見出し画像

【白崎映美】決して忘れてはいけない、と、 希望の灯を繋ぐうたは静かに訴えかける

逋ス蟠取丐鄒主・逵・0-2

決して忘れてはいけない、と、
希望の灯を繋ぐうたは静かに訴えかける

interview&text:桑原シロー

良い音楽は誰のことも区別しないし、拒絶もしない。そんな当たり前のことがもはや当たり前じゃなくなってしまっているから、今日も僕らは白崎映美&東北6県ろ~るショー!!を必要とするのだろう。ロックやジャズから演歌や民謡まであらゆるものが並列に並べられた雑食性高すぎな音世界は、いろんな姿かたちをした人間が行き交ういにしえの商店街を連想させたりし、いつもワクワクさせられっぱなしなのだが、今回届けられたニュー・シングル『更地のうた』にはいつになくドキッとさせられた。なんというか、曲を包み込む静かな気迫に、背筋が正される思いがした。白崎映美の東北人スピリットがいつも以上に激しく瞬いているせいもある。何よりもバンドの誕生のきっかけが、東日本大震災の発生にあった事実を改めて思い出させる曲になっていたことに心が動かされたのだった。誕生のきっかけは、チェルノブイリと福島の風景を撮り続けているカメラマン・中筋純が主催する〈もやい展2021〉に白崎が参加、そこで上演された朗読劇の劇中歌として書き下ろされた。歌詞を書くにあたって福島へと赴いた彼女。そこで見聞きしたもの、感じたものがはたしてどんなものだったのか。昨年コロナ禍の影響のために中止になったが、パワーアップした内容で開催される運びとなった音楽イヴェント〈和~るどミュージック祭り!! 八王子音楽祭2021~Music for Earth♪~〉の件も含めて、白崎映美に話を聞いた。

――――――――――――――――――――――――――――――

逋ス蟠取丐鄒主・逵・090A0691

白崎映美

白崎映美(以下:白崎):私は東京在住なのですが、テレビや新聞などから福島の実情を伝える情報も次第に少なくなって、世の中からまるでなかったかのような扱われ方をしている気がしてならなかった。そこで中筋さん(チェルノブイリと福島の風景を撮り続けているカメラマンの中筋純)に、福島を見せてください、ってお願いしたんです。風煉ダンスを主宰する林周一さん、浪江町で被災された元・原発作業員で、いまは震災の語り部の活動をされている今野寿美雄さんに案内していただき、浪江町などいろんなところを回りました。
10年間放置されたままだから、野生動物のフンだらけになっていた。部屋にはご先祖のご遺影がたくさん飾ってあったりするんです。そして一歩外に出ると、太陽の光が降り注ぎ、緑が輝いていて、小川の水面がキラキラ光り、小鳥のさえずりが響いている。一見自然に溢れたのどかな場所に見えるけど、人間も動物も住むことができないという現実がここにある。言葉が何も出なかった。知識としては理解できていたものの、実際にそこに立って感じたものはまったく違うものばかりで、ただただ立ち尽くしてしまいました。

――映美さんが言葉を失い、立ち尽くしてしまったときの心情が《更地のうた》の端々に反映されていますね。かつてそこで普通に生活していた人たちが抱いているに違いない悔しさや虚しさをなんとか代弁せねば、と考える映美さんの切実な思いもまた色濃く滲んでいます。

白崎:今野さんが浪江町に建てた新しいおうちは更地になってしまった。とにかく住宅街がどんどん更地になってしまっていて、一面草が生い茂っている。一見すると広々としたのどかな風景なんだけど、ここにみんなが住んでいたという痕跡すら残っていないのか、って気づいて、やはり言葉が出なくなる。震災前までは、じっちゃんばっちゃんや子供たちで賑やかだったに違いない商店街にはもう誰もいない。なんだかヘンな感覚なんですよ。建物はちょっとずつ壊され、整備されて歯抜け状態になっている。でもこの街の風景がどんどん変化していって、みんなの記憶からさっぱり忘れ去られてしまうとしたら……って考えたりして。すべてが撤去されて、何も無くなってしまった更地を眺めたら、一瞬、何も起こらなかったんじゃないか?って錯覚してしまうかもしれない。同じように、更地になったことで、原発事故で悲しみを負った人たちのこともまるで無かったようになってしまわないか? そんなことすら考えたりもして。いや、絶対に無かったことになんかさせられない! そういう感情は《まづろわぬ民》を作った頃からずっと通底してあるものなんですけども。

