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第57回:思い出し笑い「世界初登場! 完全版・妾馬」(&ツルコ)


第57回:世界初登場! 完全版・妾馬

*intoxicate vol.112(2014年10月発行)掲載

 今年、芸術選奨を受賞した五街道雲助の超オススメCDをご紹介したいなと思っていたのですが、門下の隅田川馬石も待望の初単独CDリリース!ということで、実力派揃いのお弟子さんたちの分も一緒にご紹介しちゃいますね。


 古今亭志ん生の長男である金原亭馬生を師匠に持つ五街道雲助は、人情噺や芝居噺の名手として高い人気のベテラン真打。


 以前、ここにもご登場いただいた落語エンジニアでキントト・レコード主宰の草柳俊一が09年から浅草で手がける「雲助蔵出しふたたび」という、雲助落語を年に4回たっぷり聴ける落語会があるのですが、ここでの高座を4席聴ける2枚組CDが『五街道雲助 蔵出し1』です。これまでリリースされているCDは、雲助といえば、な芝居噺や人情噺がほとんどでしたが、滑稽噺にこそ雲助の魅力あり! と世に送り出したのが、この作品。雲助ファンが毎回楽しみに聴きに来る会だけあり、客席の幸せそうな雰囲気も伝わってくるような録音です。


 爆笑ものなのは、「人情噺・火焔太鼓」。《火焔太鼓》は志ん生十八番で古今亭のお家芸。このお馴染みの噺を人情噺の口調で演じてみたら、という、まさに雲助だからこそできる、おちゃめな遊び心あふれるお見事な一席。


 さらに世界初の貴重音源にも注目! 落語会や寄席のトリでよくかけられる《妾馬》は、最後まで演じずにキリのいいところで終えることが多い噺。というかサゲまで演る人はほぼいない噺ですが、これを最後まで演じ、あまり演じられない冒頭部分も聴けるということで、まさに完全版。音源として世に出るのはこれが初めてだそうですよ! 


 人がやらない噺、珍しい噺などを掘り起こして手がけている師匠に入門したお弟子さんたちもそれぞれ個性的で、着実に芸を磨いてきています。


 総領弟子は、本誌でもおなじみ桃月庵白酒(とうげつあんはくしゅ)。柔和そうなお顔と毒舌のギャップがたまりません。今や落語会のチケットが入手困難な売れっ子ですが、春に《抜け雀》《船徳》を収録したCDが出たのに、この秋、もう1作出るそうで、年に2作とはさすがの人気。《抜け雀》の気弱な亭主も《船徳》の浮ついた若旦那っぷりも白酒さんの魅力全開ですし、マクラでは師匠のことにも触れていますので、ぜひ聴いてみて! 秋の新作は、古今亭でもやる人が少ない《首ったけ》と《犬の災難》だそうで、そちらも楽しみ。最近では俳優として映画出演もしており、女子高生にお金を借りちゃう情けないオジサン役がはまっていた「ももいろそらを」に続いて、9月から公開されている「ぼんとリンちゃん」にご出演。


 お役者さまといえば、2番弟子の隅田川馬石(すみだがわばせき)は噺家になる前は石坂浩二が主宰する劇団に所属。林家しん平監督の映画『落語物語』では迫真の演技を披露しています。明るい声、端整な容姿、誠実な芸で、聴いていて気持ちのいい噺家さんですが、こつこつと独演会を行ない、人情噺や連続物の噺に取り組んでおり、満を持してのCD2作を同時発売! 『名演集2』の《松曳き》《富久》は師匠譲りの2席で、思わず聞き惚れてしまいます。


 末っ子弟子の蜃気楼龍玉(しんきろうりゅうぎょく)は、飄々とした風情ですが、自分の道を見極めて迷わず進んでいるような芯の強さあり。師匠を見習っての勉強熱心さで三遊亭圓朝の連続物の大作などを手がける勉強会を続けており、この夏には《真景累ヶ淵》の通し公演に挑戦、2時間以上かけて見事に語りきりました。さすが雲助のお弟子さん! まだ自身のCDはないですが、『恐笑噺』というオムニバスCDで、《一眼国》を聴けますよ。


 雲助と同世代ですともっと多くの弟子をとっている人もいますが、雲助は龍玉の入門以降、新しい弟子をとっていません。まさに少数精鋭な雲助一門。ぜひ師匠と弟子それぞれの噺、聴いてみてください!


CD『五街道雲助 蔵出し1』
Disc1「九州吹き戻し」「人情噺・火焔太鼓」「新版・三十石」
Disc2「妾馬(通し)」
【キントト・レコード KNCA-20001~2】

CD『恐笑噺』
鈴々舎馬桜「死人草の花」
蜃気楼龍玉「一眼国」
三笑亭夢吉「完全実話・事故物件に住んだ話」
【エイベックス AVCD-38716】

CD『桃月庵白酒』
「抜け雀」「船徳」
【ソニー MHCL-2440】

CD『桃月庵白酒3』
「首ったけ」「犬の災難」
【ワザオギ WZCR-14003】

CD『隅田川馬石 名演集1』
「金明竹」「柳田格之進」
【ポニーキャニオン PCCG-01420(廃盤)】

CD『隅田川馬石 名演集2』
「松曳き」「富久」
【ポニーキャニオン PCCG-01421(廃盤)】

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