棒犬バウリンガル
私は、ちっともアイツに優しくなかったと思う。
だけど、数年ぶりに連絡をとったアイツは、優しく手を差し伸べてくれた。
音楽でしか、繋がっていなかったアイツ。
それだけで十分に、繋がっていたアイツ。
「アイツ」とは、性別は様々で、一人でもない。
人生の先輩でもあり、後輩でもある。
私は、そんなアイツから、感謝しても感謝しきれないほどの優しさをもらった。
私は今、人生初のCDを売らなければならない。
何のつてもなく、今どきの販売方法もよくわからない。
配信でもないし、サブスクでもない。
多くのアマチュア・ミュージシャンと同じように、身近な知り合いから宣伝を始める。
親しい友人は多くないし、SNSもさっぱりわからない。
あまり期待をしない、という目標を立てて、挑むしかない。
買ってもらいたいというより、誰かに聴いてもらいたい。
そんな中、私はアイツにメールした。
何年もご無沙汰だったので、連絡することすらためらった。
久しく連絡を取らなかったことを詫びつつ、CDの宣伝をした。
しばらくして、ふらりとアイツから連絡があった。
まるで、しょっちゅう連絡をとりあっていたかのように。
サッとCDを買い、しばらくして、またふらりと愛情に満ちた感想をよこした。
私は、ちっともアイツに優しくなかったと思う。
音楽でしか、繋がっていなかったアイツ。
それだけでも、繋がっていてくれるアイツ。
私は、本当に幸せ者だ。
年齢を重ねれば、守るものが増えてくる。
そして、いつの間にか、守られていることを忘れそうになる。
アイツは、何も言わずに、そのことを教えてくれた。
いや、多分そんなつもりもなく、ただ私の音楽と向き合ってくれたのだろう。
直接会える日が来たら、この気持ちをどう伝えよう。
感謝で溢れたこの気持ちを。
アイツは、性別は様々で、一人でもない。
人生の先輩でもあり、後輩でもある。
私は、そんなアイツから、感謝しても感謝しきれないほどの優しさをもらった。
棒犬 Vo. Takanori Inutake
棒犬(BOKEN)
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