前世、そして未来の記憶~須賀敦子
内容を確認せずに、作家名だけで本を買うなら、須賀敦子と堀江敏幸の二人だ。何が好きかと問われれば、文学を知っているふりをして、文体がものすごく上品で巧みで、言葉選びが好みですと、人を寄せ付けない答えを用意している。でも理由はまったく違うところにある。
セレネッラの咲くころ
陽射しのあかるい朝だったようにも思う。いや、すこし汗ばむ夏の終りの午後だったかもしれない。街はずれのしゅうとめのところに行くと、ドアが半開きのままになっていて、家のなかはからっぽだった。私がミラノで暮らすよ