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一期一会を楽しむ、映画祭の楽しみ 第34回東京国際映画祭(TIFF)で観た映画

10月30日から開催されている第34回東京国際映画祭(TIFF)。
今回は、映画ライターの松 弥々子が、今年のTIFFで観た作品を紹介します。


映画祭は映画の買い付けのための見本市でもある

国際映画祭の楽しみの一つが、“日本ではここでしか観られないかもしれない”映画を観ること。

ハリウッドのメジャースタジオで作られている映画などは別ですが、外国映画が日本で観られるというのは、実はすごいことなのです。
各国で作られたインディペンデント映画は、映画祭などに出品されることで世界の映画人の目に触れるようになります。そこで目をつけた映画をバイヤーが買い付け、自国での公開や配信権、ソフト化権などのライセンスを購入し、その国で公開できるようになるのです(近年はNetflixなど世界で展開しているコンテンツプロバイダであれば、世界での独占配信権などを購入する場合もあります)。

実は、国際映画祭にはコンテンツマーケット(コンテンツ見本市)が併設されており、そこで映画やドラマの買い付けやセールスが行われています。東京国際映画祭併設のコンテンツ見本市は「TIFFCOM」という名で開催されており、日本やアジアのコンテンツホルダー各社が出展しています。そしてそのコンテンツを買うために、世界各地からバイヤーが訪れ、コンテンツの売買が行われているのです。

こういったコンテンツマーケットで売買されなければ、どんなにいい作品であったとしても、その映画が海外で公開されることは、基本的にありません。
国際映画祭は、世界の映画を上映し、海外市場に紹介するための場でもあるのです。


日本の独立系映画配給会社のバイヤーは、こういった外国で製作された映画を日本で配給するために、各国の映画祭に出向き、映画や企画を見極めます。そして、各映画祭併設のコンテンツマーケットなどで、映画を購入し、日本で配給する準備を進めていきます。
カンヌ国際映画祭のマルシェ・ドゥ・フィルム、ヴェネチア国際映画祭のヴェネチア・プロダクション・ブリッジ、香港国際映画祭の香港フィルマートなど、世界で多くのコンテンツマーケットが開催されています。
映画祭での評価が高ければ、コンテンツマーケットでその作品が購入される可能性も高くなります。

とはいえ、知名度の低い若手監督や、スター俳優の出ていない映画は、なかなかヒットが難しいもの。いくら評価が高くても、ビジネスである以上、買い付けられる可能性はどうしても低くなります。

映画祭で上映されている映画は、ここで観なければもう二度と観ることができない……、そんな可能性もあるのです。だからこそ、映画祭で気になる映画が上映されているようであれば、ぜひ観に行って欲しいと思います。

さて、今日(11/05)までで、私はTIFFで3本の映画を観ることができました。
それぞれの作品について、少し紹介したいと思います。

ヴェラは海の夢を見る(コンペティション部門)

コソボ共和国を舞台にしたこの作品。主人公は、ヴェラという手話通訳の女性です。
売りに出していた郊外の家に買い手が現れた……。そんな朗報が入った次の日、ヴェラの夫が自殺してしまいます。そしてヴェラは、その郊外の家が借金の抵当に入っていたことを知るのです。

郊外の家を渡さないと抵抗するヴェラを、夫の親戚や知人の男たちがさまざまな手を使って説得し、家を渡させようとします。そのうちに、ヴェラがどんな仕打ちを受けてきたのか、他の女性たちが夫からどんな風に扱われているのかがわかってきます。

ジェンダー平等が叫ばれる現在ですが、特に古い世代において、今なお男性優位の状況は顕著に見られます。そんな中で、女性たちは自分なりの夢を持ち、自分なりのスキルを身につけて戦い、生き抜いてきたことがわかります。コソボという、独立運動や紛争に揺れ動いた地を舞台にしたカルトリナ・クラスニチ監督による本作は、コソボという国で女性が置かれている現実を我々に教えてくれています。

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© Copyright 2020 PUNTORIA KREATIVE ISSTRA | ISSTRA CREATIVE FACTORY

『ヴェラは海の夢を見る』(コソボ/北マケドニア/アルバニア)
原題:Vera Andrron Detin
英題:Vera Dreams of the Sea
監督:カルトリナ・クラスニチ
出演:テウタ・アイディニ・イェゲニ/アルケタ・スラ/アストリッド・カバシ


復讐(コンペティション部門)

父親の借金を返済するために、バイク泥棒として働くイサック。彼のボスのジェポイは政治家の息子で、自らも選挙に立候補しています。爽やかな笑顔で「若者は国の希望」と選挙活動を行っておきながら、裏では盗んだバイクを改造して売りさばくというビジネスを行なっていました。

父親の借金のために犯罪に手を出さざるを得ないイサックと、政治家二世として表の顔と裏の顔を使いわけ傍若無人に生きるジェポイ。ブリランテ・メンドーサ監督は、二人の若者を対比させながら、フィリピンの格差社会の現実を炙り出しています。

若者は国の希望と言うけれど、その希望はすべての若者に届くのか……。持てるものは持ち続けさらに肥え太り、持たざる者は持たざる者同士で争いあう、そんな現実が描かれています。

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©Cignal TV, Inc.

『復讐』(フィリピン)
原題:Resbak
英題:Payback
監督:ブリランテ・メンドーサ
出演:ヴィンス・リロン/ナッシュ・アグアス/ジェイ・マナロ


アメリカン・ガール(アジアの未来部門)


2003年、母と妹と3人で暮らしていたLAから、母の病気が原因で父のいる台湾に帰国した13歳の少女を主人公とする本作。
LAの友人との別れた淋しさ、校則で髪の毛を切らされる理不尽さ、慣れない台湾の学校での勉強の難しさ、学校でアメリカン・ガールとからかわれる辛さ、病気の母親を心配する気持ち、母のせいで帰国しなければいけなくなったという恨み……。ただでさえ色々な感情が渦巻く思春期に、新たな環境でぐちゃぐちゃになる少女の感情を、優しく描いています。

ロアン・フォンイー(阮鳳儀)監督の自伝的物語でもある本作、娘を愛しながらも不器用な表現しかできない父親、家族を愛しながらも病気の大変さや自分の感情が時に勝ってしまう母親、思春期前で素直に家族を愛する気持ちを表現できる妹。家族それぞれの感情描写も素晴らしく、愛し合っていても起こってしまう家族間のディスコミュニケーションが丁寧に表現されていました。

台湾でもSARSが感染拡大した2003年が舞台ということで、2021年の現在とどこか重なるものがありました。時代や国境を越え、映画が持つ“普遍性”を強く感じさせる作品と言えるでしょう。

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『アメリカン・ガール』(台湾)
原題:美國女孩
英題:American Girl
監督:ロアン・フォンイー[阮鳳儀]
出演:カリーナ・ラム/カイザー・チュアン/ケイトリン・ファン


<第34回東京国際映画祭開催概要>
■開催期間:2021年10月30日(土)~11月8日(月)
■会場:日比谷・有楽町・銀座地区(角川シネマ有楽町、シネスイッチ銀座、東京国際フォーラム、TOHOシネマズシャンテ、TOHOシネマズ日比谷、ヒューマントラストシネマ有楽町、有楽町よみうりホールほか)
■公式サイト:www.tiff-jp.net
©2021TIFF

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