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『スマイルカメレオン』第3笑

「私、[バンド・デシネ]をフランスの漫画の事だと知らなくて、死ぬまでバンドを続ける人の事だと思ってたんですよ。音楽の殉教者みたいな。」

「ジョン・レノンや忌野清志郎みたいな人の事かな?」

「そんな感じです。春さん、無趣味と言っている割には音楽にやたらと詳しいですね。楽器とかやってたんですか?」

「大学の時の友達が詳しかったんだよ。」

春は4年間ほぼ毎日、隣で喋り倒していたカシマシい友達を思い出しながら、言った。

平日の昼下がり、仕事の休憩時間中に春はフラワーショップ【空】に来ていた。店内にある色とりどりの花の甘い香りが混ざる空間に香ばしいコーヒーの香りが漂っている。ここでは、花と一緒にコーヒーとサンドウィッチなどの軽食も提供していた。テイクアウト専門なので、春は昼食をたまにここで買っていた。

春は何度か【空】に来ていたが、まだ、店長に会ったことがなかった。店員はバイトの椿 花しかおらず、店が暇なせいか春はよく話しかけられた。
「今日も店長は居ないの?」

「店長は花の配達に行っている事が多いです。今は花の定額サービスをやってまして、毎月の花の手入れは私達がして、新鮮な花を数ヶ月毎にお客様のご自宅や職場にお届けしてます。」

「花を飾りたいけど、育て方が分からない人も多そうだから、気軽に利用できるサービスがあるのはいいね。ウチのアネモネもおかげさまで枯れずに育っているよ。」

「それは良かったです!これから、暖かくなってきたら、水は小まめに見た方が良いですね。」

花は満開の笑顔で言う。それぞれの場所で育つ子どもの成長を喜ぶ母親の様な雰囲気である。
春はブラックコーヒーを飲みながら、店内に流れる音楽に耳を傾ける。

「ここの花屋は、日本語歌詞の曲がよく流れてるよね。今、流れてる曲は何て曲?」
春の友達はロックンロールしか聴かないため、春はそれ以外の曲をほとんど知らなかった。

「今、流れてるのは【ZARD】の『心を開いて』ですね。私が産まれる前の曲ですけど、母がよく聴いていたので、私も大好きな曲です。この曲流すと、蕾の花も咲きそうじゃないですか?」

「今、開花したら、まだ寒いでしょう。」

「春さんは風情がないですね!そこは、お世辞でも『そうだね。』とか言うべきでしょ。」

「誰かさんから、愛想笑いを禁止されているのでね。」
春は不敵な笑みで言う。

「❗️くっ・・・、それはそうと春さんはブラックコーヒーばかり飲みますが、甘い物は平気ですか?」

「う〜ん、甘い物は苦手だな。」

「😏。それなら今度、大量のチョコレートをプレゼントします。」

「何、その嫌がらせ・・・」

春の様なポカポカした陽気が眠気を誘う2月10日の昼下がりの出来事だった。

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