――そっかぁ……。

白崎:私自身、中学3年生のときに〈酒田大火〉で自宅が焼失してしまう体験をしているんです。救援物資をもらったり、仮設住宅に入ったりして、たくさんの人に助けてもらい、そして悔しい思いもたくさん経験しました。その経験に重ね合わせて、歌詞を書いたところもあると思う。私のなかで失くなってしまった前の家やら商店街やらの景色はそのまんま残っていて、楽しかった思い出まで消えたりしない、ってことはわかっているから。

――聴き手としては〈更地〉というタイトルに一縷の救いを感じようとしたところがあるかもしれない。更地になってしまったここに新しい種を蒔かなくちゃ、そんな思いに駆られたというか、曲を聴き進めていくにつれて、そういう気持ちがより強くなったのはたしかで。

白崎:あぁ、なるほど。被災地のあちこちは、たとえばかさ上げされ整備が進んでも、みんながみんな帰ってきて元通りの暮らしには戻れない。まして福島は放射線という問題があるから、更地になったからってそこに希望が芽生える、と簡単にならないわけです。原発事故は人災。だからこそ忘れちゃいけない。だけどどこかに希望がないと、歌だってうたえないですよ。つらい現実にムカついたりもするけど、希望を捨ててしまったらおしまい、そう思い続けたいし、ひとりでも仲間を増やして希望の灯をつないでいきたいなぁ、って思いはある。

――《更地のうた》は福島3部作の1曲という位置づけなんですよね?

白崎:東北6県ろ~るショー!!の2枚目のアルバム『あほんだら』に収録した《夜ノ森月ノ下》と《風のおはなし》という福島について歌った曲があるんですが、風煉ダンスの制作をやっている斎藤朋さんから、福島3部作のCDを作りましょうよ、って言ってもらったのがきっかけです。

――リレコーディングしたその2曲もセットにした今回のシングル。これらの曲とじっくり向き合う作業は、映美さんの10年の活動を振り返ることにもなったんじゃないかと思うのですが、どうでしょう?

白崎:そうですね。この10年、日々の暮らしがあって毎日東北のことばかり考えていたわけではなくて、ただなし崩し的に失われていくものがあるってことにあるときふと気づき、うっかりすると私だってそうなっていくのかもしれない、と考えるようになった。そんななかで風煉ダンスの活動に関わらせてもらったり、中筋純さんとの出会いがあったり、東北の方角をガッチリと見つめる機会をもらった。そうこうしているうち、今まで出会えてなかったアーティストの方々や、東北を見据えながら表現を続けている方々との出会いも生まれて、確かなつながりが出来ていきました。
でもこの10年もそうなんだけど、音楽をやりながらふと、一体誰か喜んでくれるのだろうかと、ひとりぼっち感が芽生えてくることもあったりして。どうすれば世の中と繋がれるんだろう?って不安が湧いてきたりする。今年だって世の中がオリンピックの盛り上がりで一色になっちゃっているなか、私ひとりがこういう声をあげていてもなぁ……なんて思うこともある。でもこの10年間の出会いを振り返ると、何も変わらず自分がやりたいことをやり続けている人がいっぱいいたなぁって。だから彼らを思い出すと、そうだ、そうだ! って気持ちが湧いてくるんです。

更地のうたCDJK.jpg

更地のうた

――どっこい生きている! という心意気をたえず高く掲げる映美さんたちのステージを見るたび、こちらもまた、そうだそうだ! って気持ちになりますから。ところで、東北6県ろ~るショー!!の音楽をまるで知らない人にその良さをオススメするとしたら、どのような言い回しになりますか?

