私のような私ではないもの

年末に免許の再取得をしてきた。鮫洲の。
私の免許の更新月は9月なんだけど、去年の9月の自分は鬱という地獄からの脱出を目指して、自分ができるペースで、ひたすらにもがき続けていた時期だった。メンタル的にも不安定だった。
免許の更新というのは難易度が高かったのでその時は行かなかった。更新期限から3ヶ月以内なら免許は一旦失効しても再取得ができるという事を知っていたからだ。
昔チュートリアル徳井が番組でそんな事を言っていた気がする。本当は免許失効から6ヶ月までは試験なしで再取得できるのだけど、失効から3ヶ月を超えてしまうと手続きがものすごく面倒臭くなるらしい。徳井ではない?ならあいつだきっと。ええと…誰だったかな…

年を越したら3ヶ月が過ぎてしまう。ヤバい…と気がついたのは鮫洲に行く前日だった。
焦りながらも自分を楽しませる意味で「わっしょいわっしょい急ぎまっしょい…♪」と超小声で唱えながら申請必要事項を確認する50前の中年の男。キモいだろうか。
だいじょーぶだよ…よく見ればそんなキモくないよ?と近づこうするほど後退りしてゆく人々。中年の哀しみである。
「あのババァなんかキモいよね!」
とか誰かが言ってるのを不意にどこかで聞いてしまったら自分じゃなくても泣きたくなってくる…

ていうかあんな本当のどん底の鬱だったのになんなんだこのテンション。
オレって4度目の地獄見る前ってこんなテンションの人間だった…?双極性障害や解離性障害を疑う。実際疑っているので調べている所でもある。
ただ今回の地獄でのもがきはかなり具体的に効果があった。手応えを実感できたので、私がどうやって心の地獄から抜け出すことができたかは機会を改めて書きたい。みんなの心の地獄からの生還を待つ。


年末最終営業日、12月27日水曜日朝、コンビニで買ったおむすび2個を両手に持って鮫洲のエントランスにいつものペースで滑り込んだ。
どーよ…。まだ最終受付14:00まで4時間もある。私の勝利(免許の再取得の期限には間に合いそう)だ。
時間的余裕をカマせる様になった50目前の男、当たり前か。さすがに50前になったらこの位できて。


話を戻そう。
免許証の再取得時には、実際に免許証に載る写真とは別途、なぜか申請用の証明写真が必要になる。なんで?…なんかあるようだ。多分司法的な何かだ。

センターの隅に証明写真コーナーがあって、駅前に大体よくあるプリクラの成り損ねみたいな例の撮影機ののれんを潜って3!2!1!まぶしッッ!

落ちてこい、落ちいでよ証明写真。程なく落ちいでてきた証明写真っ!そこに写っている自分の顔が、「並行世界でのお前はアンガールズの3人目のメンバーだぞ」とでも言っているかの様な顔をして写っている。ビジュアル的にかなり強い違和感。
(このセンテンスでは語り口がなぜか古舘伊知郎になっている)

嘘だろ…。現実世界でのオレはもうちょっとはいい面構えのはずだぞ。若い時ちょっとはモテてたし…!
…待て。さてはお前、オレではないな。
お前、一体何者だ?
という感じで自分で撮った自分の証明写真としばらくの間メンチを切り合った。


自分の顔写真を撮られるのが嫌な人って割と多いと思う。そして撮られるのが嫌な理由って、ひょっとしてこの違和感のせいではないか。

YouTuberが撮影時に映像の左右を反転させているのは編集上の都合によるもの、とどこかで読んだけど、鏡面反転した自分の顔と、毎日鏡に映る見馴れた自分の顔との見た感じの激しい乖離感と違和感、これも理由のひとつなのではないか。

録音された自分の声に覚える違和感、これにも似たものを感じる。
私が高校生の頃、多分1992年。文化祭の催しで使うナレーションの吹込みをカセットテープで録音した。録音係のオレ。ツルドメ君、ツルの声を録音した。かなりガタイの良い男のはずのツルが、「えっ…オレってこんな声してんの?!嘘だろ…。え…イントラにもオレの声ってこんな風に聞こえてんの…?」「うんまあこのまんまって感じ?」と答えたら、彼は柄にもなくやけにショックがっていた。

本当の自分って人からはどうやって見えてんの…本当の自分が分からない!そんな不安。
人は自身の自己認識と、自身では認知不可能な実存との間のギャップに結構悩んでいるのではないか。私も。

えっ、自分って人からそんな人間だと思われていたの⁉ショック!

と一通り書いてはみたけど、高々免許の再取得ごときで話盛りまくって大袈裟な奴だなコイツ。と私のゴーストが囁いている気がする。

囁くのよ 私の ゴーストが。大袈裟なヤツだ、って。 草薙素子


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