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【symposium3】「『沖縄の風景』をめぐる7つの夜話」第2夜(12/22)「5人が選んだ100冊の参考文献」(発表:笠井康平)

※本稿は、「クバへ/クバから」第3回座談会(シンポジウム)「「沖縄の風景」をめぐる7つの夜話」第2夜(12/22(火)20:00-)の発表資料です。

この記事のまとめ

選書というのは「思想の自由」に直結する身振りで、その行為自体にはっきりした善悪・真偽・正誤・美醜があるわけではありません。少なくとも、そのフィクションを信じることで、私たちの「表現の自由」は守られる。

とはいえ、体系や分類に頼らずに、それぞれの価値観に沿った自由な選択を行うと、その集団の視線には少なからず偏りが生じます。「身振り」の偏りは「こだわり」に変わり、やがて「抵抗」を生むでしょう。

「抵抗」とは、ある動き・流れを妨げたり、逆らう力のはたらきです。負荷分散による増圧/減圧によって操作できるようで、俯瞰的な要覧や、工学的な制御のための知識が役立ちそうです。


報告と連絡

To: いぬのせなか座
From: 笠井康平
件名: 【共有】いぬのせなか座叢書のための選書リスト

みなさま


笠井です。直前ですみません。

ようやく担当分20冊が選び終わりました。予定どおり、5人分で100冊に達したので、「参考文献の紹介」は、これをもとに話そうと思います。

いぬのせなか座叢書のための選書リスト

引き続き年末年始にかけて、それぞれの選書について説明や解説を付して行ければ。そちらは三野プロ委員会の定期購読マガジンではなく、いぬのせなか座(本体?)のリリースノートとして公表するつもりです(時期ずれはしましたが、当初案どおり)。

変更履歴をふり返ると、10月17日に作成を始めて、11月末には4人の20冊が選び終わっていますね……。大変お待たせしました。


ある芸術グループの集団的性質

完成した書誌は、いぬのせなか座という任意団体の構成メンバーが、この企画(注:沖縄の風景のイメージを主題とした写真・演劇プロジェクト)に参加するかたわらで、2020年にどのような関心でリサーチデザインを行ったのか要覧するデータセットとしても使えます。

それぞれの関心と問題意識に沿って、「クバへ/クバから」の出演者が、この企画に関して/関わりなく、すでに読んだ/これから読みたい本だと言えそうです。

分析のために、国立国会図書館のNDLラボが開発した「NDC Predictor 機械学習による日本十進分類の推測アプリ」を用いて、5人の選んだ100冊が、「0 総記」から「9文学」までどの分類に属する確率が高いか判定しました。ただし、明らかに誤った分類は目視で訂正しました。集計結果は次のとおりです。

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まず「総計」をみると、この企画で私たちは――とあえて言いますが――、「芸術.美術」「社会科学」に際立った関心を示しています。「文学」「歴史」「哲学」がそれに続きます。「自然科学」「産業」「言語」にはあまり人気がありません。「総記」「技術.工学」は、ほとんど忘れられています。

極めてデリケートに考えたとき、私たちのこのふるまいが、知識と表現をめぐるなんらかの構造的な差別に、どれだけ与するものかは分かりません。とはいえ、体系や分類に頼らずに、それぞれの価値観に沿った自由な選択を行うと、その集団の興味に大きな偏りが生じることがあるという一例ではあります。

「身振り」の偏りは「こだわり」に変わり、やがて「抵抗」を生むでしょう。そのリスクがあることは現時点でも指摘できるのかもしれません。


関心の散らばり/偏り

個人別にも見てみます。

「山本」は、「芸術.美術」に選書枠の90%を割いています。第二次区分でみると、「写真集」(11冊)「芸術.美術--論文集.評論集.講演集」(7冊)、「社会思想」(1冊)、「年中行事. 祭礼」(1冊)でした。

写真集や芸術論をたくさん買おうとしていると言えそうです。


「なまけ」は、「哲学」(6冊)「社会科学」(5冊)がやや多く、「芸術.美術」「文学」が3冊ずつ。「自然科学」2冊、「産業」1冊です。

第二次区分でみると、「哲学」(4冊)、「日本文学」(3冊)、「倫理学.道徳」(2冊)、「経済学.経済思想」(2冊)が選ばれ、あとは「一般植物学」「貨幣.通貨」「芸術.美術--論文集.評論集.講演集」「社会学」「社会福祉」「政治学.政治思想」「造園」「洋画」「臨床医学.診断・治療」から1冊ずつ選んでいます。

