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【食品まつり a.k.a foodman】アジフライ、道の駅、サウナなどに触発された電子音楽家が〈ハイパーダブ〉から新作をリリース

アジフライ、道の駅、サウナなどに触発された電子音楽家が〈ハイパーダブ〉から新作をリリース

食品まつり a.k.a foodman『やすらぎランド』
interview & text:土佐有明

食品まつりa.k.a. foodman(以下、食品まつり)は、海外の名だたるレーベルから作品をリリースしてきたDJ/プロデューサー/ミュージシャン。ピッチフォークでもアルバムを絶賛されるなど、グローバルに活躍する才人である。シカゴの高速ハウス=ジューク/フットワークの自由さに魅せられ、自身の音源に反映させてきたことでも知られる彼。この度、カッティング・エッジな作品を多数残してきたUKの名門レーベル=ハイパーダブからアルバム『やすらぎランド』を発表する。

ということでZoomでインタヴューを敢行したのだが、『intoxicate』に掲載されるのは1600字ほどの記事(https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/28814)。だが、分量的にそちらに載せられなかった部分を含め非常に面白かったので、ここにコンプリート・ヴァージョンを掲載することにした。特に終盤の食にまつわる話は、おそらく他では見られない内容のものだと自負している。

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食品まつり a.k.a foodman

―ネットにあがっている食品さんの過去のインタヴューをひと通り読んだのですが、音楽に目覚めたのは高校3年の時に、ドラムンベースを聴いたのがきっかけだったそうですね。それ以前はどんな音楽を聴いていたんですか?

食品:家の中で音楽がかかっているような環境じゃなかったんです。CDプレーヤーも家になかったし、自発的に音楽を聴けるような環境ではまったくなくて。それでも好きで聴いていたものとしては、テレビから流れてくるアニメソングとゲーム音楽がかなり大きかったですね。あと、高校2年の頃に買ったゲームソフトが音楽の編集もできるもので、そこから意識的に音楽に接するようになって。レコード屋とかCDショップに行くようになったのもその頃からですね。

―ナンバーガールが好きだったそうですね。

食品:00年にナンバーガールの『鉄風 鋭くなって』っていうアルバムがタワレコの試聴機にあって、聴いてすぐ好きになりました。かっこいい!って。

―ナンバーガールと今やっている音楽は繋がるところはあります?

食品:それが結構あるんです。打ち込みのサウンドを作っているんですけど、頭の中のではバンドをやりたいっていうか、バンドマンに漠然とした憧れがあって。楽器をかき鳴らして大声で歌うっていうのはやってみたかったんですよ。今回のアルバムはギターとパーカッションをメインに使ってますけど、自分の頭の中でバンド的な音楽がじゃかじゃかやっているイメージで。音楽的な関連性はないかもしれないけど、バンド的なものとか生演奏的なものへの憧れが常にあるんです。そこらへん、ナンバーガールと根底で繋がっている部分はあるかもしれないですね。

―実際に楽器を手にしてバンドをやったりは?

食品:ありますね。00年から03年に路上で弾き語りをやっていました。ちょうど名古屋のストリートの音楽シーンが面白かった頃で、友達と弾き語りもやっていたし、タイコを持っていって野外のセッションに加わったりもしました。そのあとに地元のクラブのイヴェントで知り合った友達とかとバンドやろうよってなって。でも、バンドといっても楽譜も読めない人間なので、適当にギターやウクレレをぽろぽろ鳴らすくらいでしたね。そんなぐらいの技術しかない4人で集まって、スカムっぽい音楽を2年ぐらいやっていました。

―じゃあ、新作のギターとパーカッショという組み合わせは、その頃の空気を込めようと?

