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ドラマのようになんでも治せる外科医はいない?〜細分化された専門領域〜

お医者さんというと、身体のことはなんでも知っていて、なんでも治せる。
そんなイメージはありませんか?

ドラマで出てくるスーパードクターは、なんでもできることが多いですが、実際にはそうではありません。

今日の結論としては、なんでも屋さんのスーパードクターはいない、ということでしょうか。

こんな人は必読

・医師を目指している学生さん
・医療ドラマが好きな人
・前回の救急の記事を読んで、医師は急病人に対して適切に対応できるから、失敗なんてしないでしょ、と思っている人
・先週の合コンで出会った、外見は60点くらいだけど医師と名乗るあの男性は、いったい何が専門なんだ?状態の女性

ドラマの世界

ドラマの主人公になる医師って、なんでもできてカッコイイですよね。
(個人的にはヘタレ医師を主人公としたドラマを見てみたいです)

そんなカッコイイ主人公、特に外科医がイメージしやすいと思います。
決してできないとは言わない。
むしろ最後の砦的な存在。
そこそこ若いのに。

お腹の難しい手術を執刀し周囲から尊敬の眼差しで見られる主人公。

速くて正確な手捌き
この難易度の高い手術をこんな短時間で終わらせるとは、、、
見事だ。

おや?翌週には心臓の手術をしているではないか。。
心臓もできるのか。
規格外すぎる。。。

と思ったら、最終的に頭の手術もするんかい!!
こりゃお手上げだわ。

なんてドラマ、珍しくありません。

が、実はこれ違和感ありすぎです。
皆さんも違和感を感じていますか?

専門性の細分化

昔は、身体のことはなんでも医師に聞けば解決する、という風潮があったかもしれません。
風邪でも怪我でも、子供でも高齢者でも、お腹でも腰でも。

町医者、家庭医、ジェネラリスト、などと呼ばれる医師像が、皆さんにとっての『医師』であった時代ですね。

しかし、現在の医師は、細かく専門性が分かれています。
医学の進歩とともに、診断も治療もかなり複雑になった結果でしょうか。

なんでもかんでも、ではなく、
スペシャリストと言える専門性が必要とされる時代なのです。

例えば、私は外科医です、と名乗ると

そうなんですね。手術するんですか?すごいなー

と反応してくれる方は沢山いますが、

なに外科ですか?

とすぐに質問してくる方はほぼいません。
(そもそも何が専門の外科医なのかまで、興味はないのでしょうけど、、、)

外科ってすごく聞き慣れた言葉ですが、単なる『外科』という診療科目は、現在ほとんど使われないのはご存知ですか?

外科医とは

外科専門医ってことは『外科』の専門医でしょ?
ということは『外科』って診療科目があるんでしょ?

そうなんです。そこがややこしいんです。

外科専門医とは、一般的な外科領域全般の専門医を指します。
その資格は日本外科学会より認定され、外科診療に必要な基礎的知識、検査、処置、麻酔手技を習熟し、一定レベルの手術を適切に実施できる能力を習得していること、が条件とされます。

それでは先ほどから出てくる一般外科や外科診療とはなんなのか。
定義が非常に難しいですが、消化器外科、呼吸器外科、心臓血管外科、乳腺甲状腺外科、外傷外科、小児外科などを総合して『外科』と表現します。

だから外科専門医の資格を取得するには、
虫垂炎や大腸癌などの消化器手術
気胸や肺癌などの呼吸器外科手術
心筋梗塞や大動脈瘤などの心臓血管手術
乳癌や甲状腺癌などの乳腺甲状腺手術、、、
など全ての領域を一定数経験する必要があります。

そして、その領域に関する試験を受けて合格すると、晴れて外科専門医になれるのです。

外科専門医の本当の専門は?

それでは外科専門医の専門は、外科なのか?

上述したように医療は細分化されています。
外科専門医は確かに外科の専門ですが、まだまだスペシャリストと呼ぶには領域が広すぎます。

外科医は、外科専門医を取得した後に、それぞれの専門臓器の資格を取得します。

私の場合は、呼吸器外科専門医になります。
主に肺を専門として扱う外科医です。
先に出た気胸や肺癌が代表疾患となります。

呼吸器外科の他には

消化器外科専門医
心臓血管外科専門医
小児外科専門医
乳腺専門医
etc…

と、細分化されているのです。

ここまで理解が進むと、先のドラマの違和感の理由が明確になりますね。

お腹の手術は消化器外科を専門とする医師
心臓の手術は心臓血管外科を専門とする医師
が執刀するのが一般的です。

もちろん、ダブルライセンスを取得することは可能ですが、現実的にはかなり難しいです。

他にも○○外科ってありますよね?

