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本当にあった(かもしれない)怪談百物語 5.喪服の女

「喪服の女」

私が初めてその女を見たのは、10歳くらいの頃でした。

もしかしたらもっと前にも見ていたのかも知れませんね。ただ私が覚えている中ではそれが最初です。

その女は、咽頭ガンで死の淵にいる祖父の傍らに、喪服を着て立っておりました。

病室に喪服で訪れる非常識さもさることながら、その女の持つ異様な雰囲気から、私は子供ながらにもそれが見てはいけないものであると察していました。

祖父が亡くなったのは、その女が現れて数日後のことでございました。

次にその女を見たのは数年後、近所に住む老夫婦のそばに立っておりました。

祖父の時のことが思い起こされた私はその老夫婦を気にかけておりましたが、やはり数日後に、ご主人が老衰でお亡くなりになりました。

その後も、伯母が肺炎で亡くなる時も、友人が難病で早世した時も、祖母が老衰で亡くなる時も、いつもその女は現れました。

何度も目にするうちに、私はその女が、寿命や病で死期の近いものの傍に現れることを理解していました。

同時に、事故や自殺、事件などで突発的に命を落とす場合には現れないことも。

きっと死をもたらす死神というより、死期に合わせてお迎えに訪れる天使のような役割なのだと、そう思いますと意外と恐れはございませんでした。

数十年、何度も目にして参りましたけれど、ついに私も癌で余命を宣告されましてね。

どこかは伏せさせてくださいな。

女としての最後のプライドでございます。

それで数日前から、私の傍におられますの。あの喪服の女性が。

今ももちろん、隣におられますわ。

「まだなの」

「まだなの」

 って囁きながら。


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