3月10日公開オススメ映画『オットーという男』『Winny』『オマージュ』
映画ライターの松 弥々子が、3月10日に公開されるオススメ映画3作品をご紹介します。
オットーという男
トム・ハンクスが街一番の偏屈爺さんを演じる映画『オットーという男』。孤独な老人が近所の移民と触れ合ううちにその人生が変わっていく……という意味では、トム・ハンクス版『グラントリノ』と言えなくもないようなこの作品。
もちろん“トム・ハンクス版”だけあって、その物語はやはりヒューマンドラマでありつつ、やさしいユーモアに満ちた作品になっています。常にむすっとした表情で、隣人のルール違反を責め立てる偏屈爺さん・オットーの近所にメキシコ出身の家族が引っ越してきたことで、静かで独自のルールに乗っ取っていたオットーの生活が、にぎやかで予想できない出来事い彩られていくのです。
このメキシコ人家族の中心人物で、一家の太陽のような女性マリソルを演じたマリアナ・トレビーニョがまたすばらしく、トム・ハンクスと見事なケミストリーを生み出しています。
マーク・フォースター監督によるこの映画は、スウェーデンの人気作家フレドリック・バックマンの原作小説「幸せなひとりぼっち」の映画化で、同名のスウェーデン映画のリメイクでもあります。
ハンネス・ホルム監督によるスウェーデ映画『幸せなひとりぼっち』と見比べてみると、より楽しめるかもしれません。
『オットーという男』(126分/アメリカ/2022年)
原題:A Man Called Otto
公開日:2023年3月10日
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
劇場:全国にて
Official Website:https://www.otto-movie.jp/
Winny
Peer to Peer通信を使用したファイル共有ソフト「Winny」。2000年代初頭、このWinnyを利用して映画や音楽、ゲームなどのコンテンツが違法に流通するという著作権侵害が問題となりました。やがて2004年5月、Winnyの開発者である金子勇氏も、著作権法違反幇助の疑いで逮捕されてしまいます。
この映画『Winny』は、自身は著作権法違反を行なっていないにも関わらず、「著作権侵害に利用されるソフトウェアを作成した」ということで逮捕されてしまった金子氏と、彼の弁護団による法廷闘争を描く物語です。
金子氏を演じるのは、東出昌大。18キロも増量し、いわゆる天才肌で無邪気、マイペースな金子氏が憑依したかのような演技を見せています。
あくまで金子氏の立場に立ったこの作品、金子氏を無垢でまったく邪気のない天才として描き、Winnyというソフトが有する問題などはあまり描かれていません。あまりにも一方的な描かれ方なので、ぞのあたりはこの作品に対する評価が別れる点かもしれません。
とはいえ、一人の人間が大きな組織のスケープゴートにされ、結果として日本という国全体が退化していくという物語の構図からは、製作者たちの問題意識や反骨心などが十分に伝わってきます。
この映画『Winny』は、翼を折られた一人の天才の悲劇を描き、日本社会に巣食う問題を描き出したという点で、一見の価値のある大いなる問題作と言えるでしょう。
『Winny』(127分/日本/2023年)
公開:2023年3月10日
配給:KDDI ナカチカ
劇場:TOHOシネマズほか全国にて
Official Website:https://winny-movie.com
(C)2023映画「Winny」製作委員会
オマージュ
『パラサイト 半地下の家族』で夫を地下室に隠して同居させる家政婦を演じて強烈な存在感を見せつけた女優、イ・ジョンウン。このイ・ジョンウンの初主演作となるのが、映画『オマージュ』です。
劇中でイ・ジョンウンが演じるのは、映画監督のジワン。公開作の評判は芳しくなく、次回作の目処もたたない、家庭では家事を手伝わない夫や息子にイラつき、更年期で体調にも変化が訪れる……。ジワンは決して華やかな存在ではなく、冴えない中年女性として描かれています。
そんなジワンは、1960年代の韓国で映画を制作していた女性監督ホン・ジェウォンの映画『女判事』の修復プロジェクトに参加することになります。そこで、『女判事』のフィルムが一部紛失していることを知った彼女は、フィルムを探そうとするのですが……。
この映画『オマージュ』を手がけたのは、シン・スウォン監督。自身も女性であるシン・スウォン監督は、自らの分身のようなジワンを主人公に据え、1960年代、そして現代に生きる女性監督の姿と苦悩、彼女たちが直面する問題を描いています。まさに、男社会である映画界で生きてきた女性監督へのオマージュに満ちたこの作品。
映画への愛が憎しみへと変わったり、でもやっぱり映画が好きで離れる決心がなかなかつかなかったり……。“憧れの業界”へ入り、そこで道を切り開いていく人々にエールを送るような一作でした。
『オマージュ』(108分/韓国/2021年)
原題:오마주
英題:Hommage
公開:2023年3月10日
配給:アルバトロス・フィルム
劇場:ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国にて順次公開
Official Website:https://hommage-movie.com/
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