食品:そうですね。路上でのライヴの時、ギターとパーカッションでセッションする機会があって。酒飲みながら弾き語りやっていると、曲がどうというよりもセッション・タイムみたいなのが増えてきて。その感じを打ち込みに置き換えたら面白いんじゃないかって思ったんです。当時、たいしてうまくもないギターとパーカッションがジャカジャカやっているんだけど、このトランス感はちょっと面白いなって思っていて。いつかアルバムにもその時の感じを込めたいなと思っていたんです。

―ギターはある程度弾けるんですか?

食品:弾けるというか、ただもう“じゃらん”とやるだけで、コードの押さえ方も2個ぐらいしか知らないんですよ。その時はギターに思いっきりディストーションをかけて、ほぼノイズに近いものをやっていて。頭の中ではバンド・サウンドが鳴っているんですけど、実際にはできなくて。死ぬまでにはちゃんとバンドやってみたいですね。あと歌うのも好きだからやってみたくて、でも、年々恥ずかしくなってきてます。バンドもギターもそうですけど、結局、練習面倒くさいからダメかなというところに落ち着いちゃうんです(笑)。

―2011年にDOMMUNEでジュークの特集「ジューク解体新書」が配信されましたが、あれをきっかけにジュークに興味を持った人は多いみたいですね。

食品:まさにそれですね。あの番組を見たのが転換点でした。ジュークは音楽ってほんとに自由にやっちゃっていいんだっていう痛快さがありましたね。BPM160ぐらいっていう縛りはあるけど、あとはなにやってもいいみたいな。僕はその頃無知だったので、のちにジュークに繋がるゲットー・ハウスがあってとか、そういう歴史的な流れを知らなくて。それでいきなりDOMMUNEの番組でDJフルトノさんのプレイを聴いて、かなり衝撃でした。それからツイッターでジューク関連の人をフォローしまくって。特にDJラシャドっていう人の《Reverb》っていう曲がすごくて。ジュークの中でも特に衝撃が走りましたね。

―確かに自由な音楽ではありますね。

食品:ただ音を逆再生したり、変なタイミングでキックが入ってきたり、ジュークは聴いたことのない曲ばかりだったんですね。だから色々な音源を聴いて「これもジュークか!? 何やってもいいんだ」って感化されて。僕もそれまで打ち込みで曲を作っていたんですけど、いまひとつうまくいってなかったんですよ。人に聴いてもらえているという実感もなかったし、やっていて楽しくない時期があった。でも、ジュークを聴いてもっと自由に好き勝手にやろうっていう気持ちにさせられて。それは大きかったですね。

―じゃあ、ジュークの様式というよりはアティチュードに惹かれた?

食品:まさにそうですね。ジュークのフォーマットというよりは音楽に対する自由な精神に衝撃を受けまして。自由にやっちゃってもいいんだよっていう精神ですね。そこから音楽を作る時に「これはちょっと恥ずかしいからやめとこう」みたいなのがなくなって、やりたいこと全部やっちゃおう、もっと冒険しようっていう気持ちにさせられたんです。

―でも、ジュークの解釈が独特ですよね。ジェイリンとかもそうですけど、自分の磁場に引き寄せて敷衍しているというか。

食品:BPMは160だとか、ジュークのフォーマットを自分なりに研究していた時期もあって。でも、せっかくだから頭の中にある決まりをぶっこわして、自分なりの解釈でやったらどうなるだろうって思って。そうするとリズムがどうっていう縛りもなくなってきたんです。ただ、段々抽象的にはなってくるので、人によってはジュークに聞こえなかったり「ジュークの影響どこにあるの?」って言われたこともありますし。だから、ジュークが砕かれた状態で自分の音楽に入っているのかなって思います。

―初めてジュークを聴いた時の興奮とかワクワク感って今も持続してます?

食品:初めて聴いてから10年くらい経って、初期の興奮みたいなものは若干薄れましたけど、ジュークの音の使い方は今聴いてもテンションがあがるというか。「なんでこのタイミングでこの音入れるんだろう?」っていう驚きが今もありますね。

―じゃあ、ジュークはもう食品さんの中で血肉化されていて、意識せずとも滲み出る?

