「一生、ネタで食べていきたい。」コント芸人、春原みのり 公募インタビュー #1
〈春原みのりさん(茗荷谷デッドボール) 2020年5月初旬〉
公募インタビュー第1回目は、お笑いコンビ“茗荷谷デッドボール”の春原みのりさんにお話を伺いました。
…いきなりお名前を出してのインタビューのようですが、実は彼女は、実在しません。とある執筆中の小説の登場人物です。
小説のタイトルは「Laugh and laugh your life away(仮題)」。作者の方が、小説の登場人物へのインタビューという体でやってほしいということで、応募してくださいました。実際にお話しされているのは作者さんです。
インタビュアー田中、初回から想定していなかった使われ方で驚愕‼︎そして大変楽しみに当日を迎えました。
※実在する方としてインタビューを行っていますが、この方の登場する作品はフィクションです。実在の人物や団体とは関係ありません。
※──が付いているのはインタビュアー田中の発言です。
付いていないのは春原みのりさんの発言です。
春原(すのはら)みのりさん 27歳、女性。相方の“まいちゃん”と大学在学中にコンビ「茗荷谷デッドボール(みょうがだにでっどぼーる)」を結成。コントを中心に活動している。東高円寺在住。
「茗荷谷デッドボール」
──芸人さんとしての活動について教えてください。
最初からずっと、コントをやっています。月に2回、事務所ライブに出て、あとはお金を貯めて、芸人同士でライブをやったり。
キングオブコントは毎年挑戦していて、一度準決勝まで行きました。そこから少し深夜番組に出させていただいたりとか、先輩が司会をやっている番組に呼んでいただいたりとか、だんだんテレビでの露出も増えてきました。営業も行きます。
あとは、先輩のライブがあったら手伝ったりもしています。
最初は相方のまいちゃんが、お笑いやろうよ、面白いの好きでしょ?って誘ってくれて。やってみたら楽しかった、っていう。
まいちゃんとは同じ大学に通っていて、授業で会って仲良くなりました。それで二人で他大学のお笑いサークルをのぞいてみたのが最初です。
その後、大学をドロップアウトして事務所の養成所に入りまして…1年養成所に通って、事務所に入りました。養成所に入ったのが21歳、その後事務所に入ってからだから…芸歴は5年くらいですね。
事務所は中堅どころであまり大きくはなくて、もちろん大きいところは劇場を持ってるとか、そういうのはうらやましいなと思うんですけど、人間関係はすごくいいですね。先輩後輩の関係もフランクだし。
養成所から上がってくるときに、マネージャーさんが「この子たちの面倒を見たい」って思ったら事務所に採用される仕組みになっているんですよ。なんで、マネージャーさんもすごく私たちのことを見てくださっているので、ありがたいなと。
──ネタはどうやって作るのでしょうか?
ネタは、相方と一緒に掛け合いしながら作りますね。最初のアイディアにまいちゃんの返しを入れながら調整していって、最後にはPCで清書します。最終的な方向性は私が決定しているかもしれないです。先輩にアドバイスをいただくこともありますが、基本的には二人で作っています。
映画が好きで、レンタルビデオ店でバイトをしていているのですが、映画を使ったネタも結構作っていますね。誰もが知っている、例えば「バック・トゥ・ザ・フューチャー」なんかを元ネタにして、ひっくり返して笑いにするというような作り方です。
バイトは今は週に3回くらい。少し前までは週5で入っていましたが、芸人の仕事が忙しくなってきたので。でも、芸人の仕事は1回のギャラが少ないので、収入は全体で見ると減っていますが(笑)。
──「茗荷谷デッドボール」、このコンビ名の由来は?
実は下ネタなんですが(笑)、「鶯谷(うぐいすだに)デッドボール」という、おねえさんたちがいるお店があるんです。それを文字って、それと私たちが通っていた大学が茗荷谷にあったので。
コントのネタも、下ネタがあったりします。女性のお笑い芸人って難しくて、かわいらしさ、女性としての皮をかぶっていくと、むしろお客さんからはひかれちゃうっていうところがあります。そこをひっくり返してネタにして、女性に嫌われないように、というのは考えますね。私たちは敵視するような対象じゃないですよ、と。
──ビジュアルはどういった感じですか?
