好きな比喩のまとめ①
話すと長くなりますし、話したところで特に意味はないので割愛しますが、小説はじめ様々な文章で用いられる比喩表現が好きです。
あとシンプルだけど含蓄のあるメッセージが込められたのも好きです。
これらにあてはまるもので、個人的に気に入った文章を載せていきます。
ーー
(1)蹴りたい背中-綿矢りさ
さびしさは鳴る。耳が痛くなるほど高く澄んだ鈴の音で鳴り響いて、胸を締めつけるから、せめて周りには聞こえないように、私はプリントを指で千切る。
(2)砂の女-安部公房
欠けて困ることなど、何一つありはしない。欠けて困るようなものばかりだったら、現実はうっかり手も触れられない、危なっかしいガラス細工になってしまう。
(3)砂の女-安部公房
入れ墨やバッジや、勲章を欲しがるのは、信じてもない夢を、夢見ているときだけのことである。
(4)人間失格-太宰治
弱虫は、幸福をさえおそれるものです。綿で怪我をするんです。
(5)OUT-桐野夏生
「ね、人間、転がるのなんて簡単だね」 ヨシエがつぶやくと、雅子は気の毒そうにヨシエを見た。 「そう。あとはブレーキの壊れた自転車が坂道転がるようなもんだよ」 「誰にも止められないってことかい」 「ぶつかれば止まるよ」 自分たちは何にぶつかるのだろう。この先、曲がり角の向こうには何が待っているのだろう。ヨシエは恐怖に戦いた。
(6)グロテスク-桐野夏生
大人になっていないわたしたちは、傷付けられるのを何かで防御し、さらには攻撃に転じなくてはならないのです。やられっ放しではつまらないし、屈辱を抱えたままでは、この先、長い人生を生きていけなくなってしまうかもしれない。だから、わたしは悪意を、ミツルは頭脳を磨くのです。そして、ユリコは幸か不幸か、最初から怪物的な美貌を与えられました。でも、和恵は何もないし、磨かない。ええ、わたしは和恵に同情なんかしたことはありません。和恵はどう言ったらいいのか、つまり、この厳しい現実というものに対して、無知で無神経で無防備で無策なのです。どうして気付かないのでしょう。
(7)春と修羅-宮沢賢治
わたくしといふ現象は 仮定された有機交流電燈の ひとつの青い照明です。 風景やみんなといっしょに せはしくせはしく明滅しながら、 いかにもたしかにともりつづける 因果交流電燈の ひとつの青い照明です。
(8)車輪の下-ヘッセ
疲れきってしまわないようにすることだね。そうでないと、車輪のしたじきになるからね。
(9)デミアン-ヘッセ
「愛は願ってはなりません」と彼女は言った。「要求してもなりません、愛は自分の中で確信に達する力を持たねばなりません。私は贈り物をあげません。私は獲得されたいのです」
(10)デミアン-ヘッセ
いまは誰もが大きな車輪にまきこまれるだろう。きみもきっと兵隊に取られるよ。
(11)荒野のおおかみ-ヘッセ
どんな種類の人間でも、それぞれの特徴、記号を、それぞれの美徳と悪徳を、永遠の死に値する罪を持っている。
(12)限りなく透明に近いブルー/村上龍
血を縁に残したガラスの破片は夜明けの空気に染まりながら透明に近い。限りなく透明に近いブルーだ。僕は立ち上がり、自分のアパートに向かって歩きながら、このガラスみたいになりたいと思った。
(13)テニスボーイの憂鬱-村上龍
いつもキラキラしていろ、他人をわかろうとしたり、何かをしてあげようとしたり他人からわかって貰おうとしたり何かをしてもらおうとしたりするな、自分がキラキラと輝いているときが何よりも大切なのだ。それさえわかっていれば美しい女とおいしいビールは向こうからやってくる。
(14)走ることについて語るときに僕の語ること-村上春樹
僕が僕であって、誰か別の人間でないことは、僕にとってひとつの重要な財産なのだ。心の受ける生傷は、そのような人間の自立性が世界に向かって支払わなくてはならない当然の代価である。
(15)金閣寺-三島由紀夫
どうぞ我が心の中の邪悪が繁殖し、無数に殖え、きらめきを放って、この目の前のおびただしい灯と、ひとつひとつ照応を保ちますように!それを包む私の心の暗黒が、この無数の灯を包む夜の暗黒と等しくなりますように。
(16)伊豆の踊り子-川端康成
この美しく光る黒眼がちの大きい眼は踊子のいちばん美しい持ちものだった。二重瞼の線が言いようなく綺麗だった。それから彼女は花のように笑うのだった。花のように笑うと言う言葉が彼女にはほんとうだった。
(17)伊豆の踊り子-川端康成
窓閾に肘を突いて、いつまでも夜の町を眺めていた。暗い町だった。遠くから絶えず微かに太鼓の音が聞こえて来るような気がした。わけもなく涙がぽたぽた落ちた。
(18)TSUGUMI-よしもとばなな
そんなことばかりいっていると、何かが足りない、と言いながら棺桶に入ることになるわよ。
(19)きらきらひかる-江國香織
どうしてこのままじゃいけないのかしら。このままでこんなに自然なのに。
(20)老人と海-ヘミングウェイ
もはや、老人の夢には、暴風雨も女も大事件も出てこない。大きな魚も、戦いも、力くらべも、そして死んだ妻のことも出てこない。
夢はたださまざまな土地のことであり、砂浜のライオンのことであった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?