食品:ほんとそうですね。あと、ジュークでいちばん音的に影響されたのってパーカッションの使い方で。原始的なんだけど未来的な響きがするし、古代に存在した文明なのに超ハイテク、みたいなイメージですね。古いんだけどめちゃめちゃ面白いし未来的でもあって。『風の谷のナウシカ』に出てくる超古代ロボットみたいなものを想像していました。

―最近刺激を受けた音楽は?

食品:最近だと、ポルトガルの〈Príncipe〉っていうレーベルから出ている一連の作品は、ジュークとも若干近いフィーリングがあるのかなって。ぱっと聴き完成度が低いというか、4割~5割ぐらい作ってそのままリリースしているんじゃないかっていう(笑)。作っている途中の曲とかも普通に入っていて、そこに興奮しました。「こんな中途半端なままで出していいんだ!」って思って(笑)、僕ももっとカマさなきゃっていう気持ちになりましたね。自分でもたまにすごい適当に作ったけどかっこよくなったなっていう曲もあるんですよ。

―食品さんの曲も完成度重視じゃない作り方をしているんですか? 例えば、自分の音楽を聴き直したりします?

食品:それがですね、聴き直すと細かいところが気になっちゃってキリがないんですよ。ダメなところを延々直したくなっちゃうので、気にならないように、基本的に聴き直さないようにしてます。せっかくだからいっぱい曲作りたいなと思っていて、1曲のディティールを追求するよりは、次、次って音楽を作りたいなっていうタイプで。やっぱり、初めてジュークに感化された頃のパッションが無くなっちゃうのが嫌なんです。それよりは勢いを大事にして、次々とアルバムを作ってリリースしていきたい。

―作品ごとに海外の名だたるレーベルからリリースされていますが、これは先方からオファーがあって?

食品:そうですね。ただ、今回の〈Hyperdub〉はこちらからお願いして聴いてもらいました。〈Hyperdub〉がいいと思ったのは、自分がいちばん影響を受けたDJラシャドが出しているし、レフトフィールドな尖った作品を出しているからです。ダンス・ミュージックもあるし、幅広く色々な作品を出していて、「〈Hyperdub〉だったらこんな自分でも受け入れてくれるんじゃないか?」って。

―レーベル・カラーにあわせようとはまったく思わず作ったんですか?

食品:リリース先が決まってない状態で7割ぐらいまで作っていたんです。作りながらどこに送ろうかなと思っていたんですけど、〈Hyperdub〉の曲のリミックスやらせてもらった縁で、一回送ってみようかなと。最初送った時は先方から「ちょっと待って、もうちょっと聴いてみる」って言われて、一週間後ぐらいに、「これすごい、聴いたことのない感じだからうちから出そう」って連絡があって。嬉しかったですね。先方は坂本龍一の『エスペラント』と『リキッド・スカイ』のサントラを合体させたみたいっていう、そういう印象だって。でも、僕は『エスペラント』を聴いたことなかったので聴いてみたら、なるほどと思って。通じているというか。

―どの辺が通じているんですかね?

食品:エスニック感ですかね。メロディや音色に日本人的なものが出ているんでしょうね。海外のレーベルから出す場合、分かりやすい日本的な要素はなるべく排除するようにしていたつもりだったんですけど、無意識的に出るんでしょうね。海外の方からすると、日本的なんだなって。

―ちなみに曲はずっと作っていたんですか?

食品:アルバムを出そうとは思っていて、曲もずっと作っていたんですけど、その中からどれをアルバムにどれを入れようとかは考えていなくて。そういうのを考えたのはリリースが決まってからですね。

―アルバムのキーワードやヒントになるようなものってありましたか?

