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魚返明未さんへのインタビュー/第4回「人をインスパイアできるような人間でありたい」

ジャズピアニストの魚返おがえり明未あみさんにインタビューしました。
第4回では、昨年リリースされたデュオアルバム『魚返明未&井上めい』に対する思いや、これからやっていきたいことについて伺っています。

人の悲しみや喜びを受け止めてきた音楽、ジャズ。
その世界に触れられるインタビューです。

動画版はこちら

魚返明未さんプロフィール
1991年生まれ、東京都出身。
東京藝術大学音楽学部作曲科在学中の2015年、初リーダー作『Steep Slope』をリリース。
現在、自身のバンドの他、様々なグループで演奏活動をしている。
また、映画音楽などの作曲も手がけている。

緊張と向き合う

ーーライブの前って緊張したりするんですか?

すごく緊張しますね。
ライブ始まるとそうでもないんですけど。

大事な用事の前ってなんか嫌じゃないですか(笑)
そういう感じですね。
時間が迫ってくるだけでもドキドキするというか(笑)

ーーずっと演奏活動されてても、やっぱり緊張するんですね。

まあ、徐々に和らいではいるかもしれないんですけど。
ていうか、向き合い方がわかってきたかもしれない。

やっぱり基本的にはその場で起こることなので、完全に安心するっていうことはないかなと。

ーー緊張しないとダメですよね?

ま、それもそうかもしれない。

けど、始まる前からリラックスして、そのままステージ行けたらいいな、とは思います。
やっぱりよくないですかね、そうなったら(笑)

体の状態に浮き沈みがあって、バクバクしたりとか、そういうのなくなったらいいなと思います。

誰しもにある大切な場所

ーー 2018年に魚返明未トリオのアルバム『はしごを抱きしめる』をリリースした時、作曲者としての達成感を感じたそうですが、

『魚返明未&井上銘』(2022年)ができあがった時は、どんな気持ちになりましたか?

作曲者としての達成感・・・すごく仰々しい感じしますけど(笑)

そうですね、やっぱり作った曲を何らかの形に残すっていうのは大事なことだなと思ってまして。

それができてほっとしたというか、よかったなっていうのはあります。

達成感、と言ってもいいかもしれないですね。

ーー新たな達成感?

まあそうですね。
やっぱり残せないままの曲もいっぱいあるので。
こういう機会があってよかったなという気持ちは強かったですね、はい。

ーーこちらの、ジャケットの絵になっている『サイクリングロード』がテーマ曲になるんですか?

そうですね、『サイクリングロード』という曲ができて、2人でよりたくさん演奏したいなっていう気持ちが強まったので。
そんな大切な曲なんで、ジャケットにさせてもらいました。

ーーこの曲はどうやって生まれたんですか?

自分が住んでた家の近くにサイクリングロードがありました。

出かける時は駅までサイクリングロードを通って、演奏終わった帰りは、最寄駅からサイクリングロードを通って帰る。
そこから見える景色は、日中と夜とで全然違いました。

自分の日々の出来事もいろいろあるんで、そこを通ってる時の気持ちも全然違って。

自分の生活の中でのいろんな気持ちを、サイクリングロードが見守ってくれてるじゃないけど、背景になってるというか。

例えば、「もっと演奏がんばらなきゃな」と思った帰りに、まっすぐ長いサイクリングロードが見えて、車はもちろん通ってないんで、遠くまで誰もいなかったりする。

「なんかすごく長い道のりが・・・」とかロマンチックになったり。

ちょっと酔っ払ってたのかもしれないけど(笑)

ーーサイクリングロードを通ってる時のいろんな気持ちが込められた曲なんですか?

直接その気持ちを込めたってよりは・・・
そういう大切な場所って、たぶん誰しもにあって。

ーー心の拠り所みたいな?

そうですそうです。
そういったものなんかを受け入れてくれるような曲かなと思って。

ーーサイクリングロードを走ってるような疾走感もありますよね。

ああ、なんかよく言われますね。
ぴったりだなと思って、そういうタイトルにしました。

ーーこの曲もやっぱり、ちょっとメロディが降ってきて、そこから広げていったんですか?

それが、けっこうあの曲は自分としては短いスパンでできたかもしれないですね。

寝不足の日の朝、 サイクリングロードを散歩して、あとはピアノでちょっと作ったら、長い部分が最初にできてしまったって感じで。
けっこう他の曲と違うかも知れないです。

ーー同じアルバムに入ってる『Herbie Westerman』は、フレドリック・ブラウンの短編小説『悪魔と坊や』に出てくるハービー・ウェスターマン坊やのことでしょうか?

そうですね、そこからタイトルを拝借させていただきました。

ーーなぜ『悪魔と坊や』をモチーフにしようと?

