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『ファンサービスをしない監督 落合博満は野球ファンに何を与えたのか 第38章』

第38章『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』でえぐられるマスコミ

『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』(鈴木忠平著 文春e-book)を読了した。

監督落合の8年間を日刊スポーツの担当記者として追い続けた記憶と、監督落合と関係の深い人々の取材を通じて、落合の実像に迫る作品だった。

読む前、私は、少しの不安があった。私がこれまでファンとして見てきた落合像とかけ離れているかもしれない、と。
なぜなら、私は、直接落合と話したことが1度もないからだ。
しかし、読み進めてみると、概ね私が想像していたとおりの落合像がそこにあった。

著者は、監督落合の8年間を落合のすぐそばで取材をしながら見てきたわけだが、私の場合、1987年からずっと今まで約36年間にわたってファンとして見続けてきた。

全盛期から下り坂に差し掛かる中日選手時代。40代としてはありえない成績で3年間で2度リーグ優勝に導いた巨人選手時代。そして、年齢による衰えと闘い続けた日本ハム選手時代。現役引退後の野球解説者時代。常勝軍団を作り上げた中日監督時代。そこから野球解説者時代を挟んで、辣腕を振るった中日GM時代。そして、現在の野球解説者時代。

ゆえに、実際に落合と接した著者の認識と、ほとんどずれが生じないのだろう。

とはいえ、もうちょっと踏み込んで書いてほしかった部分はある。

まずは、プロローグで著者が監督就任直前の落合を取材に行った場面だ。
中日選手時代の落合の担当記者をしていた先輩デスク○○の伝言を伝えるため、著者は、落合の自宅を訪れる。
先輩デスク○○は、落合の監督就任情報を事前につかんでおり、記事にすることを著者に伝えに行かせたのだ。

そのときの落合の発言がこれだ。

「○○に言っとけ。恥かくぞってな」

『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』鈴木忠平著

著者は、文字どおり「落合が監督をしない」という意味にとらえてしまった。つまり嘘を言ったのだ、と。
しかし、その後、日刊スポーツが開幕投手川崎憲次郎を当てられなかったとき、実際に○○は恥をかいた。

そんな流れで書かれているが、落合の発言はそもそも嘘を言ったわけではなかった。否定も肯定もせず「○○が恥をかく」と予想しただけだった。

つまり、○○は、中日選手時代の落合を嫌っていたから、監督になる落合をこれからも悪く書く。その度に、的外れな記事を世間にさらして、○○は、恥をかくだろう。

落合は、そう忠告したのだ。

事実、○○は、開幕投手川崎憲次郎を当てられず、その後も、落合を悪く書いては、見事な結果を残し続ける落合に恥をかかされ続ける。

○○は、落合の言動を分析したり、理解したりできないから、落合のことを書くたびに、恥をかく。
落合は、それを中日選手時代に知っていたから「オレのことを書くより、他のことを書いておいた方がいいぞ」と暗に助言したわけだ。
なのに、○○は、それを守らなかった。

そして、○○は、落合の監督就任から18年以上がたった今でも、著者の書籍によって、全国に恥をさらし続けているのだ。

私は、描かれる先輩デスクの様子に、落合の監督退任のときに『シリコンバレーからドラゴンズを語る』というブログで見た文章を思い出していた。
「中日ファンとして、尊敬できる素晴らしい人が監督を務め、結果これまでに無いペースで勝ちをもたらしてくれたというこの至福の8年間において、論理的に物事を見るスキルがないために逆につまらない8年間を送ってしまったとすればそれはおおいなる損失であるように思う」

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