犬のピピの話 289 ニンジンも持っている犬
さて、そんな誇らかなぬいぐるみ主のピピといえば、もうすでに、にんじんのぬいぐるみ持ちでもありました。
え? にんじん?
はい、あの野菜の、オレンジ色の、にんじんの、ぬいぐるみです。
このにんじんは、犬のサロンでシャンプーした折りにいただいて、中に鈴が入っていて、ワタに包まれていますから、動かすと少しくぐもった音で
「ちり、ちり・・」
と、ひかえめに鳴ります。
ピピは、はじめのうちとても喜んで、おもしろがって遊んでいました。
そしてなぜか、散歩のたび、口にくわえて出かけたのです。
たぶん
「それほど、この子をかわいがっています!」
「だいじにしています!!」
と、いうことなのでしょう。
それは、いいのです。
いいのですが、ピピは歩いているうち、見つけた何かのにおいを夢中でかいでいるうちに、そのかわいいにんじんを
すっかり!!
忘れてしまうのです。
と、いうことは、つまりピピが落としたまま忘れ去っているにんじんを、道路のわきとか、草むらの中とかから、いつもわたしが拾いあげて帰るのでした。
そんなわけで、にんじんはあちこちに運ばれ、落とされ、ピピのよだれと泥ですっかり汚れ、中の鈴もかみつぶされて、ぜんぜん鳴らなくなりました。
そのうち、ピピはこのにんじんをとりあわなくなり、庭に放り出されたままのにんじんは、日にあせて、すっかり白くなってしまいました。
今のピピは、わたしに”授与”されたちいさないぬのぬいぐるみをかわいがっています。
でもやがて、このちびいぬだって、にんじんと同じように飽きられ、庭のどこかで静かに色あせていくのでしょう・・。
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