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第60回:思い出し笑い「七カ国語で世界を翔る落語家・三遊亭竜楽」(&ツルコ)


第60回:七カ国語で世界を翔る落語家・三遊亭竜楽

*intoxicate vol.115(2015年4月発行)掲載

 ずいぶん前の話ですが、オーストラリア在住の友人(落語好き日本人)から、日本人会で現地の人々に日本文化を伝えるイヴェントを企画しており、そこで落語や演芸はどうかなと相談を受けたことがありました。それなら、寄席で“色物(いろもの)”と呼ばれる、漫才、太神楽(だいかぐら)、三味線漫談などの伝統演芸の中で、お客様のリクエストで1枚の紙から物や人、場面などをハサミ一本で切り出していく紙切りや、傘の上で鞠や桝を回したり(海老一染太郎、染之助の姿が浮かびました? それです!若い方はご存知ないかもしれませんが…)、鞠や土瓶をつかった曲芸を見せる太神楽などは言葉がなくても伝わりますし、いいかなと。なにより“この芸をオーストラリアのみなさんにお見せしたい!”と思ったのは、三増紋之助さんの独楽の曲芸。細い棒の先で大きな独楽をありえない角度で回してみせたり、刀の切先で回したり、とドキドキハラハラさせてくれるんですが、そのなかでトトロが登場する芸があって、それがなんともかわいくて。トトロは当時すでに外国でも知られていましたから、海外でもウケること間違いなし!と盛り上がったのですが、落語となると言葉の問題があって、理解してもらうために英語でやるのか、字幕をつけるのか、と悩んだりしたものの、結局実現はせず、でした。残念!


 最近では、英語など外国語での落語を手がけている噺家さんもいますが、七カ国語落語という驚きのレパートリーをもつのが、円楽一門の三遊亭竜楽。先代の五代目・三遊亭円楽の弟子で、古典落語をきちんと演じる噺家さん、というイメージでしたが、海を渡ってあちこちの国で、現地言語による落語公演を行っているんですね! 


 海外での高座、日本で留学生に向けての高座などを収録したDVDで、驚きの多言語高座を観ることができます。演目は、「味噌豆」「気の長短」「ちりとてちん」など、登場人物が少なく、わかりやすい噺が選ばれています。フランス語落語では、小僧・定吉の「旦那さま」の呼びかけが「ムッシュー」で、返事の「へーい!」は「ダッコー!」ですよ! 映像では、聴いている人たちの表情もときどき映しているのですが、みなさん興味津々で、サゲでは爆笑も。落語に入る前に、扇子や手拭いのことなど基本情報をレクチャーしていたようですが、表情やしぐさなどは、どの国でもちゃんと通じるものなんですね。終演後のお客さまインタヴューも収録されていて、人物の演じ分け、表情や身ぶり手ぶりの表現に感動していましたし、中には「間」が豊かだときちんと理解しているかたもいるのが素晴らしい。


 2008年にフィレンツェのフェスティバルでイタリア語落語を演じたことが、現地語落語を手がけていくことのきっかけになったそうですが、ヨーロッパを中心に33都市、120回以上も公演を行っていて、昨年は初のアメリカ公演を行っています。2作目のCDに収録されている「くしゃみ講釈」のマクラで、この現地語落語について話しているのがとても面白いのですが、2010年のこの頃はまだ六カ国語で、その後ドイツ語が新たに加わり七カ国になっています。さらに今は中国語での落語に取り組んでいるそう! 2020年の東京オリンピックの時には、東京を訪れる各国からのお客様に落語を楽しんでいただくことができそうですが、その頃には何カ国語RAKUGOになっているんでしょうね!

DVD   『三遊亭竜楽の七カ国語RAKUGO』
[ フランス語]「味噌豆」&「ちりとてちん(一部)」
[ 英語落語]「味噌豆」
[ イタリア語]「気の長短」
[ ポルトガル語]「味噌豆」
[ ドイツ語]「気の長短(一部)」「味噌豆」
[ スペイン語]「気の長短」
[ 日本語]「ちりとてちん」
【スロウカーブ SRSD-1501】

CD   『三遊亭竜楽2』
「厩火事」「くしゃみ講釈」
【ワザオギレーベル WZCR-11002】

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