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本当にあった(かもしれない)怪談百物語 1.入ってる

「入ってる」

 これは、ぼくが大学3年生の時の話です。

 当時ぼくは、所属している映研サークルの部長をしていました。

 映研と言っても、まともな活動は一年に一本、学祭のための短い自主制作映画を作るくらいのもので、普段はお気に入りの映画を持ち寄って部室でダベってるような、そんなゆるいサークルです。

 その年は勧誘を頑張った甲斐もあって、毎年1人2人が良いところなんですが、新入部員が5人も入ってくれました。

 その中の一人に、加藤ってやつがいたんですよ。よく言えば明るいムードメーカー、ぶっちゃけただのお調子者なんですけど、今回お話しするのは、ぼくが体験した話って言うか、この加藤が体験した話なんですよね。

 加藤が入部してすぐ、新入部員にある課題を出したんです。そんな難しいものじゃなくて、『なんでもいいから5分以上の映像を撮ってくる』って簡単なもの。たまに他のサークルから撮影の依頼が来るんで、どれくらい撮れるのか知っておくために、毎年やってることです。

 サークルのハンディカムを貸し出して、一週間後に提出する様に言いました。その時は加藤も、結構乗り気だったんですけどね。

 課題を出してから土日を挟んだ、翌週の月曜日だったと思います。加藤から連絡がありました。

「ちょっと見てほしいんですけど」

 その時は、早めに課題が終わったから出来を見て欲しいって意味だと思いました。実際、他にもそういう子はいましたし。

 でも、待ち合わせた映研の部室に入ってきた加藤を見て、すぐに違うってわかりました。

「先輩…俺、やばいの撮っちゃいました…」

 深刻そうな声でそう漏らす加藤の顔は青褪めていて、貸し出したハンディカムを握る両手が小さく震えているのがわかりました。
 いつものおちゃらけた感じは全然無くて、マジなんだなって思いました。

「いったいなにを撮ったんだよ、お前は」

 半分呆れながら、半分はビビりながら、加藤に聞きました。

「……声。変な声が入ってるんです」

 日曜日に自分の部屋で課題用の動画を撮ってみたら、動画の中に変な声が入っている、というのが加藤の話でした。

「とにかく見てくださいよ」

 加藤がそう言うので、ぼくと、たまたま部室にいたもう一人別の部員と3人で、その問題の映像を見ることになりました。

「映ってますかー?」

「はーい」

「オッケーかな?じゃ、行きまーす」

 そんなやりとりから始まったその映像自体は、めちゃくちゃくだらない内容でした。

 加藤の部屋で、加藤がひたすら一発ギャグを繰り返すだけ。しかも全部どっかで見たことあるようなやつばっかりで、全然面白くなかったんですよね。

 で、問題の変な声っていうのが、ぼくには全然わかんなかったんですよ。加藤の連発するつまんないギャグと、動画を撮影している加藤の彼女っぽい女が囃し立てる声しか入ってなくて、おかしなところはなにもなかったんです。
 
 もう一人の部員の方も同じみたいで、ぼくらはお互い顔を見合わせて首を傾げていました。

 それなのに、加藤は動画を見ながら、

「ほら……聞こえる…」

「はっきり聞こえるでしょ」

 そう言って耳を塞いで震えていました。

 ぼくともう一人はますます訳がわからなくなりました。加藤だけに聞こえている何かがあるんじゃないか。そう思って、ぼくは加藤に聞きました。

「お前、なにが聞こえてるんだよ。なにも変な声なんて入ってないじゃないか」

「まじで言ってんすか!?めっちゃ入ってるじゃないっすか!」

「俺らなんも聞こえないし、お前なんか疲れてんじゃないか?」

「なんで聞こえないんだよっ!?こんなはっきり聞こえてんのに!」

 泣きそうな声で頭を抱える加藤に、ぼくももう一人も、やっぱりコイツやばいんじゃないかって空気になって、とにかくなんか言わなきゃって焦って声をかけたんです。

「ホントに大丈夫だって!お前と彼女の声しか入ってないからさ」

 って。そしたら、

「違うっ!!」
 
 いきなりのことで、ぼくらは呆気に取られました。

 当の加藤は叫んだ後、バツの悪そうな顔になって、ポツリと零しました。

「俺、彼女いないし……。それに、俺、この時一人だったんですよ」

 ぼくらはなにも言えませんでした。

 だって、めちゃくちゃはっきり女の声が入ってるんですよ。まるでその場にいて普通に喋ってるみたいに、はっきり。

 気味悪くなってもう一人を見ました。そいつもなんか引きつった顔でぼくを見ていました。

「いやいやいや。さすがにないでしょ」

「お前、いたずらにしたってタチ悪すぎ」

「いやマジなんですって」

 そんなことを言い合いながら、動画を止めようとした時に、ぼくはあることに気づいて背筋がゾクッとしました。

 幸いもう一人は気づいてなかったので、あえて教えることもないだろうと思って、そのまま動画を消しました。画面を、って意味じゃ無くて、データ自体を。

 その後カメラ自体も処分しました。結構新しめの機種だったしもったいなかったけど、やっぱりなんか気味が悪かったんで。

 ちなみに加藤になんかあったってなんてオチはありません。女の幽霊に襲われたなんてこともないし、不幸に見舞われたりとかもなんにもありませんでした。

 本人も一ヶ月ぐらいでけろっとして、合コンでの鉄板ネタにしてたくらいです。

 そんなんだから、ぼくと一緒に動画を見たやつはずっと、加藤のいたずらだったんだろうって疑ってましたけどね。

 でもね、ぼくはいたずらじゃなかったと思いますよ。

 だって、動画の加藤の部屋の姿見に、テーブルに置かれたビデオカメラが映ってたんですよ。

 もちろんそばに誰もいない状態で。

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