人文・思想書を中心に、隣接分野にも目を向けていると言えそうです。


「鈴木」は、「社会科学」(8冊)、「歴史」(6冊)と多くを占め、「芸術.美術」(3冊)のほか、「総記」「文学」「自然科学」(各1冊)を選んでいました。

第二次区分でみると、「日本史」(4冊)、「政治学.政治思想」(3冊)、「国防史・事情.軍事史・事情」(3冊)、「芸術.美術--論文集.評論集.講演集」(3冊)が複数点。「ヨーロッパ史.西洋史--ドイツ.中欧」「ヨーロッパ史.西洋史--ドイツ.中欧」「社会科学--論文集.評論集.講演集」「社会学」「歴史学」「日本文学--詩歌」「ジャーナリズム.新聞」「臨床医学.診断・治療」が1冊でした。

政治と歴史に、社会思想と言語芸術をめぐる関心があると言えそうです。


「h」は、「社会科学」(10冊)が全体の半数を占め、「文学」(5冊)がそれに続きます。「哲学」(2冊)「歴史」(2冊)「芸術.美術」(1冊)も選ばれています。

第二次区分でみると、「伝説.民話[昔話]」(5冊)が多く、「日本文学--記録.手記.ルポルタージュ」「日本文学--小説.物語」「日本文学--評論.エッセイ.随筆」が2冊ずつの計6冊。「風俗史.民俗誌.民族誌」「風俗習慣.民俗学.民族学」も2冊ずつ選んでいて、「哲学」「倫理学.道徳」「地理.地誌.紀行--日本」「日本史--九州地方」「社会学」「映画」が1冊ずつです。

つくり話や言い伝え、記録・資料に関心があると言えそうです。


「笠井」は、社会科学(6冊)が多く、「産業」(3冊)「芸術.美術」(3冊)「言語」(2冊)が続き、「総記」「哲学」「歴史」「自然科学」「技術.工学」「文学」が1冊ずつです。

第二次区分でみると、「一般書誌. 全国書誌」「哲学」「観光事業」「経営管理」「経済史・事情.経済体制」「芸術理論.美学」「劇場. 演出. 演技」「広告.宣伝」「写真集」「社会・家庭生活の習俗」「社会学」「社会福祉」「住宅建築」「水産業および漁業史・事情」「政治・経済・社会・文化事情」「生物地理.生物誌」「伝記--個人伝記」「記録、手記、ルポルタージュ」「日本語」「方言、訛語」が1冊ずつでした。

いろいろなことに関心があと言えそうです。


態度変容のためのリファレンス

各論を掘り下げるときりがなくなるので、人気のなかった「総記」「技術.工学」に、ありきたりな「沖縄の風景のイメージ」を覆す可能性が眠っていることを示唆しておきます。

「総記」には「書籍」という構造物のメタ情報を扱った「書籍」が分類されます。

0類 総記
000 総記
010 図書館・図書館学
020 図書・書誌学
030 百科事典
040 一般論文集・一般講演集
050 逐次刊行物・年鑑
060 学会・団体・研究調査機関
070 ジャーナリズム・新聞
080 叢書・全集・選集
090 貴重書・郷土資料・その他の特別コレクション

なかでも、日外アソシエーツが刊行した『「沖縄」がわかる本6000冊』は、この企画にうってつけでしょう。1995年から2015年までの10年間に日本語圏で刊行された書籍を、「沖縄全般」から歴史、社会、民族、文化芸能、地理自然環境に至るまで幅広く扱った図書目録です。


「技術.工学」には建設・建築・土木、機械・電気、製造工業など、いわゆる「ものづくり」に関する書籍が分類されます。衣服・裁縫、手芸、理容・美容、食品・料理、育児といった「家政学・生活科学」も含まれていて、どれもこの企画では大きく取り上げてこなかった主題群です。

5類 技術・工学・工業
500 技術・工学・工業
510 建設工学・土木工学
520 建築学
530 機械工学・原子力工学
540 電気工学・電子工学
550 海洋工学・船舶工学
560 金属工学・鉱山工学
570 化学工業
580 製造工業
590 家政学・生活科学

「工業」は「芸術」くらい多様さを抱え込んだ表現様式で、ありとあらゆる「もの」に取材し、収集し、加工し、成形し、流通し、売買します。その形態的類似から示唆を得られる、いくつもの著作があります。


抵抗を下げる/圧力を減らす

私たちは、その昔、古い芸術家を失業させると喧伝された、のちに「写真」と名づけられる工業技術が、日常にありふれた「演劇」の舞台である家庭に普及しきった「あとの時代」を生きています。

私たちがまだ関心を寄せていないふたつの分類をみていると、「芸術」と「社会」を対立/融和的な構図に置くような態度に囚われないためには、そのあいだにある無数の「手しごと」に目を向ける必要があるのではないかと気づかされます。

「抵抗」とは、ある動き・流れを妨げたり、逆らう力のはたらきです。負荷分散による増圧/減圧によって操作できるようで、俯瞰的な要覧や、工学的な制御のための知識が役立ちそうです。


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写真家・舞台作家の三野新と、いぬのせなか座による、沖縄の風景のイメージをモチーフとした写真集を共同制作するプロジェクト「クバへ/クバから」…

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