食品:音楽的にはギターとパーカッションは絶対入れたいと思っていました。あと、自分が去年よく遊んでいた場所の雰囲気を入れたいなと思って。それが、“道の駅”と“スーパー銭湯”と“サービスエリア”と“アジフライ”。

―アジフライは場所じゃないでしょ(笑)。

食品:ですね(笑)。でもアジフライはどうしても入れたくて。去年コロナでクラブとかも行けないので家の周りを歩いていたんです。家の周りで楽しめるところを見つけて、そこで得たものを曲に入れたいと思っていて。リアルな生活感を入れたいっていう。で、去年はアジフライめちゃめちゃ食べていたので、これは入れるしかないだろうって。例えばこの曲は銭湯っぽいなとか、無意識で考えていたものを具体的に曲名にしたり。

―話をまとめると、日常の中で小さな驚きや発見や気づきがあって、そこを拾って拡大していくと段々サイケデリックな面が見えてきて、最終的に音楽に落とし込んだっていう印象なんですが。

食品:もう、まったくおっしゃるとおりです。日常で感じたことを色々考えすぎて自分の中で膨らみ過ぎてちゃって、最後はサイケデリックな感じになってきた。膨らみすぎて過ぎて変な形になっていたんですけどね(笑)。

―例えば道の駅で得た感覚を音楽に反映させたりは?

食品:それもありますね。道の駅でホットドッグ食いながらぼーっとしていたら、この感じは音楽で言うと笛の音かなとか思って入れてみたり。銭湯でサウナ入って休憩している時に、浴槽でぽちゃぽちゃ水が響いている音が気持ちいいなとか。その時に感じた立体感は無意識にでも音楽に入っているかなって思います。

―アルバムにはベースが一切入っていませんが、この理由は?

食品:ベースを入れると手癖みたいなフレーズを作っちゃうんです。ライヴをやるときは普通にキックが入ってベースがガンガン鳴る曲もやっていましたけど、レコーディングのために曲を作る時はベースを入れないほうが形的に面白いというのが漠然とあって。ベースを入れずに音を配置して曲を作るのが好きなんですよね。

―アルバムタイトルの『やすらぎランド』というのはどの段階で浮かびました?

食品:アルバムにとりかかる前になんとなく、〇〇ランドみたいなフレーズだけあって、決まったのはアルバムを制作している途中ですね。『やすらぎランド』って実際にありそうじゃないですか。架空の道の駅で、温浴施設と一緒で食事もできるところで「道の駅の看板にやすらぎランド、なんとかの森」みたいなのが出ていたり。そういうイメージでしたね。

―確かに、聴いていてほっとする感じはしますね。

食品:“やすらぎ感”は大事かなって。気持ちをほっとさせるような感じで、ちょっと切なくてほろりとなる瞬間も欲しいなって。あと、全体を通して聴いた時に、似たタイプの曲を集めたようかなというのがありました。自分がリスナーとしてそういうアルバムが好きだし。ふんわりしたやさしい感じの統一感はもたせたいなっていう。

―日常からヒントを拾ってくるというのは、このアルバム以前にもやっていたんですか?

食品:それは以前からもあって。2018年に出した『ARU OTOKO NO DENSETSU』「っていうアルバムにも、《SAUNA》っていう曲があったりとか。実際に自分が体験したものを曲にするっていうのは結構ありますね。あと、1980円(イチキュッパ)っていうふたりユニットもやっているんですけど、そちらは日本の家電量販店の雰囲気とかをヒントにしていて。家電量販店の広告を音にしたら面白いんじゃないかっていう発想のユニットなんです。身の周りのことを題材にするっていうのは昔からやってましたね。

―スーパー銭湯とか道の駅とか、海外の人に通じづらいこともありますよね。ハイパーダブにはその辺どう説明しました?

