いちご

いちご(1)/倉橋耀子

【あらすじ】アトピーに悩んでいる、小学5年生の少女、いちご。あるとき東京から、両親とともに、信州の山の中に引っ越すことになる。近くに店もなく、小学校までは歩いて一時間という環境に、いちごは戸惑う。さらに、転校した小学校になじめず、通えなくなってしまう。そんないちごが出会ったのが、隣に住む、光という少年。彼もまた不登校だったが、光、そして森の動物たちとの交流が、いちごを少しづつ変えてゆく。


 都会から自然を求めて移り住む一家の話だなんて、すっかり忘れていた。いちごの両親がキャンプ場を建てているという設定は90年代のアウトドアブームの名残を感じるが、いまでいえば「くらし系」の人たちだろう。いちごのアトピーを治すのも「沢の水にひたしたよもぎの湿布」。『天然生活』や(リニューアル前の)『ku:neru』かな? と思いつつ読んだ。

 この小説で描かれる大きな問題のひとつが「不登校」だ。いちごはアトピーで顔の皮膚が荒れているのをからかわれ、また教室の級友たちにうまく馴染めず、学校に行きたくないと思う。救いは、信州の田舎だということ。家の外に広がる森に逃げ込むことができ、そこで光という救世主とも出会うことができた。

 光は言う。

「ぼくもたしかに、いやなことからにげている。でも、だからって、ぼくは学校にはいく気にはならない。いく目的が、どうしても見つからないんだ。ということはだよ、学校にいく目的を見つけるほうが、ぼくにとってはたいせつだから、これからしばらくは、そのために、いろんなことをやってみようと思うんだ。」

 思い悩んでしまうとき、じっと考え込むより、とりあえず動いてみるのがよい、というのは確かだ。さらにそれが、自然のなかなら、より良いだろう。岡山の田舎にいた子供のころにはわからなかったが、東京で働くいまは、そう思う。

 今度の休みにキャンプか山歩きにでも出かけたくなった。


*講談社青い鳥文庫/1994年初版

 



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?