華はないです。見た目に特徴を出さず、普通の人がおかしいこと言ってるぞみたいな風な笑いの作り方をしているので、割と普通な感じにしています。特におしゃれとかかわいいとかもなくて。
ファッションはストリートっぽいですかね。コントでは役によっては女性らしい服も着ますけど。
女ができる笑いについてずっと考えている。
──大学を中退してプロになろうと思ったのは、在学中に認められたようなことがあったから?
就活か、お笑いを続けるかというタイミングで、二人とも全然就活する気がなかったんですよね。あとまあ、全然素人で事務所に入っていないときのキングオブコントで、三回戦まで行ったんですよ。これはいけるんじゃないかと図に乗って(笑)。
お笑いの道へ行く方が自由かなって思ったんですよね。どの選択をしても壁にぶつかることはあるだろうけど、この世界の方が、就職するよりももっと自分の実力でやれるんじゃないかと。
お笑いの世界に入る前、例えば自分たちが女子大生だ、とか、何らかのレッテルを貼られてしまう、存在にバイアスがかかってしまう、というのを感じてたんですね。普通に就職したときには、それは私たちを縛り付けるものになるんじゃないかと。でも、お笑いの世界では、かえってそれがいい効果を生むんじゃないかと思いました。
学生時代に学祭の舞台に出て行ったときに感じたのは、そんなバイアスが有利にも働くこと。割と真面目な大学だったので、真面目な大学の女子大生が出てきて変なことをやるっていうのは、ブーストにもなって。
──お笑いの世界に飛び込んでみて、その予感は当たっていた?
ある意味当たってはいるんですけど、こっちの世界でも自分たちのいいようにだけバイアスが働くとは限らないですね。
一回、コントでおばちゃんキャラをやったときに、何のためらいもなくそこらへんで着替える、みたいなネタをやったら、本当に変な空気になっちゃって(笑)。そういうことじゃないじゃんって先輩に言われたことがありました。
男の人って脱いだだけで面白いとされているのに、女だと違うとされちゃうんだな、と思いましたね。
女の人にできる笑いって何なんだろう?というのは、ずっと考えていて。男の芸人に合わせることではないんだよな、と気づいたのは2年目くらいでしたね。それまでは割と楽しいだけというか、何かの模倣でも、たまたまうまく回ってたのかも。
でも、お、これは他人の真似だけではやっていけないぞと。そこで外国のコントとかもたくさん見るようになって、コメディエンヌっていうのはどういう立ち位置、どういう使われ方なんだろう、そういうことを意識して見るようになりました。
割と売れている先輩にネタを書いて、やっていただいたことがありました。先輩とも一緒に考えながらなので、完全に私一人が書いたわけじゃないですが、一応、提供みたいな感じですね。自分が書いたものを他の人がやるということが初めてだったし、しかも先輩で、すごく大きい舞台でやられていたので、緊張してライブ最終日まで見に行けなかったくらいです。
でも実際に見たら、自分の思ってた感じと違ってたんですよね。女性のキャラクターも書いたんですけど、何というか、笑い用に女性というものが一度変換されている感じがしたんです。
自分がそのネタで演じるとしたらそうじゃないよなあと思って、でもそれをそのままやったら、先輩たちはどう思うんだろう。それは違うだろう、お笑いじゃないだろうという風に言われるのかなって。
先輩はそのネタに満足してくださったけど、稽古中に自分が伝えきれていなかったなっていうのがあって。苦い経験ですね。
──お客さんには、女芸人としての笑いを考えながら作っている、というのは伝わっている様子ですか?
そこまで直接的に作っているわけではないんですけど、女性だから出てきた悲哀みたいなものを入れたら、気づいてくださった反応をSNSにいただいたりしましたね。あのネタ良かったです、って。うれしかったですね、それは。
──入ってきた仕事は全部断らずに受ける?