外科医の話をしてきましたが、〇〇外科がないなぁ、、、と気がついた人もいると思います。

例えば整形外科。

外科と名前がつきますが、いわゆる外科医とは違うのです。
いや、もちろん外科医なんですが、
診療科目としての『外科』とは異なるのです。

つまり、整形外科は整形外科。

だから整形外科の先生方には外科専門医という資格は必要ないのです。
資格としては整形外科専門医。

ですが、そこからさらに領域が細分化。
整形外科の中でも、スポーツが専門なのか、膝が専門なのか、股関節が専門なのか、手が専門なのか、脊椎が専門なのか。。。

これと似たのが脳神経外科。

脳神経外科も外科ですが、いわゆる『外科』とは異なるので、外科専門医は必要ありません。

脳神経外科の先生が持っている資格は、脳神経外科専門医です。

詳しくはありませんが、おそらく腫瘍、脳卒中、外傷、てんかん、変性疾患などに細分化されるのでしょう。

その他にも手術をする診療科は沢山あり、一般的に外科系と呼ばれます(手術をしない内科系の診療科目との対比で使われる言葉です)。

例えば、泌尿器科、産婦人科、耳鼻科、眼科、形成外科、口腔外科、救急科などがあります。
日常的に手術室で生活する部類の診療科ですね。

専門以外の知識はどこまであるのか?

それでは、専門以外の知識はどれくらいあるのでしょうか?
正直、私はかなり自信がありません。

私の経験を振り返ります。

まず、医師免許を取得するための国家試験では全ての診療科目が出題範囲となります。
まだ医療行為ができない学生ですので、知識を問う試験ですね。

続いて初期臨床研修医の2年間で、いろいろな診療科目の研修をします。
下っ端の医師として、各種内科、麻酔科、救急科、消化器外科、整形外科など、数ヶ月単位で多くの臨床経験を積みながら勉強します。

その後、自分の希望する診療科目に進んでいくわけです。
私の場合は外科なので、消化器外科、心臓外科、乳腺外科などの一般外科を3−4年かけて経験し、外科専門医を取得しました。

その後は呼吸器外科一筋で臨床に携わり、医師9年目くらいに呼吸器外科専門医を取得しました。

ということで、呼吸器外科領域はもちろん専門です。
一般外科領域に関しても、それなりに経験を積みましたので、ある程度の知識はあります。

が、あくまである程度、です、
医療は日々アップデートされます。
治療薬、ガイドライン、手術方法、予後など、どんどん変わる中で、私が持っている知識は古いものになっていきます。
そんな状態で患者さんの診察はできませんよね。

もちろん、他領域の手術をする自信もありません。
過去に執刀した難易度が高くないとされる手術でさえ、患者さんを治療させていただくのであればもう一度勉強が必要です。

それでは外科以外は?
わかりやすいのは臨床研修で勉強した内科系。
こちらも、もちろん少しは知識があります。
上澄みの、薄っぺらい知識です。
しかも古い知識。

内科の知識は2年目の臨床研修医の方が詳しいなんてことも珍しくありません(研修医2年生)。
だって、新しい知識をつい最近までバリバリ勉強してきたのだから、我々が知らない薬や、忘れてしまった検査などに関しては、研修医に聞く方が早かったりします。

そして、臨床研修で経験していない診療科目、私の場合は眼科や耳鼻科、産婦人科などなどですが、これらは国家試験の勉強以来、大幅なアップデートはありません。

国家試験は、医師になるための最低限の知識。
しかも私にとっては10年以上前。
そりゃ今現在、使い物にはなりませんよ。

少しは知識があるので、本を読んだりすると理解できる程度。
もちろん手術はできるはずもない。

それくらい、医師の専門性って細分化されているのです。

まとめ

医師の専門性について、少しご理解いただくことはできましたか?

医師だからといってなんでも知っていて、なんでも治療できるわけではないのです。

医療は日々アップデートされます。
だから、私たちは医師は自分の専門分野でさえ、日々勉強しています。
患者さんに、最適な知識と治療をお届けするために。

前回の記事では、急病人への対応について書きましたが、医師は急病人の対応をするとき、非常に緊張しています。

だって自分の専門ではない対応だから。

毎日やっている手術だったら、考えなくても手は動きます。
だけど急病人の対応は別。
まして初めましての人、全く情報のない状態で自分が何かをしなければならない。

実際にはかなり勇気が必要なんです。

今後は、医師をはじめ医療者の方々に優しく接してあげてくださいね。

最後に問題です

病院内でも急病人は出ます。正確には急変でしょうか。
そんな時、院内にドクターコールがかかります。
医師をはじめ、まず人手を集めるのです。

そんな病院内でのドクターコールで、真っ先に現場に駆けつけるのは、何科の先生方でしょう?

やはり外科ですか?それとも内科ですか?

この先生方は、ドクターコールを聞くと院内を全力で駆け抜けます。
病院内で働いているつもりでお考えください。


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