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第6回 友人インタビュー「大型書店で働いていた話」2/全4回

(Fさん 2020年5月初旬)

インタビュアー田中友人インタビューシリーズの第6回。
数年前まで首都圏の大型書店にお勤めだったFさんのお話です。書店のお仕事のあれこれを、Fさんの7年間の経験からお聞きしました。

※インタビュアー田中の発言の前には──が付いています。
 付いていない発言はFさんの発言です。

※個人的な経験と記憶に基づいたお話です。事実、あるいは現状と異なる箇所があるかもしれません。

全4回のうちの2日目。本屋さんの棚卸し作業、こんなことが行われているんですね…!

新刊本、何冊入れるか

──新刊本というのは、取次さんが持ってきてくれるんですか?

 大型店舗だったので、新刊は、ほとんどの本が自動的に入ってきていました。
 話題の新刊が入りそうな時って、何ヶ月か前には情報が入ってくるので、担当者が入荷数を決める場合は、同じジャンルの担当者同士で何冊入れるか話し合いをして、これは売れそうだから強気にいきましょうみたいな話はしますね。それが当たったらうれしいし、外れたら悲しい(笑)。
 本によっては、本社の方で決める場合や、すごく話題の本だったら上の役職が決める場合もあれば、担当者レベルで僕らが決める場合もあるしで、入荷数の決め方はまちまちです。

──新刊はどれくらいの頻度で発売されるもの?

 ほぼ毎日、自分の担当棚だけでも多い時は10点以上入ってくる時もありましたよ。

「棚卸し」

──棚卸し(たなおろし)っていうのが定期的にあるんですよね?

 棚卸しは年に1回。休業せずに一晩徹夜でやります。

──徹夜で!

 棚卸し業者さんにも入ってもらって、その時点でそこのお店にある本は全部把握します。税務的な話なんで、それは間違っちゃいけないんですよね。保有資産を把握するために棚卸しが必要なんです。

──本棚にある本と、保管場所にある本とを、全部合わせて。

 ぜーんぶチェックする。
 棚卸し業者さんは、基本的に棚にある本を片っ端から全部スキャナーで読み込んでいく。ISBNがある本については、ピッて、レジを通すみたいにどんどん読み込んでいけます。
 ISBNがついていない本とか、何十冊も同じ本で裏にまとめてあるやつとか、バックヤードの本は全部店員たちで数を把握します。
 店員がやる分は4〜5日かけて、徐々に徐々にやっていきます。在庫が狂っちゃうんで、1回読み込んだら棚卸しが終わるまで売れません。で、店頭に出てる分は業者さんに徹夜でやってもらう。

──4〜5日のバックヤードの棚卸しの間は、お客さんにほしいんですけど、って言われてもバックヤードの本は売らない?

 売らない。売れない。本来なら。
 ちゃんと売れる数は別で確保しておきますけどね。これは何冊は売れるだろうから、ここから4〜5日間、これだけは棚卸しの数には含めずに店頭に出しておこうっていう作業はもちろんします。それでも足りなかった時には基本的には「ありません」と言わないといけない。でも、あとで手間はかかるけども数を調整はできるんで、売っていました。

──棚卸しは、大変な作業ですか?

 大変な作業ですね。年に1回と言っても、3〜4ヶ月前から棚卸し委員が準備をやり始めて、どのように棚卸ししていくのか計画して、それに向けて在庫を減らしていくんで、全部本をチェックして、売れないだろう本を返品したりとか、そういう作業を3ヶ月の間ずっとしてます。

──その間にも新刊は入ってくるわけですよね。

 入ってきますね。なので、在庫をちゃんと減らして、棚卸しをしやすいように準備をしていく。で、最後の数日でガッと一気に棚卸しをする感じ。棚卸し後は、本を減らしちゃってるんで、いつもより品揃えが悪いかもしれないです。だから、毎年、棚卸し後1〜2ヶ月は売り上げが下がっちゃうんですよね。

出版の傾向でレイアウトを変える

──棚担当者の仕事として、レイアウト変更というのもあるんですか?

