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第66回:思い出し笑い「45歳、柳家花緑の魅力」(&ツルコ)


第66回:45歳、柳家花緑の魅力

*intoxicate vol.121(2016年4月発行)掲載

 久しぶりに寄席で柳家花緑(かろく)をみたら、横分けヘアスタイルだったのが短くなってキュートにヴィジュアルチェンジしてました! 昨年、座長を務めた舞台『南の島に雪が降る』で兵隊役のため丸刈りにし、それからいまの髪型になったそうですが、似合っててかわいい。とはいえ、15歳で祖父・五代目柳家小さんに弟子入りし、戦後史上最年少で真打ちになった花緑ももう45歳。かわいい、なんて言っちゃ失礼ですね。弟子もたくさんとっていて、この春初めて弟子が真打に。このお弟子さん、先代小さんがだれかにつけたがっていたけれど一門がだれももらいたがらなかった「台所鬼〆(だいどころおにしめ)」という名前を自ら志願して二つ目で襲名、このたび「台所おさん」に改名し、めでたく真打昇進です。「柳家」ではなく「台所」のままなのね。


 花緑といえば、落語界初の人間国宝の孫、という超サラブレッドですが、落語は歌舞伎や狂言のような世襲の伝統芸ではなく、噺は受け継がれても芸はそれぞれ個人がつくりあげるので、“芸を継ぐ”ものではない芸能。花緑曰く、現在、東西の噺家700人以上のうち、親や身内が噺家だという人は20人くらいの希少種だ、とのこと。10代半ばという若さで入門し、様々な葛藤があったことと思いますが、落語とピアノのコラボレーションなど、いろいろなチャレンジもしてきていて、落語に関する著作も多く、落語をもっと面白くしたい、広めたい、という強い思いが感じられます。ここ数年
は、“着物に座布団” ではなく“洋服に椅子”での現代バージョンによる「同時代落語」という、新たな落語のスタイルにも挑戦してます。


 少し前になりますが、2008年の著書『落語家はなぜ噺を忘れないのか』は、自身の落語への向き合いかた、ネタについてなど、ここまで手の内を明かしてしまっていいの? な本。ご本人も「もし手品だったら、お客様が種を知っている状態」というくらい。この中で、先代小さんの十八番ネタ《笠碁》を、いかに花緑の《笠碁》にしていったかを披露していますが、この頃の高座を朝日名人会ライヴシリーズでの花緑初CDである『柳家花緑1』で聴くことができます。孫だからこそのプレッシャーと期待がどちらも大きなこの演目に挑み、祖父から教えられた噺をどのように花緑バージョンに構成したかを、ぜひ小さんの《笠碁》と併せて聴いてみて。昨年12月リリースの同シリーズ4作めとなるCDは、先代小さんから受け継いだ《ちりとてちん》と《蜘蛛駕籠》ですが、ライナーノーツの小さんが花緑に伝えた《ちりとてちん》の見解を読んでから聴くと、これまで何度となく聴いてきた噺が違う視点で聴けるものに。


 落語だけでなく芝居にも活動の場を広げていて、この8月には宮本亜門のミュージカル『狸御殿』への出演も決まっている花緑ですが、先日、独演会のゲストに登場したのが、音楽朗読劇で2度共演したという、声優の山寺宏一。アニメ化されて好評の『昭和元禄落語心中』では有楽亭助六役を演じて落語も披露してますが、東北学院大学の落語研究会ご出身だそう。この日はお二人のトークで盛り上がりましたが、花緑に稽古をつけてもらって高座デビューという日が来るかも、ですね。ちょうど19年続いた人気番組『おはスタ』卒業、というタイミングだったのでその話になり、番組を観ていた子供たちが大きくなって、いまは仕事相手になったりしているので、下の人たちとのご縁は大事、と山寺宏一。たしかに、マクドナルドが子供向けにおもちゃがついたセットを出しているのは、小さいときに馴染んだ味は大人になってからも求めるものだからだとか。だとすると、花緑がNHKの人気子供番組『にほんごであそぼ』出演で、子供たちの間に《寿限無(じゅげむ)》ブームを起こしたのが10年くらい前でしたから、そろそろその子たちが10代になってきていて、新世代の花緑ファンがこれから急増するかも?ですね!

CD『柳家花緑 1 七段目/ 笠碁』
柳家花緑
[GT music MHCL-1431]

CD『柳家花緑4 ちりとてちん/ 蜘蛛駕籠』
柳家花緑
[ 来福 MHCL-2566]

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