マネージャーさんが向き不向きだったりとかを判断してくれて、だめそうなのとかは、どう?って聞いてくれますね。
例えばガツガツした感じというか、女女した感じの仕事というのはしたくないなっていうのは実はあって。すっごい生意気なんですけどね。
──イケメン芸能人と共演して、喜ぶみたいなのとかですか?
そんなのまだ来たことないですけど、来たら断りてえなとは思いますね。(笑)
──体張る系の仕事はどうですか?
体張るのとかは、それって本当に面白いのか、安易だな、って思ったりします。尖った若手みたいな感じですけど(笑)。すごい生意気ですね。
でもそれはきっとマネージャーさんが入れますね(笑)。なんだかんだ言っても、笑いが取れる、顔が売れるっていうことじゃないですか。ネタだけ見てもらいたいっていう都合のいいことはまかり通らんよと。
ネタ番組は以前に比べたらすごく少なくなってしまいましたよね。ちょうど私の学生時代はネタ番組がたくさんあった頃。ネタで切磋琢磨できた時代がすごくうらやましいです。
ネタで食べていくために
──芸人さんとして目指している状態や位置は?
まず賞レースでタイトルを取りたいです。タイトルを取ることで実際の現場(ライブ)に来ていただける、っていうのがあると思うので、狙っていきたいですね。で、劇場は全然怖いところじゃないよ、ってわかってもらって、新しいお客さんを呼べたらなと思います。
いずれは、劇場だけで、ネタだけで食っていけるようになりたい。今、ネタは面白いのに食えない芸人、同年代でも先輩でも、本当にたくさんいるんですよ。
実は芸人界隈って、お客さん自体は結構入ってるんです。私たちでも単独ライブをやれば、ちゃんと埋まるんですけど、それがまあびっくりするほどお金にならない。
お笑いは、結構チケット代が安いんですよね。自分たちも持ち出しが多いです。単独ライブも、あまり儲からないような仕組みでみなさんやられている。
力量があっても食っていけないのは何でだって気持ちを持っている同年代の子たちと、そこを収益化するようなスキームを考えています。
キングオブコントは毎年挑戦して、一度準決勝まで行ったんですが、当たり前ですけど、みなさん強いですね…!賞レースに勝つには、ネタの出来だけじゃなくて、その場でそのパフォーマンスをちゃんとやりきれるかっていうのが大きいです。
この間ウケたときのあのテンションが出せるか、あの最高値にこの場で持っていけるか。ネタの出来ももちろん重要なんですけど、いっぱい練習して、ピークをいかにその何分間か、キングオブコントならその5分間に持っていくかっていう。
──練習はたくさんされますか?
私は割と練習するのが好きなので、家で一人でもやりますし、稽古場で相方ともやります。
──練習は常に二人とも同じテンションでできるもの?
やろうやろうって私が言っても、向こうが乗ってこなかったりもありますね。難しいですよね、相方の機嫌をとりつつ。
相方は天然物、パッと言う返しが天才的に面白かったりするタイプなので、その天才的な感じを出させよう、出させようとしています(笑)。
──女性だけの賞レースもあるようですが、どう見ていますか?
どうなんですかね、あれも…。阿佐谷姉妹さんとか大好きなんですけど。(※阿佐谷姉妹:女芸人No. 1決定戦The W 2018で優勝) わざわざ女性ってくくられるのも、違うじゃんみたいなところはありますね。
──個人的に、多くの男性芸人の中で埋もれる女性芸人という現状があるから、わざわざ女性だけの賞レースがあるのかなと解釈しているのですが、男性芸人の方が売れやすいということなのか、それとも、ただ絶対数として女性芸人が少ないだけなんでしょうか。
男性の方が正攻法が決まってるっていう感じがあるんですかね。女性だと、何か一度翻訳を挟まないといけない感じがありますね。女性用に翻訳しないといけない、みたいな。
男性でも、その正攻法に乗らない芸人さんというのももちろんいて、売れている方もいるので、そう考えると関係ないのかなという気もします。だから男女関係なく、絶対そのルートが一番早くて正しい、という感じじゃなくなるといいですよね。
──一生ネタをやっていきたい?