食品:一応〈Hyperdub〉に音を送る時に、「道の駅で、アジフライで」っていうのを翻訳サイトを使って送ったんですけど、なんとなく分かるよって言ってもらえて。そのコンセプトは面白いねって言ってくれたから、たぶん伝わっていたんでしょうね。あまり詳しく説明しすぎるのもダメかなと思って。海外の人が音楽を聴いて、文章を読んで、ジャケット見てなんとなく分かるといいなと。見た印象、聴いた印象で、これってああいうことなのかなって思ってもらえたら。それぐらいでちょうどいいと思いまして。

―幕の内弁当をモチーフにしたジャケットですね。

食品:海外の方には想像しづらいだろうから、デザイナーの方に道の駅とかスーパー銭湯のイメージが伝わるように、写真を30枚ぐらい送って。道の駅で店員さんが野菜持っている写真とか送りましたね。そしたら向こうの人がいいアイディアが浮かんだって幕の内弁当にしてくれて、ちゃんとアジフライも入っていて。

―アジフライは昔から好きだったんですか?

食品:アジフライは去年からです。近所のサービスエリアの周りをうろうろしていて、たまたま入ったんです。サービスエリアって食堂があってたまに美味しかったりするじゃないですか。それでぱっと入ってなんとなくアジフライ頼んだら、「え?アジフライってこんなに美味しいんだっけ!?」って。だから、最近はちょっとしたところに喜びを見出していて。ライヴをやって派手にデカい音を鳴らして楽しむっていうのもいいけど、じんわりできる楽しみの良さや大事さがあらためて分かって。コロナ禍になって時間もあるから、なおさらそうですね。

Clock feat. machìna (Official Video)

―地元は名古屋ですよね?

食品:地元は名古屋なんですけど、今住んでいるところとは名古屋市の中でも特に小さな町で。生まれ育ったのは名古屋の中心の栄っていう場所の近くなんですけど、今はそこからはちょっと離れていて。山が多くてザ・地方都市っていう感じのところですね。周りに本当に何もない。寂れたイオンと謎のうどん屋と、ちょっと離れたところにスーパー銭湯がある。必然的にその辺によく行っていて。車で行くと道の駅があったりするんですけど、コロナがあってそこに行くくらいしか楽しみがないから、必然的に何度も何度も行っちゃって。

―最初なにもないと思ったら、色々あると気付いたんですか?

食品:そうですね。何もないかなと思ってうろうろしていたら、意外とサービスエリアがあったりとか。なにもないぶんひとつひとつの発見に感動するんですよ。以前横浜に住んでいた時は、都内に遊びに行くのも楽しかったけど、それとは全然違う喜びや感動があって。派手にわーって騒ぐだけじゃないやすらぎ感がありましたね。それは音にも影響していると思います。

―あと、広告系の仕事をされているんですよね?

食品:地元の会社の音楽とかCM音楽とかを作っていますね。地元のテレビで流れるような音楽とか。あと、友達が映像作家をやっていて、子供番組の音楽をやったりとか。基本的に仕事としてやっているという感じではあるんですけど、意外に楽しいです。

―広告系の仕事がソロ作にフィードバックされることはない?

食品:それが結構あって。広告系ではソロ作でやらないような曲を作ってくださいと言われて。トランスっぽい曲とか、ローファイヒップホップみたいなチルな曲をリクエストされることもあるんです。普段作らない曲なので作業に没頭していると、「あ、これ結構おもしろいな」ということがあって。自分の作品で今までやっていなかった音を入れてみたり。それは結構面白いですね。

―ちなみに、食品まつりさんのリスナーってどういう層なんでしょうね。

食品:前のアルバムが出た時もDMとかインスタグラムで「聴いてます」って言ってくれる人がいて。ラップをやっている人とか、僕とは違うタイプの音楽を作っている人からも反応があったんです。だから、どういう層に向けて発信するというのは考えないで、自由に聴いてくれたらいいなと。

