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第18回:思い出し笑い「歌う門には福来る」(&ツルコ)

ツルコさん

執筆者:&ツルコ

第18回:歌う門には福来る

*intoxicate vol.71(2007年12月発行)掲載

「僕はママさんコーラスが嫌いだ。」ではじまるのは、春風亭昇太さんが10年ほど前に書いたエッセイ集『楽に生きるのも楽じゃない』(新潮OH!文庫)に収録されている「ママさんコーラス入門」。自分たちに“さん”づけするのはなにごと、が嫌いの理由だったりするんですが、恐いものみたさで、ママさんコーラスの発表会に足を運び、そこで見た光景の描写が、「まさに!」って感じでウケました。じつはうちのハハもそうなもので。“狂ったような合いの手”とか、“なぜ白目をむいて歌うのか”とか、“強弱のつけすぎ”とかね。


こんなママさんコーラスを題材にして新作落語をつくったのが、立川志の輔さん。昇太さんとは仲よしなので、ママさんコーラスはこんなにおかしい、という話をきいて、または一緒に見に行ったりして、この噺が生まれたのかも? いずれにしても、「ママさんコーラス」とか「ママさんバレー」といえば、日本人ならだれもが「ああ、あれね」とイメージを浮かべられるくらいだし、突っ込みどころもいろいろあって、ネタにしやすいのかもしれませんね。


志の輔さんのこの落語「歓喜の歌」は、ある地方都市の公共ホール担当者が、大晦日に2つのママさんコーラスの会をダブルブッキングしちゃってた、というお話。50分にも及ぶ口演で、ちょっとジーンときてしまう新作人情噺なんですが、なんとこの「歓喜の歌」が映画化されたんです。落語一席まるごと映画化、しかも新作落語でというのは初めてのこと。主人公の飯塚主任は、典型的な公務員というキャラクターですが、映画ではさらに強調さ
れたダメっぷり。小林薫がぴったりの好演です。バブル期以降、全国の地方自治体に文化会館や多目的ホールが続々とつくられましたが、こういうホールでは落語会もよく行われるので、全国各地に呼ばれて行っている志の輔さんですから、内側の状況もよーくご存じなのでしょう。リアリティのあるシチュエーションで笑わせてくれます。公務員のダメ仕事ぶりってよく報道されてますが、映画に登場する「みたま文化会館」の職員、ぜんぜん仕事してません。やる気なさが充満しているこの職場と対象的なのが、2つのママさんコーラスの一生懸命ぶり。志の輔さんの落語ではそこまで登場人物の描写はありませんが、映画ではそれぞれの人生が垣間見えます。対比の面白さと、そこから主人公の“気づき”へと展開していく、志の輔落語の世界が見事に映像化されています。落語からのフレーズもあちこちに生かされてますので、ぜひ観る前に聞くことをオススメします。映画には志の輔さんも噺家役で登場しますし、師匠・談志も出演してるので、師弟共演なのも見どころですね。前座修行年数記録保持者の立川キウイくんも出てます。


志の輔さんが、もう10年以上毎年行っている独演会に『志の輔らくご in PARCO』がありますが、「歓喜の歌」はこの会で2004年に初演されました。このときの高座はDVDで観ることができるのですが、この一席が終わった後、お辞儀をしながら衣装を変え、高座の後ろの壁が左右に開くと、そこにはママさんコーラスが! という驚きの演出。志の輔さんの指揮で歌うママさんたち。暮れの会でしたから、まさに第九の「歓喜の歌」がぴったりだったんですね。2006年から、この独演会はお正月の公演になり、期間も1か月近い規模で行われるようになりましたが、それでもチケットは即日完売。まさにプレミアム・チケットですが、来年は映画公開直前の会なので、全公演で「歓喜の歌」を口演することが決まっているそうです。運良くチケットが取れたら「聞いて」から「観る」ことができるんです! あ、その前に昇太さんのエッセイを「読んで」、映画で片桐はいりを要チェック、です。


DVD『志の輔らくごのおもちかえりDVD 1 「歓喜の歌2007」』
立川志の輔
[角川エンタテインメント ACBW-10554]

DVD『志の輔らくご in PARCO vol.9』
立川志の輔
[PARCO STAGE PLS-0173]

CD『歓喜の歌~オフィシャル・イメージアルバム』
OST
[キングレコード KICC-677(廃盤)]

思い出し笑いライン


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