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【Toshi伝説】一柳慧の源流から現在、そして未来に放つエクストリームな愛(text:鈴木淳史)

2/13に神奈川県民ホール、3/20に神奈川県立音楽堂にて開催される「Toshi伝説」を、誌面より先にいち早くご紹介します。テキストはライターの鈴木淳史さん。

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一柳慧(c)Koh Okabe

©Koh Okabe

 一柳慧は伝説だ。若くしてニューヨークへ渡り、ジョン・ケージを日本に紹介し、自らもコンセプチュアルな音楽を発表した前衛の旗手。かつて田舎の高校生だったわたしは、彼の名前を目にするだけでトキメキを覚えたものである。


 1980年代に上京して以来、彼の姿はコンサートホールで何度もお見かけした。独得のオーラを放っていたから、すぐわかるのだ。ただ、そのときに発表された彼の新作には、戸惑いも感じた。アメリカの実験音楽の影響から離れ、交響曲や協奏曲といった伝統的なフォーマットの作品だったからだ。邦楽器へのアプローチや、音響空間への探求、そしてオペラ作品など、彼は次々に領域を広げていく。


 1960年代の前衛華やかなりし時代を実体験できなかった自分にとって、一柳はどこか伝説的な存在であり続けた。そこに郷愁が伴うのも、自分が都会生まれの人間ではなく、田舎者だったから。なにせ、都市は次々に変化していくのが常なのだし。


 そう、都市=慧なのだ。一柳慧の作風も変遷を重ねていく。一つだけ変わらないのは、「都市=慧」がもつ自由な空気。一柳作品は、どの時代のものであれ、その時代の雰囲気を如実に反映しているものの、そこに縛られてはいない自由さがある。特定の主義や技法に囚われない、軽やかさがある。凝り固まらぬ姿勢に、前衛精神がじっとり宿る。


 氏の神奈川芸術文化財団の芸術総監督に就任20年を記念し、一柳ワールドを一望する企画が行われる。そのタイトルこそ、「Toshi伝説」。なかなか攻めた、そしてストンと腑に落ちるダブル・ミーニングだ。


 神奈川県民ホールでは、一柳の3つの管弦楽作品を東フィルが演奏する。室内オーケストラのための《ビトゥイーン・スペース・アンド・タイム》、ヴァイオリン協奏曲《循環する風景》では成田達輝がソロを担当するのも楽しみだ。そして、最後は「3.11」を主題にした交響曲第8番《リヴェレーション2011》。冒頭には、この日の指揮者でもある鈴木優人による新作のファンファーレも披露される。


 神奈川県立音楽堂で行われるのは、3部構成のマラソン演奏会だ。第1部は、一柳の原点を形作ったという音楽がテーマ。フランクのヴァイオリン・ソナタや自身がピアノを弾く《クロイツェル・ソナタ》などのほか、武満徹の《一柳慧のためのブルーオーロラ》が演奏される。
 第2部は「日本独特の間・時間感覚」をテーマに、三味線奏者の本條秀慈郎を中心とした邦楽器のアンサンブルが、一柳や高橋悠治の作品を取り上げる。第3部では、一柳の「ピアノ音楽」第1~第7全曲を河合拓始が弾く。ニューヨーク時代に書かれた図形楽譜と指示書による作品が、即興演奏のエキスパートによって新たな伝説として蘇ること間違いない。


LIVE INFORMATION

Toshi伝説
■共鳴空間(レゾナントスペース)

【日時】2021年2月13日(土)15:00開演
【場所】神奈川県民ホール 大ホール
【出演】鈴木優人(指揮)/成田達輝(ヴァイオリン)/東京フィルハーモニー交響楽団
【プログラム】鈴木優人:新作 ファンファーレ(委嘱作品・初演)/一柳慧:ビトゥイーン・スペース・アン ド・タイム/一柳慧:ヴァイオリン協奏曲「循環する風景」/一柳慧:交響曲第8番「リヴェレーション 2011」 オーケストラのための

「共鳴空間(レゾナントスペース)」イベント公式サイト
https://www.kanagawa-arts.or.jp/legend/event213/

■エクストリーム LOVE
【日時】2021年3月20日(土・祝)
【場所】神奈川県立音楽堂
【内容】3つのキーワードに導かれた3つのコンサート。各約1時間・入替制・全席自由

≪Classical 13:00≫
出演:成田達輝(ヴァイオリン)/ブルーオーロラ サクソフォン・カルテット[平野公崇・田中拓也・加藤里志・本堂誠]/萩原麻未(ピアノ)/一柳慧(ピアノ)
プログラム:一柳慧:フレンズ (ヴァイオリン独奏)/武満徹:一柳慧のためのブルーオーロラ/フランク:ヴァイオリン・ソナタ イ長調/ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第9番「クロイツェル」より第1楽章(上演時間:約1時間強・曲順不同)

≪Traditional 14:45≫
出演:J-TRAD ensemble-MAHOROBA:本條秀慈郎・本條秀英二(三味線)川村葵山(尺八)木村麻耶(二十五絃箏)吉澤延隆(十七絃)堅田喜三郎(鳴物)]<監修>本條秀太郎
プログラム:高橋悠治:「花筺」より 水(三味線独奏)/スメタナ(中村匤寿編曲):モルダウ(三味線、尺八、箏、鳴物)/ノルドグレン:日本の伝統楽器のための四重奏曲より第5楽章(三味線、尺八、箏)/一柳慧:密度(三味線、尺八、箏)/本條秀太郎:俚奏楽 花の風雅(三味線、尺八、箏、鳴物)/森円花:委嘱新作(三味線、尺八、十七絃箏、鳴物)/ジョン・ケージ:ある風景の中で(二十五絃箏) ほか

≪Experimental 16:30≫
出演:河合拓始(ピアノ)
プログラム:一柳慧:ピアノ音楽 第1~第7 全曲連続演奏(上演時間:約1時間から2時間の間 *楽曲の指示にもとづく即興演奏のため、終演時間は当日まで未定)

◆Intermission Contents
・Let's Play with Toshi[エレクトロニクス卓球台]制作協力:有馬純寿
・Let's Talk[クロストーク]出演:一柳慧・片山杜秀・有馬純寿
・パネル展示

▼「エクストリーム LOVE」イベント公式サイト
https://www.kanagawa-arts.or.jp/legend/event320/


※こちらの記事はintoxicate 150 (2/20発刊号)にも掲載されます。発刊のお知らせはTwitter、Facebookにて!
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