ファンサービスをしない監督 落合博満は野球ファンに何を与えたのか 第54章
『2023年WBC決勝で落合が高く評価したのは、ヌートバーの1塁ゴロ』
2023年WBC決勝のアメリカ戦は、決勝戦にふさわしい緊迫した試合となった。
2回表にアメリカがソロ本塁打で先制すれば、2回裏に村上宗隆がソロ本塁打を放って1-1の同点に追いつく。
そこから1死満塁のチャンスを作るとヌートバーの1塁ゴロで2-1と勝ち越し。
4回裏には岡本和真のソロ本塁打が飛び出し、3-1とリード。
日本は小刻みな投手リレーで8回に1点を失ったものの、3-2で勝利。14年ぶりの世界一を手にした。
この試合展開の中で、落合が最も評価したのは、ヌートバーの1塁ゴロだった。
落合が目指した野球は、相手に点をやらない野球だ。点をやらなければ負けない。
そして、1点取ってリードしたら、鉄壁の投手陣と守備で守り抜く。
その1点を獲得するのに、本塁打を求めなかった。
1塁に出たランナーを手堅く2塁に送り、1本の単打で生還させる采配が目に付いた。
だから、無死満塁、1死満塁のチャンスで手堅く1点を取った打撃に最大の価値を見出しだのだ。
落合には、2011年の日本シリーズできわめて苦い経験がある。
中日とソフトバンクが対戦したこの日本シリーズは、第3戦を終えて中日が2勝1敗。
迎えた第4戦は、勝てば王手がかけられる状況だった。
その試合は前半で1-2と1点リードを許しながらも、6回裏に無死満塁のチャンスが巡ってきた。
同点、逆転の大チャンスであるにもかかわらず、中日は、三振、浅いレフトフライ、ショートゴロでチャンスを潰し、そのまま1-2で敗れた。
結果的に中日は、3勝4敗で日本一を逃すのだから、まさにシリーズの分水嶺となったのである。
WBC決勝のヌートバーの決勝点となった1塁ゴロという凡打。
三冠王を3回獲得した落合ながら、長年の経験からたどり着いた結論が凡打で取る1点の重要性だった。
落合監督時代の中日が強かった理由は、そんな野球を常にしていたからだろう。
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