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第45回:思い出し笑い「祝百号!」(&ツルコ)


第45回:祝百号!

*intoxicate vol.100(2012年10月発行)掲載 

今号で「intoxicate」が百号を迎えるそうで、おめでとうございます!記念すべき百号の表紙はどなたでしょう?


 さて、おめでたい百号ということで、百にちなんだネタがなにかないかしら、と。


 落語で「百」が入った噺というと、「百川(ももかわ)」や「百年目」などがありますね。


 「百川」は、日本橋にあった会席料理屋「百川」で実際にあったことを落語にしたものなのだそうですが、お店の宣伝にもなったという古典落語です。


 日本橋浮世小路の料理屋に雇われた、その名も百兵衛という奉公人の田舎なまりから引き起こされるとんちんかんなやりとりで噺が進んでいきます。


 昭和の名人・三遊亭圓生がこの噺を得意にしていたそうで、圓生の集大成シリーズ「圓生百席」にも収録されていますが、2000年に圓生の生誕100年記念(この年は江戸時代から明治時代に活躍した三遊亭圓朝の没後100年の年でもあったんですね)でリリースされた特選ライヴ全12巻のなかにも「百川」の高座が収録されています。もののわかっていない田舎者と早とちりな江戸っ子との会話のテンポが楽しく、会場もすごくうけていますので、ぜひこちらを聴いてみて!


 柳家小三治バージョンの「百川」も、百兵衛がかわいくてオススメですよ。こちらは『落語名人会31 小三治・百川/厄払い』(SRCL-3548)で聴けます。


 「百年目」は、お固いと思われていた番頭さんの本性がひょんなところから露見してしまう、という古典落語。


 古今亭志ん朝の没後にリリースされた「志ん朝復活」シリーズで、「百年目」を聴くことができます。仕事一筋の超真面目な番頭さんのはずが、よりによってお店の旦那に仕事とは違った姿を見られてしまい、さあどうなる? 無駄なくトントンと噺が進む、聴き心地のいい調子と声。10月が近くなるとそろそろ命日だなあ、としみじみしてしまいますが、秋の夜長に志ん朝の落語。たっぷりのマクラとともに、どうぞ。


 百つながりですが、いま人間国宝への遠い遠い道のりを歩いている春風亭百栄(ももえ、と読みます)。「春風亭百栄の落語 人間国宝への道」という大それたタイトルのCDを、現在、第2章まで発表しています。大胆。


 まだ栄助だった二つ目時代、90年代の終わり頃ですが、鈴本演芸場の早朝寄席だったか、末広亭の深夜寄席だったか、いずれ二つ目の噺家さんたちの勉強会のような高座で初めて聴いたときのことをよく覚えています。L.A.の寿司屋で働いていたけれど、日本に戻ってきて落語家になったんです、と話していたのが印象的だったのと、年齢が高かったということで。当時、30代で弟子入りというのは最高齢だったのではないかと思うのですが、その後、脱サラして40代で入門というさらに上手が登場し、抜かれてしまいましたが。


 経歴や年齢のこともそうですが、なんだか異端な人、という雰囲気をもっていて、そこがおもしろいなと思ったのが記憶に残っています。


 この大胆なタイトルのCDの1作目では、先輩の柳家喬太郎の新作落語「寿司屋水滸伝」を収録しています。“平成噺し座10回記念スペシャル 柳家喬太郎スペシャル”という落語会での高座。喬太郎トリビュートですね。喬太郎でなければできないのでは、と思わせるような噺ですが、自身の経歴にも合った噺でもあり、マクラから本編まで、違和感なく聴かせてくれます。喬太郎落語って、この噺とか「ハワイの雪」とか、20 〜30年後にも古典落語となって、残っていってくれるといいな。


 2作に収められている他の噺も、異端ぶりを存分に発揮した百栄作の新作落語。タイトルを見るだけで聴いてみたくなりません? 第一章に収録されている「七つのツボを押す男」は、「石松三十国船」をモチーフにしてますが、80年代の週刊ジャンプ読者のかたにはツボかと思いますよ。聴いてみて!


 いずれにしても、「人間国宝への道」。落語協会の前会長で現在は最高顧問の鈴々舎馬風が、協会の会長就任への野望を語る「会長への道」という新作落語をやっていましたが、それをはるかに上回る野心をもった春風亭百栄。いったいどれほど歩いたらたどり着けるのか? もし、もし万が一たどり着けてしまったとしたら、その頃の落語界はいったいどうなっているのか? 生きているうちにそれを見届けられるのかどうかはわかりませんが、ちょっと離れたところから見守っていたいかも。


CD『圓生特選ライヴ9 百川/小言幸兵衛』
三遊亭圓生
[ キングレコード KICH-3169(廃盤)]

CD『志ん朝復活・ち 百年目』
古今亭志ん朝
[ ソニー SICL-18]

CD『春風亭百栄の落語 人間国宝への道 第一章』
「七つのツボを押す男」「寿司屋水滸伝」春風亭百栄
[よしもとアール・アンド・シー YBCR-1011]

CD『春風亭百栄の落語 人間国宝への道 第二章』
「桃太郎後日譚」「甲子園の魔物」「状況説明窃盗団」春風亭百栄
[ 夢空間 XQKC-1001]

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