―ちなみに「ジューク」と「フットワーク」の決定的な違いってなんだと思います? 諸説あるような気がするんですが。

食品:「ジューク」はジャンルで「フットワーク」はその中のひとつのカテゴリーという感じですね。僕は「ジューク」よりも「フットワーク」っていう呼び方のほうが好きで。響きが面白いじゃないですか。「フットワーク」っていう言葉が音楽ジャンルってどういうこと?って(笑)。「ハウス」も日本語にしたら「家」じゃないですか(笑)。それがジャンル名になっているのが面白くて。

―「ガレージ」とかもそうですね。

食品:そうですよね(笑)。あと、海外の人は「フットワーク」って呼びますね。フットワークプロデューサーみたいな肩書の人が多い。

―テレビ神奈川の番組でインタヴューを受けてましたね。電子音楽家、という肩書になっていましたが、自分で名乗る時ってどういう言葉がしっくりきます?

食品:その辺はお任せで、電子音楽家でも全然いいし。プロフィールにはプロデューサー、DJ、あと絵も描くのでペインターっていうのも入れていて。トラックメイカーって海外では言わないみたいなので、だったらプロデューサーって言っちゃおうかなって。

―あと気になったのが、紙をカサカサやる音だけのライヴがあったそうですが、これはどういう……。

食品:名古屋でライヴ前に機材が壊れちゃって、でもなんとなくそれっぽいパフォーマンスやるしかないと思って、店員さんに紙2枚用意してもらったんです。それで紙をカサカサやってPAの人にディレイをかけてもらって、30分くらいやりきったったことがあって。おもしろかったので、2回やりました(笑)。これでお金とるのもどうかなと思って、今は紙は使ってないですけど(笑)。ああいうのも思い付きでやっちゃうところがあって。アートの勉強はしてないけどアートっぽいものが好きで、パフォーマンス的なことは昔やっていましたね。壁に向かって叫ぶだけとかありましたし(笑)。自分がどこまでできるのか限界を試したいというのもあって、意外にそれはそれで発見があったりして。紙カサカサは意外にいい音ですね。

―マシュー・ハーバートもマクドナルドやGAPの商品を破壊した音をサンプリングしてますよね。

食品:ああ、そうですね。ありましたね、共通点があるかもしれない。

―新作はどういうロケーションで聴いたらいい、というのはありますか?

食品:道の駅で軽く流したり、聴いてもらったらどういう気持ちになるのかなって楽しみです。たぶん全然あわないんじゃないかって(笑)。

―日常からヒントを得て創作に活かすというのは、今後も続きます? 手持ちの札は使い切ったのかな、という気がするんですが。

食品:あ、でもありますね。“チャンバリン(強巴林)”っていう日本で唯一のチベット密教の寺が近くにあるんです。金に塗られていて、異様な雰囲気があるらしくて。そこを題材にした音楽を作れたら面白いなって思っていますけどね。あと、うちの近くに竜泉寺っていう銭湯があるんですけど、そこが日本のスーパー銭湯発祥の地で。うちから15分くらいのところで、スーパー銭湯が始まったっていう。そこがアツいので、何かヒントにできたらと思います。

―さきほどアジフライの話が出てきましたが、食に関して訊いてもいいですか? 

食品:はい、もちろん。

―DJ/トラックメイカーのBUBBLE-Bさんって知りあいだったりします?

食品:お会いしたことはないですね。ツイッター上では繋がっていますけど。飲食のチェーン店を研究している方ですよね。

―そうそう。全国の飲食チェーン店の本店や1号店を訪れて、味や店の成り立ちを研究していますよね。そのBUBBLE-Bさんが「あじわい回転寿司 禅」という小田原にある店に惚れ込んで通っていて。変態回転寿司屋とか呼ばれている店なんですけど、回転寿司とフレンチのビストロが店内に同居していて、「鴨のコンフィ」「世界遺産モン・サン= ミッシェルの目の前の海よりムール貝のワイン蒸し」「ジャパン・キャビア」とかあって全部安価なんです。原価割れしてるんじゃないっていうくらい。
酒類もベルギービールが約190種、ワインは600種類を揃えていて、パブみたいな感じもある。それで、テクノ系のミュージシャンの間で口コミで話題になって、彼らが『Tribute to あじわい回転寿司 禅』というCDを2枚出しているんです。普通にAmazonでも買えるんですけど、それが寿司と一緒に皿の上で回っていて。店長の西尾さんがイベリコ豚を切り分ける時の口上をサンプリングして使ったりしている。

