『高校数学のロードマップ』A_3(空間編)3『関数のグラフ』

(2019/11/27差し替え)

(※注:「理系に進学したいが数学が苦手な知人の高校生に、数学の良さを教える」というミッションのための草稿を、あらかじめWebに掲載して、ダメなところを指摘してもらおう、という趣旨の記事です)

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〇関数のグラフ

●関数の使い道

・ここでは関数に関する3つのキーワードを説明します。「中学校数学レベルの関数」「大学数学レベルの関数」そして「関数のグラフ」です。
大学数学レベルの関数は、「何かを入れたら何かの『数』が『出て来る』何かの隠された仕組み」のことです。つまり、数を抜きにしては成り立ちません。
(関数を写像と同じ意味で使う人もいますが、この教材では、数を使う関数と、数が出て来なくてもよい写像全般を、分けて扱います。)
 大学数学レベルの関数に、式を加えたものが、中学校数学レベルの関数です。
また、これらの関数と、面の上の「大雑把な図形」=位相多様体を対応させることが出来ます。関数と対応付けられた位相多様体を関数のグラフと言います。
これにより、関数を使えば、様々な「何か入れたら何か出て来る何かの隠された仕組み」が、数や図形で分かりやすく解明出来る、という絶大なメリットがあります。
数や図形で表せるものはたいてい捉えやすいのですが、隠された仕組みはふつう捉えがたいので、関数のようにそれを数学で扱う仕組みがあればそれを捉えやすいように出来ますし、そうなれば猛烈に扱いやすくなります。

・例えば、理科で扱う自然法則は姿かたちを持たず、捉えがたいのですが、物理学の場合、ほとんどは大雑把に言えば「何らかの運動を入れたら何らかの運動が出て来る運動の隠された仕組み」であるという共通点があります。
これは中学校数学レベルの関数に通じるものがあり、自然法則が、中学校数学レベルの関数で、しかもたった数行(しばしば1行)で書けることがあります。
こうなると、関数の何たるかが分かっていれば、自然法則が読めます。これは慣れれば圧倒的に便利ですので、この考え方を是非身に着けていって下さい。

●関数の中身を式で表して簡単に扱いたい

中学校数学や高校数学で使われる関数は、おそらく全て、式を使って表します。
というよりも、昔、関数は式の一種と考えられていました。

・今では定義が少し違い、少なくとも大学数学レベルでいう関数は、「何かを入れたら、何らかの『数』を『出力する』、その際のルールf(x)」のことです。さっきから説明している通りですね。
“f(x)”が大事なのであり、”f(x)=…”のうち”=…”の部分はおまけ、ということです。式のことは特に考えていません。
(大学数学だとそもそも、式がどういう中身か定式化出来ていないものを、今から定式化するために研究している、ということもあり得る訳です。そうなると、どうしても、式のない関数を使わなければなりません。)

・しかし、中学校数学や高校数学では、関数と式は一まとまりになっていて、関数の中身がどういうものか、念入りに見れば分かるようになっています。具体的には、f(x)=ax+by+…+cみたいな書き方になっていますね。
中学校数学や高校数学では、関数の中身が何なのかが、教師には分かっていて、ちゃんと答えられる性質のものなので、問題で聞かれる訳です。ということで、式の右辺、”=…”もきちんと説明出来なければなりません。
そういう意味では、中学校数学レベルの関数のように、式のある関数の方が、大学数学レベルの関数のような式のない関数よりも扱いやすいです。

●「大雑把な図形」の例としての関数のグラフ

・さて、線が2本あれば面が描けるのでした。
 面の中に線が3本あるとします。横線、縦線、その他の線とします。(その他の線は直線でも曲線でもOKです。横線と縦線は簡単のため直線とします。)
 横線と縦線を固定して、前言ったように実数と実数、あるいは実数と虚数を対応させてみます。面の章の座標軸の話を思い出して、横線をx軸、縦線をy軸と見なします。そして、横線(x軸)の数値をx、縦線(y軸)の数値をyと表してみましょう。
すると、その他の線の上の点は常に「横にx、縦にy」と表せます。この点を(x,y)と書きます。この(x,y)のことを座標(ざひょう)と言います。(なお、3次元空間の場合の座標は(x,y,z)となります。)
つまり、これを無限大にたくさん連続させれば、その他の線そのものを描いたのとほぼ同じ意味になります。

・「『数』xを『入れたら』、xを演算する際のルールf(x)に従って、『数』yが『出て来る』」関数を考えてみて下さい。
これは大学数学レベルの関数ですが、入力も数なので、より条件が狭いですね。
ですが、これにより、さっき言った「面の中のその他の線」を使って、見やすい形で描くことが出来てしまいます。全部数なんだから線で量的に表せる訳です。ここで座標軸や座標が役に立って来る訳ですね。
こういう観点でとらえた、「面の中のその他の線」を、関数のグラフと言います。
・「面の中のその他の線」はいろんなバリエーションがありますが(さっき説明した輪ゴムもそうです)、見ての通り、それぞれ線という意味では「大雑把な図形」の一種です。つまりは、関数のグラフというのは「大雑把な図形」の一種だと思ってもらって結構です。

関数のグラフは視覚的なので、見やすい、という絶大なメリットがあります。
 特に、関数のグラフが簡単な線だと、見た瞬間にどういう性質のものかはほぼ分かります。
とりあえずは関数を関数のグラフでも式でも両方描けるようにしておいてください。ある日この辺の、関数と関数のグラフと式を対応させるセンスがスーッと降りて来て、その後だいぶ楽になってきます。まあ慣れましょう。

●「グラフ」という語には4種類の意味がある

・実は、「グラフ」という言葉には4種類の意味があるのですが(4種類もあるんですよ。面倒ですね)、高校数学では「関数と対応する、座標軸のある面の中の線」という意味でしか使いません。これが「関数のグラフ」です。
・小学校算数の時には「折れ線グラフ」とかやりましたね。これの話はV.積分編の確率の章で少しだけ行います。
この2種類のグラフは空間能力と関係があるので、視覚的に表わすものです。
・ちなみに、大学数学でやるようなグラフはもう2種類あり、視覚的に表わすこともよくありますが、定義そのものは空間能力とは関係ありません。ここはちょっと気を付けて下さい。
これらのうち片方については、実はB参考編のI.集合編の集合の章と演算の章で、既に説明してあります。(注:noteではB参考編は後回しにしてあります。)関数のグラフを抽象化した「対応のグラフ」というものです。
なお、もう片方の、節点(node)と枝(edge)によって出来ている「グラフ理論のグラフ」については、説明が面倒なので、飛ばします。
・とりあえず、この章で論じられている「グラフ」とは「関数のグラフ」のことである。ということさえ認識していただければ結構です。

・改めて、

(初歩的な空間としての)線→(高度な空間としての)面(や3次元空間)→((「大雑把な図形」としての)位相多様体→)関数のグラフ

というロードマップを覚えておくか、ときどき見返しておいてください。

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