フレドリック・ブラウンのファンの方に怒られちゃうかもしれないですけど(笑)、小説をモチーフにして作曲したわけじゃなくて、タイトルは後から付けました。

その当時に短編集読んでたんですけど、『悪魔と坊や』もすごくおもしろくて、けっこう曲のイメージと似てるなと思って。

ーー先に曲ができたんですね?

そうなんですよ。
けどなんとなく、それでも辻褄つじつまが合ってるような感じになりました。

ーー曲中、なんかちょっと不穏な部分があって、悪魔が正体を現すところかなとか想像したりしてました(笑)

そうですね、僕もなんかそういう感じのイメージはありました。

ーーハービー坊やは最後ちょっとかわいそうなことになって、お仕置きを受けます(笑)
曲中のポップな部分はその場面かなと。

曲から作ってるから、そこまでは反映されてないかもしれないですけど(笑)
ただ、なんかちょっとSFチックな世界観というか。

他の曲は自分の日常と密接なんですけど、この曲はけっこうフィクションな感じだなと思いました。
なので、ちょっと突飛なタイトルがいいかなと。

ーーSFがお好きなんですか?

いや、その本は友人から勧められて読んだだけです。
あんまり日常的にはSF読まないんですけど、特別に読みました。

ーー他に本は読んだりするんですか?

読みますけどね、ペースが遅くて。
すごくちょっとずつ読んでますね、小説とか。

ーー小説をモチーフにした曲ってありますか?

モチーフにした曲はないですね。
もうだんだんバレてきてるかもしれないですけど(笑)、後からタイトルを付けちゃってるぐらいなんで。

けっこう抽象的な感じで曲を作ってるんですよね。
ただ、その直前に感動した小説とか映画とか、そういったものからなんとなく自分が影響受けてるなって思うことは多いですけれども。

ーー明未さんのタイトルの付け方がおもしろいなと思いました。
『きこえない波』とか『隔たり』とか『縮む』とか。
だいたい曲ができてからタイトルを付けるんですか?

そうなんですよ、タイトルにしたい言葉みたいなのをけっこうメモしてあります。

僕にとっては曲とタイトルを同時に思いつくのってけっこう難しいので。
曲ができたら合いそうなタイトルを見つけるって感じですかね。

ーー最近思いついたおもしろいタイトルってありますか?

あったかな(笑)

いや、ほとんどはもう曲がつけられないような、逆にそれに合う曲が一生作曲できないだろうっていうような変なタイトルなんですよ。
ちょっとあんまり発表するのははばかられるような(笑)

ーーいつか発表されるかもしれない?

難しいですね(笑)
ちょっと恥ずかしい感じかもしれない。

これからのこと

ーーこんな音楽やジャズを作っていきたい、というのはありますか?

ジャズに関して言えば、もっと共演者の人たちが出してる音を深く感じて演奏したいなって思いはすごくあるんですけど、そこが自分の足りないところかなと思ってまして。

もっとたくさんの人と演奏していきたいです。
同じ人とも何回も共演重ねていきたいし、新しい人ともやっていきたいですね。
音楽の具体的な音の話じゃないんですけど。

あとはやっぱり、それを実現できるフィジカルですよね。
緊張とかあって自由に動けないっていうこともあるので(笑)
すごく現実的な話で申し訳ないんですけど、そこは考えてますかね。

あとは常にいろんな音楽を聞きたいし、やりたいですね。

ーージャズに限らず?

そうですね、ジャズに限らず。

ジャズって大きなジャンルはあるんですけど、やってることはジャズミュージシャン一人一人、多種多様です。

新しく好きになるジャズミュージシャンがいたら、ジャズだなと思うんですけど、何か新しい音楽だなとも思います。

それと同じように、自分で演奏してる時もそういう風に思えたらいいなという気持ちですね。
そういう気持ちにさせてくれるのがジャズって音楽なのかもしれない。

いろんな人の人生というかね、悲しみとか喜びとかを受け止めてきた音楽です。

僕自身もいろんな人と演奏をやって、その人たちによかったなと思ってもらえるようなというか、インスパイアできるような人間でありたいなと思います。

ーーありがとうございました。

~完~

魚返明未さん演奏フルVer.『きこえない波』

<公演情報>
邦人室内楽コンサートシリーズPointポワン deドゥ Vueヴュ vol.16』
2023年4月19日(水) 18:30開場 19:00開演
東京文化会館 小ホール 全席自由 ¥4,000(前売券・当日券 共通)
魚返明未さんの新曲「Impose Nothing」が初演されます。
(演奏:トリオ・ヴェントゥス
チケットのご予約はこちらから


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