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衝撃の問題作『月』。鑑賞後、あなたは何を思いますか。【ネタバレ含む】

今回はkayserが紹介します。
神奈川県相模原市の知的障害者施設で起きた凄惨な殺傷事件。日本中に大きな衝撃が走りました。この事件が起きた翌年、2017年に発表された辺見庸原作の小説『月』が、事件から7年経った2023年映画化され、現在公開中です。

映画『新聞記者』を手掛けた故・河村光庸プロデューサーが最も映画化したかった作品といわれています。命とは。人間の尊厳を描いた『月』という原作の映画化を託されたのは、石井裕也監督河村プロデューサーとのタッグは本作で初でした。今回は映画『月』に関しての作品レビューをお届けします。

映画『月』とは

相模原市で起きた障害者殺傷事件。その翌年、作家の辺見庸がこの事件に着想を得て、ひとつの小説を発表しました。タイトルは『月』

目も見えず、話もできず、歩くこともできない。重度障害者のきーちゃんの内面に潜む思いをひらがなで描いていきます。

きーちゃんが通う園で働くのが、さとくんです。園のほかの職員とは馴染めず孤立していくさとくん。そんなさとくんですが、きーちゃんには好意を持たれていきます。しかし、さとくんは園を辞め、自身の勝手な思想に走っていくのでした。

この原作小説をもとに、石井裕也監督がメガホンを取ることに。映画化するにあたり、脚本も担当する石井監督は、原作の大幅な改編を行っています。

映画のあらすじ

堂島洋子は、東日本大震災を題材に、かつて小説を書き人気を博した作家でした。しかし、書けなくなってしまった彼女は、映像作家を目指す夫と二人で生きていくため働くことに。

職場は、森の奥にある重度障害者施設でした。そこで作家志望の陽子絵を書くのが得意なさとくんといった同僚たちいに出会います。この2人と親しくなる洋子でしたが、ほかの同僚たちの入所者への惨い扱いも知ることに。

また、入所者のひとりで洋子自身と同じ生年月日のきーちゃんに他人とは思えぬ感情が芽生えていきます。目も見えず、口も聞けず...何もできないと思われていたきーちゃんですが、本当は何かを感じでいるのではないかと気付く洋子

そんな中、さとくんが施設の状況に疑問を持ち、徐々におかしな主張を言い出します。彼と対峙する洋子さとくんの正義や使命感が増幅する一方、洋子もまたこの施設や入所者と触れ合うことで作家として、新たな一歩を踏み出すのでした。

映画化にあたり

映画では、オリジナルのキャラクターとして、宮沢りえ演じる作家の堂島洋子を登場させ主人公にしました。原作のきーちゃんと同じ生年月日という設定にしています。きーちゃんの写し鏡的な存在として描き、さとくんと対峙させていくのです。

また、洋子には、オダギリジョー演じる映像作家の夫がおり、夫婦の間には、かつて障害を持った子どもがいたという設定も加わります。原作をガラッと変えてしまったように感じるかもしれませんが、この洋子夫妻を描くことで、小説でしか表現できない原作を映像としてみせることにしたのでしょう。

リアルな題材を扱う難しさ

相模原市で起きた事件のように社会を揺るがすような事件の場合、その後、それらの事件を元に、小説やドラマ、映画といった何かしらの作品になることは多々あります。実際にあった事件であることから、世間的に注視されることも少なくありません。

そういった作品を作る時に、「どういった視点で、何を伝えるのか」といったことが非常に重要になってくると思います。よく見られる傾向としては、事件を起こした犯人を中心として描いていくということです。

しかしながら、本作は犯人だけに注目している作品ではありません。原作小説においては、物語を先導していくのは、施設の入居者であるきーちゃんです。そして、映画ではきーちゃんの写し鏡として存在する洋子という作家でした。

事件を起こしたさとくんだけに注目するのではなく、さとくんを含む社会全体を描いています。さとくんひとりを特別な犯罪者として扱うには、この事件の全貌を語ることはできないということなのでしょう。

あくまでも、さとくんをこの世の中に普通に生きる青年として描いています。それは、観客ひとりひとりに、本当にあった出来事であるからこそ「自分ごと」として問題を投げかけているのではないでしょうか。

登場人物たちが抱える問題

本作に登場している主な人物、主人公の洋子とその夫、作家志望の陽子など皆それぞれの問題を抱えています。彼らの感じる閉塞感と本作に登場する施設そのものが持つ

わたし達が生きる社会や日常の中にも、こうした閉塞感や闇のようなものは常に存在しています。そのものの中に飲み込まれてしまうか、そこから一歩
踏み出すのかどうかは、やはり自分次第。

本作で強く感じるのは、その闇の存在を知った上でも人は希望をもって生きることができるということ。自身の選択ひとつで、未来は変わるということです。

筆者が本作に感じたのは、すべてを知った上で、それを凌駕する希望でした。

まとめ

とても重いテーマを掲げた映画『月』。どんな結末を迎えるのか、非常に気になるところでしょう。これは、ぜひ劇場で確認してほしいところです。

堂島洋子という存在は、この作品において何か物語っているのか。そんなところも注目してみてください。

Kayser

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