白崎:嬉しいです。ありがとうございます。震災後、衝動に突き動かされていろんな人に声をかけて、いろんな人がバンドに入ってくれたのですが、まぁ、ヘンな人ばかりだったんですよねぇ(笑)。いろんな方向を向いている人間の集まりですよ。世の中にはいろんな考え方があって、いろんな姿形がある。いまのご時世、〈多様性〉は何よりも大事ですから。こんなに個性がバラバラで、こんなにヘンな生き物揃いだけど、集まってワーワーやっているとおもしろいものが山ほど生まれてくる。それがことごとく私の想像の上をいくようなものばかりで、こんなことやっちゃっていいの? と言いたくなるほど、とにかくヘン。そこがおもしろい! こんな私たちだって生きてるよ! ってところをですね、ぜひ見ていただきたい。

――素晴らしい推薦の言葉です(笑)。しかし世界を見渡すと、あらゆるところで人々の分断が起きていて、いつの間にかあちこちに壁が出来ていたりする。そういうものを壊して回ることが東北6県ろ~るショー!!の使命だと思うし、皆さんが放出する闇雲なパワーってこの時代にもっとも求められているものなんじゃないかって気がする。

白崎:そう思っていただけると嬉しいです。いつも私は、みんな声出していこう! って言ってますけど、実際は気が小さくて、臆病で。それにメンバーがやたら多くていろいろ大変で、すぐに辞めたくなるんですよ。めんどくさくて(笑)。そうすると、メンバーに叱られるんです。前に進んでいくやり方が見つかる。わちゃわちゃと時には喧嘩しながら行こう!みんな楽しく、元気になれたらいい。さまざまな立場の人もさまざまな思想を持っている人もみんな来い! そして、いろいろあるよね、ってことを共有して、ニッコリしてもらえたら嬉しい。

――いろんな人を集めて、垣根を取っ払って楽しもう! ということでいうと、9月4日に八王子のいちょうホール 大ホールで行われる〈和〜るどミュージック祭り!! 〉がこのうえなく相応しい場所になるんじゃないかと。こちらのイヴェント、去年はコロナ禍の影響で開催できなかったんですよね? 

白崎:そうなんですよ。いまも世界中で多くの人が何らかの我慢を強いられているけれど、9月4日はパ~っといぐぞ! と思っています。ぜひ浮世の憂さを晴らしにきてほしい!

逋ス蟠取丐鄒主・逵・unnamed

――ゲストで、シカラムータ/ジンタらムータの大熊ワタルさん、こぐれみわぞうさん、そして噂の無国籍音楽集団、民謡クルセイダーズから、田中克海とフレディ塚本のふたりが参加するのも楽しみです。

白崎:大熊ワタルさん、こぐれみわぞうさんは、これまでいろんな現場で顔を合わせていて、お互い良く知っているんですが、このようにガッチリ組んでやるのは初めて。映画『シュトルム・ウント・ドランクッ』(2014)でご一緒したこともあったかな。大熊さんたちもずっと独自のスタンスを貫いてらっしゃるので、共感するところは多いですね。

――そして噂の無国籍音楽集団、民謡クルセイダーズから、田中克海とフレディ塚本のふたりも参加するという。

白崎:去年も参加してもらうはずだったのに中止になってしまい、残念だなぁ、と思っていたので、その後で東北6県ろ~るショー!!のライヴに民謡クルセイダーズの田中さんとMegさんをお誘いしました。それがすごく楽しくてね。民クルの音楽って、パ~ッと明るく楽しくて、聴いていたら自然とカラダが動いちゃう。それから田中さんがまた面白い人でねぇ。あの独特な軽みはいったいどこから生まれてくるのか。私たちのバンド・メンバーとはまたひと味違う抜け感を持っていて、いい意味で地に足がついていない感がある(笑)。でもいざ音楽をやるとなると緻密なアレンジを行ったりするし。私たちバンドのみんなも大好きですよ。

――僕は民クルって上々颱風の系譜を継ぐバンドだと勝手に感じているんですけどね。

白崎:それは嬉しいですね。そもそも上々颱風ってバンドは、じっちゃんもばっちゃんもみんな誰ひとり仲間外れにしない音楽をやるというテーマを掲げていたんですが、その意識はいまだに引き継いじゃってるな、と思います。

