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第4回:思い出し笑い「Buon viaggio! 山陽さん」(&ツルコ)

落語#57 『鼠小僧とサンタクロース』COCJ-33307-kanda-sanyo


第4回:Buon viaggio! 山陽さん

執筆者:&ツルコ
*intoxicate vol.57(2005年8月発行)掲載

お暑うございます。このあつぅい最中にサンタクロースの話題ってどうよ、なんですが。少しでも涼しい気分になっていただけるかと。二一世紀の講談界を背負って立つ男、あの神田山陽の名作講談『鼠小僧とサンタクロース』が、ついにCDで登場なんですよ! 快挙。

 『鼠小僧とサンタクロース』は、八年前に山陽さんがつくった新作講談。冬の江戸の町にサンタクロースがやってくる、なんとも奇想天外なお話ですが、雪のちらつく上野の五重塔でのサンタと鼠小僧の出会い、浅草寺の仲見世をひゅーんと飛んでいくトナカイのソリ、江戸城のてっぺんにちょこんと座って芝浜の夜明けを眺めているニ人の姿など、ありえない光景なのにそれがありありと目に浮かぶ描写の見事さは、山陽さんならでは。   

 CDでは、まず山陽さん自らがこの話の誕生秘話を解説、その後に、ニ年前のイヴェントintoxicate SAKURA chil out the flowers 05に出演したときの『鼠小僧とサンタクロース』がライヴ感たっぷりにコラージュされています(ちなみにこのときは、つじあやのさんや高田渡さんらそうそうたる人たちが出演。そこに講談が登場っていうので、どうなることかと明子ねえちゃんのような気持ちで見守っていたのですが、話が進むにつれ、講談初体験のお客様がどんどん引き込まれていく様子を目の当たりに見て、その芸の力に改めて感嘆したことでした)。予告編のようなライヴ・コラージュ後、一転して本編の一席。落語のCDなどは、落語会や寄席での口演を収録したものが主流ですが、今回はあえてスタジオで一人だけの語り下ろしに挑戦。

 「この話はもう四百回以上高座にかけてますし、馴れもあって、ライヴでやればごまかしもきく。でも自分はいつも一人のためにという気持ちで語ることを心掛けているのでCDにするのであればぜひそういうものをつくりたかったんです」

 こまやかな描写や語りの妙など、じっくり聞き込み、情景を思い描きながら、物語の世界にひたることができる。これはぜひ、大人も子供もおためしいただきたい逸品です。

 そしてこのCDは、この夏から一年間、文化庁が派遣する文化交流使としてイタリアへ旅立つ山陽さんが、一区切りの意を込めて臨んだ作品でもあるのです。

 なぜ、どうしてイタリア? 二○○二年に神田山陽を襲名してからの活躍は、ご存じのとおり、『情熱大陸』にも出ました、映画『壬生義士伝』にも出演しました、NHK教育テレビの『にほんごであそぼ』でその人気は全国区に! そんななか、二○○三年に日伊文化交流の一環でイタリアのローマ・アブスルダ・コミカ劇団が来日した際に、山陽さんが日本語解説を務め、出演もしたのが縁のはじまり。そこの団員さんに、イタリアにも、即興性があり、風刺のきいた古典的な一人芝居があるときき、興味をもったのだそうです。

 「こちらも五百年の歴史をもつ講談ですから、その芸が異国の地でどこまで受け入れられるのかをためしたい。イタリアは歴史のある国ですが、古い、新しいの分け隔てなく評価を下してくれるんじゃないかと思ってます。いまは、いくつかの講談をイタリア語で語れるように準備してます」

 語りの芸で、単身乗り込んでいくって、かっこいいじゃありませんか! イタリア語での講談も聞いてみたいですが、講談や落語など、言葉がメインの芸を他国語で演じるのは並大抵なことではないですよね。最近では、落語でも英語で演じる噺家さんもいますし、韓国語の落語に取り組んでいる人も。「時そば」など聞いたことのある落語の場合、英語で言うとどうなるの? という興味で聞けるので、これが意外と面白かったりして。噺家さんにとっては芸のよしあしがごまかせるっていうメリットもあり?

 イタリアにお知り合いがいる方は、ぜひ教えてあげてください。日本から講談師・神田山陽が参ります。ご一聴を、と。こちらは一年間、ちょっとさびしくなってしまいますが、CDを聞いて待ってます。帰国したら、ジローラモさんと一緒に『イタリア語講座』に出演ですかね? 講談に魅せられたイタリア男が、弟子入り志望で来日、なんてこともあるかも!? ニッポンの講談子のご活躍、心よりお祈りしています!


CD『鼠小僧とサンタクロース』
神田山陽
[コロムビア COCJ-33307]
CD/DVD『英語落語』
桂あさ吉/大島希巳江/林家いっ平
[ビクター VICG-60564] CD
[ビクター VIBG-6] DVD

思い出し笑いライン


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