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第49回:思い出し笑い interview 春風亭一之輔 「男同士のどうしようもない会話が好きなんです」(&ツルコ)


第49回:interview 春風亭一之輔 「男同士のどうしようもない会話が好きなんです」

*intoxicate vol.104(2013年6月発行)掲載

 初DVDですね。二ツ目時代にCDデビューして既に4作、本も出版されて。真打になりたてでこの作品数ってすごいです。
 「こんなに話をもらえるなんてありがたいことだと、いただいた企画はすべて受けるようにしてるんです。〈囃されたら躍れ〉で、あまり考えず流れに身をまかせて。もちろんだめだと判断したら出さないですけど」


 CDやDVDの収録演目の選び方は?
 「今回の《雛鍔》と《明烏》もそうですが、頻繁に高座にかけている噺を選んでいますね。落語は〈これで完成〉というものではないので、音源を残したがらない人もいますが、僕は〈この時点ではこういう感じ〉という記録としてでいいのかな、と考えています。
 《明烏》は好きな噺で、僕は若旦那より源兵衛と太助に感情移入して、2人のキャラクターをなるべくはっきりさせようと考えてやっています。よくできた噺なので誰がやっても形にはなる、やりやすい噺なんです」


 噺がよくできているとはいえ、演じる人で聴かせ方が違いますよね。
 「だからこそ自分の色を出していかないと、ですね。キャラクターを最初に考えることはせず、話すトーンやくすぐり(噺に挿入するギャグのようなもの)は自然に出たものを残すことが多いです。アドリブ、言葉の応酬やリズムなども稽古のときとは違うものが高座で出てきたりする。だから僕の噺は、聴いているお客さんと一緒につくっていく感じです。感覚的に出たものに、後から〈こういう男だからこうかな〉とバックボーンを考えて、自分の噺にしていきますね」


 一之輔さんの《明烏》では、通常なら二宮金次郎の名前が出るところに意表をつく人をもってきていますが(ここは聴いてのお楽しみ!)、古典落語でのこういう工夫はどこまでOKなものなんでしょう?
 「僕はかなり自由にやっているほうですが、そうはいっても自分の中でこれは変えていいけどこれはだめ、というのは結構ありますね。たとえば《明烏》だと、若旦那の〈結構なおこもりでした〉のフレーズはこれ以外の言葉に変えてはいけないと思う。〈とてもいい〉ではなく〈結構な〉でなければだめだと。変えないところのこだわりと、遊んでいい部分での自由度の高さ、これはもう噺家それぞれのセンスですよね」


 よく聴いている古典落語なのに一之輔さんヴァージョンはとても印象に残ります。ご自身の落語を“部室落語”という面白い表現をされていますが。
 「女の人を演じるのが苦手なのもあるんですが、町内の若い連中がわーわー言ってるような落語が好きなんです。跳ねっかえり者、シニカルなやつ、ぼんやりしたのなど、もてない男たち4 〜5人でしゃべっていて、何かやってみようぜ、と話が進む《不動坊》とか。《明烏》の2人もそう。男子校だった高校の部室での会話と同じですね。男同士の会話って本当にどうしようもない。でも、そこに身を投じていると面白いんですよ。女の目を気にしないで。気にしても面白いんですけどね。そういう男同士のどうしようもなさが好きで、そんな空気を落語の中に持ち込みたいんです」


 高校での部室との出会い、ドラマチックですよね。
 「入ったラグビー部を1年で辞めた後、たまたま行った浅草で寄席を見つけ、初めて生で落語を聴いたんです。落語の面白さより、その空間が面白かった。春風亭柳昇師匠が《カラオケ病院》をやっていて。一対不特定多数で、おじいさんが一人で座布団の上でしゃべって、それをたくさんの人が聴いて腹を抱えて笑っている。すごい、マジックだ、と。そうして寄席に行くようになった頃、校内に開かずの部室があることを知り、先生に頼んで開けてもらったら、そこは落研の部室だったんです。十数年使われずホコリだらけで。最初に見たその光景は今も覚えてます。落語のカセットテープや本がたくさん残っていて、着物まであった。三遊亭金馬のテープで《金明竹》を覚えたんですが、意外にできて。身体に合っているという気がしましたね」


 長く廃部だった春日部高校の落研を復活させ、大学では古今亭右朝師匠が顧問を務めていた落研に入部し、卒業後、春風亭一朝師匠に弟子入り、と。
 「親の反対もなく、師匠にもすんなり入門を許されて。二ツ目になった頃に落語ブームで人がわっと寄席に来たり、運のいいタイミングにも恵まれたんです」


 大抜擢で単独真打昇進してからちょうど1年。これからは?
 「今年は、三遊亭円朝もの、筋のある噺をやってみたいんです。《やんま久次》とか。人物描写が滑稽噺に生きてくると思うので、やっておくべきではないかと。他にも《宿屋の仇討ち》や《天災》のような、うちの師匠や大師匠・春風亭柳朝が得意とする噺にもちゃんと取り組まないと、と思ってます。
 真打になって、毎日寄席に出演できるのがとても勉強になってるんです。同じ噺を連日やっても、お客さんの反応の違いもあって、出来がまったく違う。寄席って、すごいです」


 今は座布団の上の人になった一之輔さん。偶然の出会いもつながって、ここに至っているんですね。開かずの部室を開いたお礼に落語の神様も見守ってくれているのかも。


DVD『一之輔落語集「雛鍔(ひなつば)」「明烏(あけがらす)』
春風亭一之輔
[ コロムビア COBA-6458] 

思い出し笑いライン


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