――とにかく僕らがいまもっとも欲しているのは、祭りの熱狂。ディスタンスだ、ディスタンスだと口酸っぱく言われ続け、じっとしていることがすっかり沁み付いちゃって、祭りのありがたさをこれほど感じたこともなかった。そもそもガマンを積み重ねれば積み重ねるほど、祭りの場ってハジケますからね。

白崎:こちらもバカ全開で臨みますよ! いま世の中にバカ成分が足りていない気がして、パ~ッと明るく楽しくやることを求めているんですよね。いろいろ大変なことばかりだけど、私たちのライヴに来て自由になってほしいな。全部解き放って、全裸の気分になってもらいたい!

――いいですねぇ、全裸ライヴ!

白崎:実際にやっちゃうと大問題だけども(笑)。

――ところで、今回のお祭り〈和~るどミュージック祭り!!〉を開催する〈八王子〉にまつわる思い出って何かありますか?

白崎:障害を持つ仲間がみんなで機折りをしたり、パンを焼いたりしてる、〈八王子生活館〉という施設があるんですけど、上々颱風時代から長い付き合いがあるんです。いつもみんなでライヴに駆けつけてくれる頼もしい仲間たちです。かれこれ30年になるかなぁ。生活館には何度もお邪魔してるんだけど、東北6県ろ~るショー!! の衣装を持っていってね、みんな化粧もしてすごく楽しい時間を過ごしたり。そういう昔からつながっている人たちもいれば、新しくつながっていく人も生まれたりして、私にとって八王子は嬉しい街なんですよ。

――――――――――――――――――――――――――――――

わーるど差し替えポスター

【LIVE INFO】

「和~るどミュージック祭り!!」(振替公演)
八王子音楽祭2021~Music for Earth♪

「白崎映美&東北6県ろ~るショー!!」を中心に、フレディ塚本&田中克海(民謡クルセイダーズ)、大熊ワタル&こぐれみわぞう(シカラムータ/ジンタらムータ)、Nourah(エキゾ盆踊り)らがゲスト参加するお祭り公演!
民謡や盆踊りなどの日本の伝統を世界の音楽と融合させる、かつてないコンセプトの和~ルド・ミュージック・コンサート!!

■日時:2022年5月28日(土)16:00開演
■会場:いちょうホール 大ホール(東京都・八王子市芸術文化会館)
■チケット料金〈税込・全席指定〉
友の会 2,700円 / 一般3,000円
※未就学児入場不可
■発売日
2022年2月10日(木)より

→どんなおまつり?気になったかたは
白崎映美&東北6県ろ~るショー!!
LIVE映像をご覧ください!! (YouTube)

■プランクトン電話予約
03-6273-9307(平日13~17時)
http://www.plankton.co.jp/ticket.html

■主催・お問合せ・ご予約
(公財)八王子市学園都市文化ふれあい財団
TEL:042-621-3005
https://www.hachiojibunka.or.jp/icho/archives/eventinfo/2021-10/

※本公演は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため実施見送りとなっておりました2021年9月4日(土)「和~るど・ミュージック祭り‼」の振替公演です。
※時間・会場・内容・お座席の変更はございません。チケットをご購入済の方は、そのままご入場いただけます。

――――――――――――――――――――――――――――――

【NEW BOOK】

あったこほうさ〜東北歌姫♡エッセイ集〜
白崎 映美
”山形新聞の超人気エッセイが一冊にまとまった!故郷への限りなき愛、歌への燃える情熱、日々の生活に幸せを見つけ、心が温かくなる珠玉のエッセイ集!”
3月18日発売予定。予約受付中。詳細はこちら↓


【CD】

更地のうたCDJK.jpg

シングルCD『更地のうた』
白崎映美&東北6県ろ~るショー!!
[くるくるハッピーカムカムレーベル TO6-0002]   3曲収録

CDの詳細&購入はこちら→白崎映美オフィシャル・サイト

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?