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本当にあった(かもしれない)怪談百物語 2.深夜徘徊

「深夜徘徊」

 当時、ぼくは寝付きの悪い人間で、夜中日付が変わっても眠気が来ないことがよくありました。
 
 そんな時は決まって、深夜の散歩に出かけます。ぼくはそれを、自分で深夜徘徊と言っていました。

 近場のコンビニに行って立ち読みしたり、マンションの周辺をぐるっと回ってみたり。特に目的もなく出かけて、適当に歩いて程よく疲れたら布団に入る。

 それが眠れない時の対処法でした。

 その日はいつもより妙に元気が有り余っていたので、少し遠出をしてみようと思い立ちました。

 スマホのマップを開いて適当に縮小したら、ちょっと離れたところに大きめの公園があったんです。

 今まで行ったことのない場所だったし、マップで見たら公園をぐるっと一周できるランニングコースがあるっぽかったんで、そこに行ってみることにしました。

 マップでは結構離れているように見えましたが、実際歩いてみるとそこまで遠いって程でもなくて、10分ちょっと歩いてたら入り口が見えて来るくらいでした。

 思ってた以上に広い大きな公園でした。外周には敷地を囲うようにぐるっと木が植っていて、公園の中は見える範囲だけでも噴水や広場、高台みたいになっている場所もあって、反対側は見えないぐらい離れていました。

 その敷地を大きく一周できるように舗装されたランニングコースが続いている感じだったんで、ぼくは、とりあえずそのランニングコースに沿って歩いてみることにしました。

 しばらく歩いていると、夜中だというのにランニングしている人や、単純に公園を通り抜けているだろう人とすれ違うことはありました。でも深夜の12時も過ぎているということもあって、人気はほとんど無くて静かでした。

 初めて来た場所ということもあり、物珍しさから脇道に入ったり噴水に近づいてみたりしながら、いろいろ眺めながら公園内を回ってみました。

 ぼくは、いい場所見つけたなとか、今度から深夜徘徊はここに来ようかなとか、そんなことを考えながら歩いていました。

 気がつけば30分以上時間が経っていて、いい感じに眠気が来そうな感じもしていましたし、ちょうど公園を一周しそうだったので、そろそろ帰ろうかなと思いました。

 ふと前を見ると、誰かがランニングコースの真ん中に立っていました。。

 街灯が逆光になっていて顔とかは見えませんでしたが、シルエットで背が低めの男の人だろうなってのはわかりました。

 その人は、今まですれ違った人たちとは違って、歩くでも走るでもなく、その場でふらふらしていました。

 酔っ払いかなぁ。

 ホームレスかなぁ。

 絡まれたら嫌だなぁ。

 引き返そうかとも思ったんですけど、1番近い出口はその人のすぐ向こうだし、別の出口はだいぶ離れてたんで、そのまま通り抜けることにして、ちょっと早足になりながら出来るだけ横に避けて、その人の方に近づきました。そしたら、

「誰だぁ…」

「誰だぁ…」

 って、その人がぶつぶつ繰り返してたんです。

 その時点で、ヤバいやつだ!ってなって、そっちを見ないようにしてました。
 
 公園を出たらダッシュで帰ろう。

 そう思って出口の方に曲がろうとした、その時でした。 
 
 グンって、襟のところを引っ張られたんです。思いっきり。

 勢いでぼくは後ろに倒れてしまって、舗装に思いっきり背中をぶつけちゃって、その時はなにが起こったかまだ分かってなかったんで、

「いったぁぁぁぁぁっ!」
 
 って、その場で悶えてたんです。で、起きあがろうとしたら、

 ドスンッ!

 って感じで、お腹に重いものが乗ってきて。

 なんだって思って顔を上げたら、そいつがお腹の上に座ってたんですよ。よく怖い話系のドラマで金縛りにあった人の上に幽霊が座ってたみたいな、あんな感じで。

 なんで、とか、ヤバい、とか、いろんなことで頭いっぱいになってパニックになっちゃって、反応できない間にその人が、ぼくの頭を両手で、こう、こんな感じで持って、

「お前かぁ!?」

「お前なんか!?」

「お前がやったんかっ!?」

 って、ぼくの頭を上下に振り回し始めたんです。

 咄嗟に頭守んなきゃって思って、自分の手で抱えたんで頭をぶつけることはなかったんですけど、その代わり手と背中を力一杯舗装に叩きつけられて、痛いし意味わかんないし、とにかく逃げなきゃって、抜け出そうとしたんですけど、びくともしないんですよ。

 細身のおじさん、だったと思うんですけど、それなのにすごい力で、頭潰れるんじゃ無いかってくらいぎゅぅって掴んでるし、体重かけて乗られてるからお腹苦しいし、もう必死で叫びました。

「違います!」

 なにがって話ですよね。そもそもなんのことかわかんないし。

「お前かぁ!?」

「違います!」

「お前なんか!?」

「違います!」

「お前がやったんか!?」

「違います!」

 って、目瞑って頭抱えてとにかく叫びまくりました。そんなやりとりを何往復かしてたら、突然、その人の手が止まったんです。

 恐る恐る目を開けてみたら、顔がね、目の前にあったんです。気持ち悪い言い方ですけど、ほんとこんな、キスされるんじゃないかってくらい近いんですよ。

 で、ぼくの顔をしばらくジロジロ見た後、

「違うなぁ…」

 って言って、ぼくのこと放り出して、そのままふらふら〜って、どっか行っちゃったんですよ。

 意味わかんなくないですか?

 ちょっとびっくりし過ぎてしばらく動けなかったんですけど、とにかく帰ろうって思って、ダッシュで家に帰りました。

 部屋について明るいところで見たら、腕は傷だらけだし服は破れてるし、最悪でした。

 それからその公園にはもちろん行ってませんし、怖くなって深夜徘徊もやめました。


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