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第28回:思い出し笑い「ろんだいえんじょう」(&ツルコ)


第28回:ろんだいえんじょう

*intoxicate vol.81(2009年8月発行)掲載

春風亭昇太率いる創作話芸集団SWAは、自分で落語をつくって演じる新作落語家ユニットですが、参加している柳家喬太郎、三遊亭白鳥、林家彦いちも、4人全員<円丈チルドレン>とよばれてました。彼らのパパである三遊亭円丈は、古典落語の名人・三遊亭圓生の弟子ながら新作落語の革命児として落語界を席巻し、還暦を過ぎて今なお新作をガンガン発表し、新作落語のゴッドファーザーとして君臨している唯一無二の存在。タワーレコードのお客様なら、ニック・ロウの《Cruel to be kind(恋する二人)》をカヴァーした《恋のホワンホワン》をご存じかもしれませんねー。着物の紋をストーンズのベロ・ワッペンにしたり、今はなき渋谷ジアンジアンで、実験落語の会を行ったりと、新作落語の道なき道を切り開いてきたパイオニア。SWAのみなさんもこの円丈を新作落語の師と仰ぎ、後に続く多くの噺家さんたちにも影響を与えてきたんですね。


 そんな円丈師匠、昭和50年代に落語協会分裂騒動があったとき、師匠・圓生とともに協会を離れ、師匠没後に協会に戻ってからその顛末を書いた著書『御乱心』で、当時かなり物議をかもしたそうですが、このたびまたまた、〈これは円丈の遺言である。ここに生前贈与する!〉(帯コピーより)との著書『ろんだいえん』が登場です。タイトルの〈ろんだいえん〉とは、落語を〈論〉じ、〈台〉本化し、〈演〉じる、こと。「えー、こんなこと書いちゃって、いいのー?」とハラハラするところもありますが、長年、新作落語の第一人者として高座に上がってきた著者でなければ書けない内容です。


 かつて、師・圓生に、古典落語は松の木で、新作落語はその周辺に生えている草花だ。松の木は根をおろしているが、草花は枯れてしまう、と言われたけれども、今、松の木である古典落語が枯れてきているのではないか、と懸念しています。そんなに違ってきているものかしらと思うのですが、ここ数年で、古典落語がどんどん受けなくなっているそうです。半世紀以上、高座でお客様の反応を肌で感じていての実感なんですね。


 数年前から『三遊亭円丈 落語コレクション』というシリーズで、落語
CDのリリースを続けており、新作落語だけでなく、「寿限無」や「金明竹」など古典落語をベースにした円丈落語もありましたが、8作めとなる最新作では、三遊亭円朝の怪談噺で、師・圓生の得意ネタ「真景累ケ淵」〈豊志賀の死〉 と「新・ガマの油」の古典落語二席の収録です。長く古典落語を封印し、新作落語にかけてきた円丈が、最近ではそれを解き、古典落語も高座にかけるようになりました。圓生から受け継いだ三遊亭の芸を継承していく使命を感じてのことだそうです。とはいえ、二席とももちろんアレンジを施した円丈バージョン。ガマの油にコエンザイムQ10が入っていたりと、〈現代〉の共感も盛り込まれていて笑えます。


 さらに、これはCDを買った人のみのお楽しみなんですが、ケースを開いたときのデザインが迫力あり。お見事!


CD『落語コレクション8th.』
「怪談「真景累ケ淵」より 豊志賀の死」「新・ガマの油」
三遊亭円丈
[ワザオギ・レーベル WZCR-01008]

『ろんだいえん21世紀落語論』
三遊亭円丈
彩流社

思い出し笑いライン


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