そう思っていますね。
他のこと、例えば場を回すみたいな役割をライブで任されてもそんなにうまくいかなかった経験があるので、やっぱりネタだな、と。やっぱり時間も見ながら場を回すっていうのは難しいですよね。話を広げて、とか。
大喜利とかは結構好きなんですけどね。考え方のスイッチみたいなのが好きなんですね。通常の答えじゃない方向に飛ばしていく。とんちんかんなことをやる、っていうか。
何組か合同で、大喜利だけのライブをやったりもしています。
恋愛は楽しいが、一番じゃなくていい
──プライベートの話も少し。恋愛についてはどうですか?
割と泥沼にハマりがちですね(笑)妻子があったりとか。そっちの方が楽って思っちゃうんですよ。私、お妾さんのポジション希望なんです。私もお笑いが楽しいので、そんなに優先されなくていい。家庭や結婚はあまり関心がないです。
でも恋愛は楽しいは楽しいですからね。道を踏み外しそうな人を見出してしまう。で、好きになっちゃうんですよね、そういう人のことを。
(注;フィクション作品の登場人物の発言です)
──そういうのもネタにしたり?
実際シャレにならないことだけど、それをシャレにしますね。その身も蓋もなさって、お笑いだから見れるみたいなところあるじゃないですか。
──話を聞いているとモテそうですが
見た目とかは全然そんな感じじゃないので。警戒されないように、わざと野暮ったく。
──策士ですね(笑)
そういうのが好きですね。コントを書くときも、これだからこうっていう理屈を作るのが好きで、その通りにことを運びたいみたいな。
…世の中の人に本当に申し訳ない。気をつけなはれや!人のネタですけど(笑)。
この先のこと。女芸人と結婚って
──ずっとまいちゃんとお二人で、コンビでやっていきたいという思いでやってらっしゃる?
そうですね。でも、先輩にネタを書いた時っていうのは緊張はしたんですけどすごくいい経験で、そういう、作家的な道もあるかなとは思いましたね。
人にネタを提供するのは面白いと思います。まいちゃんは天才肌で強いキャラがあるけど、まいちゃんにできないこともあるし、逆に他の方々にできることというのもあるので。
芸人仲間でコントだけをやる、コントグループみたいなのも作っています。他の芸人とネタを作るのもやりたいですね、これから。
今までお笑いをやめようと思ったことは私はないんですけど、まいちゃんはいつか、もしかしたらあるかもなあ、というのも考えます。女性芸人の先輩で、婚活がしたいという理由で活動を休止した方がいるんですよ。そうか、結婚したいとは思わない、恋愛でも妾ポジションを積極的に狙っていく私のような不埒な人間(笑)と違って、そういうことも他のみんなは考えるだろうなと。
それも女性芸人ならではだと思ったことですね。男の芸人さんは婚活するからってやめないじゃんって。女は芸人やってたらできないんだ、結婚?って。なんだかもどかしい気持ちになりますけどね。
──もしまいちゃんがそう言い出したら…?
本人が結婚と芸人続けるのとを天秤にかけるって言うんだったら、止めることはできないですよね。そして芸人辞めるって言われても、止められないです。だからその時までに私もちゃんと、もっと一人でもなんとかできるようにしないと。まいちゃん、長くお付き合いしている人がいますし。
──そういうことは今のところコンビでは話さない?
怖くて聞けないんですよ(笑)。
目の前のお前たちに届け!
──最後に、お笑いをやっていて楽しいですか?
それはもう楽しいです。皆さんに笑ってもらえたら本当に楽しくて、それでお金をいただけるってありがたいことです。
取れる笑いの一つ一つを積み重ねていくしかないだろうなと思っています。目の前のお前たちに届け!と。(笑)
(終わり)
お読みいただきありがとうございました!
次回は、公募インタビュー#2 お笑いコンビうすくら屋のシュースケさんのお話。(次回は実在の方ですw) 偶然ですが、この企画を始めてから4回連続してお笑い関係。更新はだいたい一週間に1回の予定です。お楽しみに!
インタビューされたい方、随時募集中!詳細はこちら♪
今回のように、「自分ではない誰か」としてインタビューを受けるというのも、ありですね!かえって、思ってもみなかった自分が見えたりして!
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