食品:すごいですね……。是非行ってみたいです。でも、飲食店から触発されて音楽を作るとかCDを出すとか、そこまで突拍子なことじゃなくて、自然にそうなるとかなって思います。カレーを作るミュージシャン多いじゃないですか。スパイス研究したり、料理にハマったり。

―スパイスは〈360° Records〉主宰の虹釜太郎さんも没頭していましたね。彼は薬酒も研究していて。

食品:虹釜さん、面識はないですけど〈360° Records〉のCDは何枚か持っています。あと、虹釜さんと縁の深いWOODMANさんが好きで、自分のイヴェントに出てもらったことがあります。カレーを追求していてすごいらしいという噂は聴きました。

―虹釜さんとは少し前に久々に会ったんですけど、ミャンマー料理をハシゴして。高田馬場にミャンマー料理屋がみっつあって。

食品:それ、やばいですね。みっつ(笑)。

―食品さんもfoodmanとも名乗ってますよね。そこからして飲食店と関わりがありそうだなって。

食品:自分でつけたわけじゃないんですよ。食品まつりっていう名前でジューク界隈の人たちとSNSで交流していた時に、TRAXMAN(ジュークのアーティスト)みたいな名前にしたいなって。ジュークをやっているCRZKNY(クレイジーケニー)さんがfoodman というネームをくっつけてくれて。人から言われたものが気にいったのでそのまま使っているんです。実はなんのこだわりもないんですが、海外でも通じるし、これはこれでよかったかなと。

―あと、名古屋は食文化が独特ですよね。

食品:そうですね。名古屋は味が濃い料理が多いのが僕は好きです。あと、名古屋由来の食べものもあるけど、三重とか岐阜由来のものが名古屋調になったりするパターンも多いなって最近思っていて。名古屋で食べられる濃いたれのうどんは、岐阜というか多治見のほうからきたらしいんですよ。ルーツを追っていくとそうなる。

―名古屋は喫茶店のモーニングが豪華なことでも有名ですよね。

食品:ああ、あれも名古屋発祥ではなくて。名古屋と名古屋周辺の文化は相互に影響を与えあっているんです。僕は味噌煮込みうどんが好きで、名古屋はきしめんとか麺料理もおいしい。2014年から18年まで横浜に住んでいた時、やっぱり名古屋の料理は美味しかったなっていう、名古屋再評価が自分の中で起きて。そこから意識的に色々なところで食べて、体重も5キロくらい増えました(笑)。

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■食品まつり a.k.a foodman (foodman)プロフィール
名古屋在住のエレクトロニック・ミュージック・プロデューサー。本名・樋口貴英 ( ひぐちたかひで )。名古屋市出身。現在も名古屋を拠点に活動をしている。これまでに Pitchfork、FACT Magazine, Tiny Mix Tapes などの海外メディアで年間ベストに選出され、 Unsound、Boiler Room、Low End Theoryといったシーンの重要パーティーへの出演も果たしワールドワイドな活動を広げている。また、他のアーティストのプロデュースも行っており、アルバムにゲスト参加している Bo Ningen の Taigen Kawabe とタッグを組んでKisekiというデュオでの活動も行なっている。


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CD『やすらぎランド』
食品まつりa.k.a.foodman
[Hyperdub BRC675] 2021/7/9発売
LP『Yasuragi Land』輸入盤
食品まつりa.k.a.foodman
[Hyperdub HDBLP058] 2021/8月中旬発売

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