だったので、すわ、と、所在地に行くなんてできない。だいたい、パート中だし。
 と、スタンプをペンペン押すワタクシ。
 この日は幸かいつかは行きたい福岡、幸か不幸か、今日の業務は外回りがなくて、内務作業で右から来たものを左へ受け流していく日。助かります。
 ペンペンしながら頭に浮かんでくる映像は、会社のドアの前に、「弊社は都合により、」とかで始まる定型分の倒産のお知らせが貼ってある。そこに当惑する従業員さんとか、わたしのような契約の社員、というか内職さんが途方に暮れて佇んでいる光景。私は実際そこにいないけど、映像の中では、本当に倒産してる、って困り眉を作って、何度も貼り読んでいる。

 いきなり夜逃げ状態で倒産した会社が映像で映されることがあるけど、まさにソレ。
 ああ、今、私、アレを体験してる。
 そう思いながら、遠い目で住所スタンプをチラシにペンペン押していくのでした。

               (続く)

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