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【symposium】(Part.4)「クバへ/クバから」_第1回座談会(レクチャー1)上演記録「三野新の作歴とプロジェクト全体の基本構想をめぐって」

(Part.3はこちら


写真言語とイメージ ――『A motorcycles goes to Alphaville』

笠井 さて、序盤では三野さんの基本的な考え方を話をしてもらい、いぬのせなか座のメンバーそれぞれがいま、考えていることを話してもらいました。イメージ、身振り、固定性と流動性、当事者性、距離の近さ/遠さといった言葉も出てきています。ここからは、三野さんがこれまでに選び取ってきた表現のなかで、先に出たようなことをいかにして考えるに至ったのか。僕らも知りつつ、これから参加するみなさんにも知ってもらいましょう。ご用意いただいた資料をもとに、三野さんの過去作品について話してもらいながら、座談を続けましょう。

三野 ありがとうございます。僕の自作の解説の前に、今更自己紹介なんですけど、ちょっと簡単に。
 僕は福岡県出身で、写真家、舞台作家という肩書きで活動しています。「ニカサン」という演劇を制作する団体の主宰をしています。2010年から写真と身体の関係性を追求するカンパニーである「ヒッピー部」というのを主宰していたことがあって、写真や脚本、演出などをしていました。2013年からは個人名義になって、いろんな作品を発表し続けて今に至ります。
 さきほど山本くんが紹介してくれたように、「恐怖の予感を視覚化する」というテーマで作家活動を行っていて、見えないものを見る方法として物語や写真や演劇を横断的に思考/試行しながら、制作をしています。今回は「クバへ/クバから」に至るまでの作品を、問題意識や考え方ごとにまとめて6つくらいの小テーマで語ってみます。時間がないので、全部の作品についてはお話しできませんが……自分、意外とめっちゃ作品作ってて(笑)。

鈴木 自分で思っていたより(笑)。

三野 なので、どちらかというと、あまりこれまで語られていなかった、しかし重要だと思うことを話していきます。
 まず最初にご紹介するのが、2008年ってすごいな、12年前ですね、『A motorcycles goes to Alphaville』という僕が初めてつくった写真作品です。

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出典:三野新『A motorcycle goes to Alphaville』 (2008-2010)

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出典:三野新『A motorcycle goes to Alphaville』 (2008-2010)

 僕は写真作品を発表することから、芸術家としてのキャリアをスタートさせています。そこから演劇的なものだったり、現代美術的な側面がある作品を作るようになっていったんですね。
 当時の自分にとって、「写真作品を制作すること」は、すなわち「イメージによって対象を批評すること」でした。今作のステートメントにも書いているのですが、今見ると若干「ウワ〜」という感じになっちゃう(笑)。

鈴木 まさしく距離ですね! 過去の制作物から立ち上げられる自分と、いまの自分との距離の問題(笑)。

映画批評を写真で行いたいとずっと考えていた。映画を写真言語で記述することを夢見ていた。そこで、J.L.ゴダール『アルファビル』を批評するための写真を構成することにした。

元となるものは二つ。

一つは今まで撮りためていたスナップ写真。

もう一つは、『アルファビル』で極めて重要なテーマである「車=宇宙船」を、自分が持つボロボロのスーパーカブに置き換えて、それに乗って東京を撮影した白黒写真。

今考えてみると、自分は決してレミー・コーション(主人公の役名)になりたかったわけではなく、単に自分と他者や都市を、映画というフィルタを通して関係性を築きたかっただけなのだと思う。

ちなみに、タイトルは、『モーターサイクルダイアリーズ』と『レニングラードカウボーイズゴーアメリカ』も、もじっている。

(出典:https://www.aratamino.com/project

三野 当時は映画にすごい興味がある一方で、学部の1、2年生のころから写真のスナップを撮っていました。学部3年生のときに、「1_WALL」展というリクルートが主催するコンペティションに通って、そこで初めてパブリックなグループ展を行うんですね。映画のサークルに入って映画の実作や批評をやるみたいなことをずっとやっていたんですが、その中で、ジャン=リュック・ゴダールというフランス出身の映画監督からすごく影響を受けて、言葉で考えるイメージだけじゃなく、もうちょっと、イメージでイメージを記述していく、批評していくみたいなことがあり得るんじゃないかと考え、そこから制作を始めました。
 当時 SNS が出始めたばっかりで、日常的なものだったりとか、あんまりテーマを決めずに切り取る写真としての「スナップ写真」がまだ今よりも有効だった。「普通にスナップってあるよね〜」という時代の作品です。(今ももちろんあるのですが……)


 この時は、チェ・ゲバラが若い頃にバイクに乗って南米を横断する『モーターサイクル・ダイアリーズ』という映画作品と、アキ・カウリスマキという映画監督の『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』という映画作品を参照しつつ、ゴダールの『アルファビル』を批評したい、しかも言葉ではなく違うやり方で批評していくやり方を考えたくて制作しました。
 ここで、僕にとってのキーフレーズである「写真言語」という言葉が出てくるんですけど、これは、いわゆる論理的な、こうやって僕が喋っている記号化された言葉ではなく、イメージの積み重ねによって出てくる、言語未満/以前のような言語のことです。それが他者に伝わるあり方を夢想して実践した作品になります。
 こういう風に白黒の写真とカラーの写真を並置して30カットで構成されています。当時は原チャっていうか、スーパーカブに乗って大学に通ったりしていて、結構行動範囲も原チャなんですが――。

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出典:三野新『A motorcycle goes to Alphaville』 (2008-2010)

鈴木 このスーパーカブ、広島ナンバーですか?

三野 広島ナンバーです。明治通りから早稲田通りにつながる通りを毎日スーパーカブで通っていたので、その時のものをリコーのGRを使って白黒の写真で撮り溜めていた。カラー写真の方も、撮り溜めていた様々なスナップですね、それらを組み合わせて、再構成して批評する、みたいなことをやっていた。
 ちなみにこのスーパーカブは、僕が前住んでいたところでついに手放してしまって、バイク王に1万円で売りました(笑)。維持費がかかっちゃってたんで……。

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出典:三野新『A motorcycle goes to Alphaville』 (2008-2010)

鈴木 いい写真ですね。FUNKY MONKEY BABYSのアルバムみたいです。


Part.5につづく)

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写真家・舞台作家の三野新と、いぬのせなか座による、沖縄の風景のイメージをモチーフとした写真集を共同制作するプロジェクト「クバへ/クバから」…

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