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本当にあった(かもしれない)怪談百物語 3.お姉ちゃん

「お姉ちゃん」

 これはわたしのお姉ちゃんの話です。

 わたしには、お姉ちゃんがいました。

 お姉ちゃんはとても優しくて、お母さんが忙しくて構ってくれない時は一緒に遊んでくれたり、わたしが泣いていたら必ずそばにいて慰めてくれて、そんなお姉ちゃんがわたしは大好きでした。

 お姉ちゃんがいなくなったのは、わたしが小学校に上がるくらいの時です。

 その頃のわたしは友達のいないひとりぼっちの子供で、なぜかクラスでも遠巻きにされて、声をかけてくれる子もいなくて、みんなが仲良さそうにしているのを羨ましいなって思いながら、でもわたしにはお姉ちゃんがいるからいいんだって、そう思っていました。

 だけどある時、クラスの女の子3人から声をかけられたんです。放課後一緒に遊ばないかって。

 わたしは初めてのことに戸惑いましたが、声をかけてもらったのが嬉しかったし、結構強引に誘われたのもあって、家で待っているお姉ちゃんのことが気になりながらも一緒に遊ぶことにしました。

 その子たちは、遊びながらいろんなことを教えてくれました。

 わたしが、一人で喋っている変な子だから遊ばないように親から言われていたこと。

 学校ではそんな様子がなかったから、一人で可哀想だし誘ってくれたこと。

 こうして遊んでみると、全然変な子じゃないってこと。

 わたしは言われていることがちゃんとわかっていなくて、学校でお友達ができたことをただ喜んでいました。

 夕方まで公園で遊んで、また遊ぶ約束をしてその子たちと別れたわたしは、帰ったらお姉ちゃんになんて話そうか、なんて考えながら家に帰りました。

 家に帰ったら、お姉ちゃんはいませんでした。

 わたしはお姉ちゃんを呼びながら家中を探し回りましたが、どこにもいませんでした。

 その時母が帰ってきて、わたしは母に訴えました。

「お母さん、お姉ちゃんがどこにもいないの」

 すると母は泣き崩れ、わたしを力一杯抱きしめました。

 泣きながら、ゆっくりと言い聞かせるようにわたしに話してくれました。

 わたしは一人っ子で、初めからお姉ちゃんはいなかったんです。

 イマジナリーフレンドって言うんですよね。実在しない空想上のお友達を生み出してしまうことが子供にはあるらしくて、わたしの場合はそれがお姉ちゃんだったんです。

 後から考えたらいろいろとおかしな点はあったんですよね。わたしはお姉ちゃんのことをお姉ちゃんと呼んでいましたが、名前を聞いたらわたしと同じ名前だと言うし、いつもわたしと同じ服を着ていました。

 たぶん友達がいなかったわたしには、自分以外に参考にできる相手がいなかったから、自分をそのまま投影してしまっていたんでしょうね。

 わたしは、当時はまだイマジナリーフレンドのことをちゃんと理解できなくて、ただお姉ちゃんはいないんだ、もう会えないんだって、それが悲しくて、母と一緒に大泣きしてしまいました。

 しばらくはいなくなってしまったお姉ちゃんを思い出して泣いてしまうことが続きました。しかし時間が経つにつれその回数も減っていって、徐々にですけど、お姉ちゃんはいないってことをちゃんと受け入れることができました。

 きっとお姉ちゃんは、友達がいなくて寂しかったわたしの心が、わたしを守るために作り出した幻だったから、友達ができたことをきっかけに消えてしまったんだって。

 そう思ってたんです。この間までは。

 ……先日、病気で母が亡くなりました。

 その遺品を整理していたときに、見つけたんです。

 とても古い、母の日記を。

 最後の日付は、わたしが生まれるよりもずっとずっと前でした。

 そこに書かれていたんです。産まれることができなかった、わたしのお姉ちゃんのことが。

 そんな話、父からも母からも聞いたことがなかったので本当にびっくりしました。でもなにより驚いたのが、当時母がお姉ちゃんに付けようと考えていた名前が、わたしと同じ名前だったことです。

 亡くなった子と同じ名前を、そのままわたしに付けていたんです。母は。

 それ自体を責めるつもりは全然ありません。

 ただ、どうしても思ってしまうんです。

 あの日、お姉ちゃんが消えた日に母が泣き崩れたことや、父や母がわたしの作り出したお姉ちゃんに話を合わせてくれていたこと、なによりお姉ちゃんの名前がわたしと同じだったことを思うと、お姉ちゃんは本当に、わたしの空想の存在だったのかなって。

 もしかしたら、友達ができて必要なくなったわたしが見なくなっただけで、お姉ちゃんは今も一人ぼっちでわたしのそばにいるんじゃないか。

 そんな風に、考えてしまうんです。


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