 社会の棚なんか特にそうなんですが、社会の流行によって、一時期、ある系統の本の出版が増える、というようなことがあるんですよ。僕のいる間だったら、NPO系の本とか、地政学に関する本の出版が増えた時期がありました。そういう時にそこの棚を拡充したいねっていうことで棚のレイアウト自体を変えることがあります。
 流行ると、それに類する本がたくさん出る。それらのための棚を新たに作ったり、で、売れなくなったジャンルの棚はもう縮小したり、みたいなことをしますね。ちょこちょこっと変えれば済む場合もあれば、大胆に変えてしまわないとダメな場合もあるし。

──レイアウト変更は夜間にやるんですか?お客さんがいる時にもやる?

 空いていればお客さんがいる時にもやります。大幅に変える時は夜間にやる時もある。
 特に顕著なのが、教育関係の本をフロアで扱ってたんですけども、毎年3月に先生が読むための教育書がたくさん出てくるので、毎年2月から4月終わりぐらいまでは教育書の棚が1.5倍ぐらいになるんですよ。その分歴史書を減らしてたんで、それは2、3日かけて夜残業してやっていました。

──レイアウトを変えるのは、誰の号令でやるんですか?

 一番感覚があるのが担当者なんで、最近こういう本が増えてきたんで大きくしたいんですけど、と上司に提案して、やったりしますね。もちろん上司から降ってくる話もありますけども。

書店員に大事なこと

──書店員さんに一番大事な知識は何でしょうか。
  本の名前をいっぱい知っていること?

 本の名前は、覚えようとすれば覚えていくんですよ。なので、どうなんだろ…「本自体を有機的に結びつけることができる」ということかな。こういう人のこういう論を探してるなら、この人の周辺が近いですよとか。思想とかだと特にそういうのが必要になってくるし。

 例えば哲学担当は、本当に哲学に詳しい、しかも現代思想にすごく強い人がやってたんで、そういう人にはお客さんがついていました。あの人に相談すれば間違いない、と。

 法律関係は定番書が決まっているので、何から勉強したらいいですかって聞かれたら、ああこういうところからですねっておすすめはできます。法律や本の内容を知らなくても、もちろん読んだことなくても。テキストでよく使われている本とか、定番があるわけです。「芦部憲法」って呼ばれる、テキストに使われる有名な憲法書があるんですけども、それをおすすめするとか。知識はついてきます

「憲法」芦部 信喜 (著), 高橋 和之 (その他)/出版社: 岩波書店

──売り場にいたら、覚えようとしたら覚えていくものなんですか。

 覚えてく。とは言え人次第で、「海外事情」の棚で、興味なかったんだろうね、馴染みのない国の名前とか覚えてなくて、全然違う地域の棚にささってたりするんですよね。
 愕然としたのが、「行政」の棚のとこに日本の「中国地方」の棚があるんですけども、そこにあるべき本が時々「海外事情」の方の「中国」の棚に入ってたりする。

──(笑)冗談みたいな話ですね。

聞き取り:インタビュアー田中

(3へつづく)

3/全4回「定番フェア・自由企画フェア」「書店員のPOPは伝わる」「うれしかったこと─良本発掘」「本は高くて買えない」

4/全4回「気難しいお客様 接客のこと」「売り上げの減少、出版社の自転車操業」「書店における左右のバランス」「書店員の醍醐味─面白い本を紹介する」

←「大型書店で働いていた話」1/全4回「棚担当(たなたんとう)」「在庫と補充」「取次さん」 「万引き、せどり、その対策」はこちら

大型書店で働いていた話」全4回の記事をまとめたマガジンはこちら

この人に聞けば間違いない。有機的につなげられる知識、いいですねえ…憧れる。話し込んじゃうお客さんもいそうですよね。

次回は「定番フェア・自由企画フェア」「書店員のPOPは伝わる」「うれしかったこと─良本発掘」「本は高くて買えない」です!お楽しみに!

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