アセット_5

イヌを飼うという事に対する責任

ぼくの家はあまり裕福とは言えない家だった。


小学校3年生のとき、父親が(多分わりと無理をしてローンを組んで)買ってくれた一軒家に移り住んだ。同じような面積、同じような形の家が並ぶ新興住宅地だった。


走りまわる事が好きだった小学生のぼくは「与えられて当然だ」と言わんばかりにその家の文句を言った。庭が狭い。とかなんとか。


「家を建てる」という事がどれだけ大変なのか。冷蔵庫にいつも食べ物が入っていることがどれだけありがたいことなのか当時のぼくには知る由もないのだけれど、社会人になった今考えると親父ってすごいなと思う。


そんな小学校3年生の夏に生まれて初めてイヌを飼うことになった。


ぼくの家に来たその真っ白な子犬は姉が友人からもらってきたイヌだった。柴犬と何かが混ざって血統はどうなってるのかよくわからない、田舎によくいた白っぽい日本犬。名前は「シロ」だ。



散歩はだいたいぼくの当番だった。一緒に山にいった。一緒に池にいった。一緒に土を掘ってミミズを見つけたりした。同じ水を飲んだりアイスを一緒に食べたりもした。


シロの家族での立ち位置はいわゆる「番犬」だった。



ある日の夜に突然聞いたこともないような鳴き声でシロが叫んだ。


慌てて自分のベッドから飛び起きて外に出ると、暗闇の中で目が緑に光る茶色い生き物がシロに後ろからおおいかぶさっていた。シロより一回り大きいその生き物は、ぼくの姿を見るなり地鳴りがしたのかと思うほどの声で威嚇してきた。


シロが殺されるかもしれない・・・


当時サッカーをしていた小学校3年生のぼくは何のためらいもなくその生き物の腹部を蹴り飛ばした。その生き物は一瞬宙を舞い、ドサッっと地面に落ち走り去っていった。


そのまま襲い掛かられていたら確実に負けていたのはぼくのほうだったと思う。


突然家族に迫られた決断。もしかしたらシロに子犬ができるかもしれない。生ませるのか、生ませないのか。(ここではじめてシロがメスだとぼくが理解するのだけれどそれはまた別の話し)



結果的に翌々日にシロは避妊手術をすることになる。



順調に回復して通常の生活にもどった。そのままぼくは中学生になり高校生になり、住み慣れた土地から遠い土地のイヌの勉強ができる専門学校に行くことになった。田舎を出てそこで学ぶことでぼくは「イヌを飼う」というのにも様々な飼い方があるのだという事を知った。


・シロのような番犬

・汚いブリーダーのイヌたち

・家庭でかわいがられているイヌ

・使役犬(盲導犬や警察犬)

・保護犬(この呼び方はあまり個人的には好きではないがまたいつか)


家庭内で飼育されているけれど、幸せではなさそうなイヌたちがたくさんいることを知った。


ブリーダーと呼ばれる人たちが全員きちんとイヌの管理をしていないことも知った。だけれどきちんと管理されているイヌがいることも知った。


死ぬほどかわいがられている子がいることも知った。


イヌの幸せは生まれた場所と飼われる環境で決まるということを知った。


さて、では自分が飼っていた愛犬「シロ」はどうだったのだろう。そう思いを巡らせてみると当時は精一杯可愛がっていたし大切に飼っていたと思うのだけれどやはり「もっと大切に飼っていればよかった」と思う。当時小学生だった自分には「飼い方の選択」ができるほどの財力も知識もなかった。



心残りはたくさんある。一度もきちんとシャンプーをしてやれなかったということ、ドッグフードを大袋で飼ってきて衣装ケースに移したものを食べさせていたこと。ゴン太の骨っこが大好きだったこと。


だけどシロが不幸せだったかと言われるときっと幸せだったのではないかとも思う。いや、そう思いたいだけかもしれない。


今の自分が当時のぼくを見たなら、たくさんアドバイスしたいことがある。


とてもおこがましいのだけれど、それをこれからたくさんの人にアドバイスしていけたらいいなと思う。


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