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キャンディ・H・ミルキィさんへのインタビュー/第5回「難病と診断されて」

女装愛好家のキャンディ・H・ミルキィさんにインタビューしました。
5年前に難病と診断されたキャンディさん。
当初は死への恐怖に苦しみました。
その先に見つけた、人生の醍醐味とは?

動画版はこちら

プロフィール
1952年 東京都に生まれる
74年 結婚
76年 出版社「雄美社」を設立
84年 女装クラブ「エリザベス会館」デビュー
88年 アマチュア女装誌『ひまわり』創刊
   以後17年間にわたって発行を続け、全盛期の部数は7千部
94年 離婚
2008年 『キャンディ・キャンディ』の関連グッズを陳列した「コレクション展」の開催を始める
17年 東京・柴又に「キャンディ・キャンディ博物館」を開設

死にたいと思ったら

世の中にはね、自分から命を絶っちゃう人もいるけど、まず死ぬのはいいから、死んじゃってもいいけど、死ぬ前にちょっと飯を腹いっぱい食って、まず好きなことをしてから死ねと。

それで一眠りしちゃったらね、5割は助かっちゃうよ、うん。

失ったものも確かに多いけど、でも人生って全部そうだよね。
自由を捨てて労働することによって自由を得るんだもん。
労働という制約をされることによって、その給料でそれ以外のことができるわけだから。

全てが対価だと思う。
辛い思いをしたらした分だけ、ちゃんと報われるんだよ。

そん時に辛いばっかりだって思ってる時はやっぱり病んでる時。
いや、実はこれもある、あれもある、あなたにはまだこれも残ってるじゃないかと。

気がつかない、それは病気なんだよ。
気づかない病、わからない病になってる。
本当は辛いこと以上に、楽しいこといっぱいあるはずなんだよ。

私のダチ公が43歳で難病と診断されて、余命2年と言われて、ぴったり2年で死んだ。
それから見たらさ、自分から命を絶っちゃうなんてさあ。

それは自由だけど、世の中には「死にたくない死にたくない」って思いながら死んでいく人もいっぱいいる。
だから死にたいと思うこと自体が幸せなんだよ。
死んじゃったら考えられないんだから。

だから、死にたいと思ってる人はまず腹いっぱい飯食って、一晩寝る。
次の日は、持ってるお金、お金なきゃしたい放題借金して、それを全部楽しいことに使う。

それからもう1回考え直せば、半分の人は「やあ、やっぱり生きてるのもいいかもしれないな」って思う。

で、明日死ねばいいや、じゃあ面倒くさいからもう1日延ばしてって明日延ばしで生きていけば。

だけど、それができなくってって人はもうやっぱりな。
自殺というのは病気だから、意思でするもんじゃないから、だからやっぱり自殺する人を責められないよな。
心が病んでないと死ねないもん。

難病と診断されて

――キャンディさんは5年前に「特発性間質性肺炎」という難病と診断されたそうですが、やっぱり残りの人生っていうのを意識されたと思うんですよ。
その時、何かこれだけはやっておきたいとか思ったことってありますか?

あのね、IPFって言うんだよね、特発性肺繊維症というね。
肺がどんどんどんどんスポンジ化していっちゃう。
ネットで見ると、発病から5年が平均寿命。

今、延命治療を受けてて、薬飲んで何とか1日でも長く生きようとしてる。
うまくいけば2年、だめでも1年はうまく生き延びられると思う。

診断を受けて、「死にたくない死にたくない俺は死んじゃうのかどうしようどうしようどうしよう、死にたくない」ってもう一日中ボーッとしちゃった。

翌朝目が覚めるとまた考えてて、それが半年ぐらいかな、続いた。
本当おかしくなってた。
でも不思議と人間ってね、ある日忘れてる時間っつーのができてくる。

あ、1時間忘れてたよ。
あ、2時間忘れてたよ。

気がついたら「俺って本当に死んじゃうのかな。だって生きてるじゃん」と思ってた。
5年って言われても、あと5年もあるじゃないか。
だから今でもまだ信じてないんだけど。

何をしたいっていうか。
でもやっぱりね、何をしたいと思っても何もできないよ。
とにかく生きていこうということだけでもがき、でもそれがまた生きているっていうことなんだよ。

うまい物も食いたい、旅行も行きたい、楽しいことしたい。
けど金がない。
だから働かなきゃいけない。

これ普通なわけで、普通の生活をするということが一番の醍醐味というかな、人生の。
そん中で、週末になるとこうやってキャンディ博物館に来て。

この先のプログラムを考えてはいる。
キャンディ博物館をどうするかとかね、人生どうするかっていうのは。

ただ、いろんな人の話聞くと、人工心肺に繋がれてうんうん唸るよりも、寝たまま目が覚めないで死んじゃうパターンが多いんだって。
目が覚めれば睡眠、目が覚めなきゃ永眠。

今はね、死ぬことに対して考えることが疲れた。
あと、そん時が来るんだろうなと思うんだけど、これはもう覚悟とかじゃなくて、自然に受け入れてるんだろうな。

だからもう死んだ時に、私死んじゃってますって流すビデオもちゃんと撮ってあるし。
みんなに頼んで「あいつ死んじゃったの?」みたいなやつも全部撮ってある(笑)

それ見ることができないからね。
1回ぐらいちょっと間違って放送しちゃいましたって出してやろうかと思うんだけど。

だから恐怖心はあるけど、不思議なもんだよ人間って。
やっぱりね、うまくバランスが保てるようにできてるのか。

初恋の人

今、錦糸町のおばさんの手の一つも握ってから死にたいっつってんだけど、握らしてくんねーし。
あ、錦糸町のおばさんという人はね、小学校の時の初恋の人で、初めてラブレターを書いちゃった。

――丸襟の彼女ですね?

そうそう、丸襟の彼女。
50年経った後に再会するんだけど、言わなくていいこと言ってさ、もう藪蛇やぶへびになっちゃってさ。

今でも言い寄ってんだけどなかなかね。
未亡人だからね、こっちはもう独身だし、別に何のあれもないんだけど、週刊文春も怖くないんだけど(笑)

ねー、ちょっと無理かな、やっぱり。
初恋の女の人に、50年来失恋しないまんまで終わるのかなと。
いうこれはちょっと心残りだなと思いながら。

今度、友達の墓参りに一緒に行くことになってる。
やっぱり樹木葬がいいなとか言いながらね、洒落た喫茶店でお茶飲んで、毎回帰るだけなんだけど。

――手を握らせてもらえたらいいですね(笑)

まーね。
「よし手相見てあげよう」とかさ、いろいろ考えたんだけどね。

究極の性行為とは何か、ポルノ作家の先生に聞いたら「臭いだ」って言うから、彼女に「今度嗅がしてくれ」って言ったら「嫌だよ」って。
手の匂いを嗅いで、できたらペロッと舐めてやる。
引っぱたかれて、それで終わるだろうけど(笑)

もうね、70超えたら男であれ女であれ、お互い枯れてないとか言うのは見栄。
枯れ尾花じゃないもん、灰だもん(笑)
俺はまだ本気だぞみたいなこと言いながらさ、しょうがねえなと思いながらね、焼けぼっくいに火はつかねんだから。

~第6回へ続く~

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