キャンディ・H・ミルキィさんへのインタビュー/第3回「初めて女装で人前に出た時」
女装愛好家のキャンディ・H・ミルキィさんにインタビューしました。
第3回では、女装に興味を持ったきっかけを伺っています。
「男の子はこういうことしちゃいけないんだ」という葛藤と、それでも女装に惹かれた胸の内を語っていただきました。
姉のブラウスを着て帰った日
――何か女装に興味を持ったきっかけとかあるんですか?
私は4人きょうだいで、兄姉兄私なんだよ。
姉はやっぱりね、小さい頃からレースのいっぱいついた丸襟のブラウスを着て、ちょっと膨らんだ吊りスカートで、ソックス履いてた。
姉の影響か、それが私の原型なの。
なぜ反応したのかはわからない。
たぶんこれはもう遺伝だよね。
小学校入る前かな、きょうだい4人で近所のお風呂屋さんに行った時に、母親がみんなに着替えを持たせてくれたの。
そしたら、間違えて私が持ってきたか、母が渡したか、姉のと私のが入れ替わっていたわけ。
しょうがない、裸で帰るわけにはいかないから、姉のブラウスを着て帰ったの。
そん時の高揚感がもう!
でもさあ、着てきたやつを着て帰ればいいんだよね。
姉は「あ、弟のを持ってきちゃった」って着てきたやつを着て帰ってる。
だから、そこら辺からやっぱり少しトランスしてるよね。
――それまでお姉さんの服を着てみたいなとか思っていましたか?
「ああ、いいな」と思ってた。
――やっぱり興味が元々あったんですね。
なぜかと言われればわかんないけど。
兄貴のものなんか汚らしいばっかりで、やっぱり姉のものがいいなってさ、綺麗なレースが広がって。
家で一人でいる時なんか、姉の物を着ちゃったりしてたわけ。
うちはね、小学校の4年5年ぐらいはみんな新聞配達やったんだよ。
ちょうどゴミの収集が、ポリバケツとかビニールに入れて出すという形になってきた頃で、朝、新聞配達をしてると団地だとかのゴミ集積所に服が捨ててあるわけです。
そうすると、それを持ってきちゃって。
当時はね、散らかさなければ持っていけるものはどうぞという感じだったの、団地のゴミ捨て場なんか鍵もかけてなくて。
そっからいいのを持ってきて、でも家には置けないから縁の下に置いといた。
ある日突然、縁の下から猫の鳴き声がいっぱいした。
「お前一番小さいんだからちょっと見てくれ」って言われて見たら、隠してある服の上に猫が子供産んでんの(笑)
家族がみんなテレビ見てる時、1人だけトイレ行って、縁の下から持ってきた服を中で着てた。
何するわけでもなく、着てただけ。
そういう変質者的な才能はその頃からあったね(笑)
再びスイッチが入った瞬間
その件もあって自覚して、何度もやめようとした。
「男の子はこういうことしちゃいけないんだ」とやめて、またやり始めて悩んでの繰り返し。
結婚してすっかり10年ぐらいは完全に抜けてたけど、ある日突然、松田聖子が白いドレス着て歌ってるのをテレビで見た瞬間、「バチン!」っていうスイッチが入る音が聞こえた。
あ、あのドレス!
あ、また出ちゃったよ!
それから、もうこれは無理だな、一生だなこりゃと思って、女装クラブに駆け込むわけ。
それがばれて、かみさんと揉めて、逃げられた。
かみさんにしてみればそうだよ、旦那が女装趣味なんて。
他人ならいいけど、自分の亭主だと思ったら。
しかもランドセルしょったりさ、子供の格好する女装。
当時はもう美輪明宏さんとかいろいろいたけど、それとは違うわけじゃん、明らかにさ。
でも、酒飲むと自分から「うちの亭主は」って喋ってたんだけどね。
松の湯事件
子供の頃の原体験はね、この私の自叙伝に。
長編4ページ、しかも全部漫画という。
安心したでしょ(笑)
これを本日贈呈します。
「松の湯事件」というのは、お風呂屋さんから姉のブラウスを着て帰った話。
自叙伝読んでって言った時のみんなの顔色見んのがおもしろくて。
「うわっ!嫌だなそんなの」という顔してさ(笑)
「いや4ページだよ」って言ったら少しほっとして、「漫画です」って言ったら「ええーっ!何?」って逆に身を乗り出してくれる。
でもね、それが傑作すぎて、第2作目ができないという。
いろいろ考えてるんだけどなかなか出ない。
これを描いてくれたのは、今もう漫画家辞めたけど、一世を風靡したソルボンヌK子先生。
だからすごくしっかりしてる、構成も漫画も。
やっぱりプロなんだよね。
「松の湯事件」が私の女装の原点であり、今でもそうだね。
初恋の女の子はどこを気に入ったかっていったら、真っ白のブラウスと丸襟が好きで、その子のこと好きになってんだよ(笑)
それが似合うかわいい子だったからね、きっと初恋になったんだろうけど。
鮮烈に覚えてるのは、今でも写真持ってるけど、小学校の時の遠足。
やっぱり白いブラウスで、後で聞いたら「あれ全部母が縫ってくれてました」って言ってたんだよ。
丸い白い襟のさ、女の子が初恋。
思い出すなあ。
あのころは純情だったなあ。
雨の降る日、セーラー服を着て
――キャンディさんは最初、女装をいけないことだと思って隠していましたが、初めて人前に出たのはいくつぐらいの時だったんですか?
あのね、中学生の時、雨の降ってる日に姉のセーラー服を着て。
意味わかる?
傘をさすんだよ、みんな。
人は周りを見ない、雨降ってると。
傘さして姉のセーラー服を着て、長靴履いて姉の鞄を持って街を歩いたんだよ。
カツラも何もつけてないけど、傘があるから。
もう心臓が破裂しそうになって街を、人のいないところ、人のいないところをさまよい歩いた。
危ないよな。
「はあ、セーラー服っていいな」って着ている自分を触ってた。
その興奮状態はやっぱり異常だよね。
女の子が男の格好したってそんなにはならないじゃん。
これは無着成恭先生に相談しなきゃいけないと。
夏休みになると、NHKラジオが「子供相談室」というのをやっててさ。
いろんな子供の悩みに著名な人達が答えてくれる。
それに相談しなきゃいけないかなと思うぐらい「これはダメだ、やっちゃいけない、俺は男の子なんだ」と悩んでた。
~第4回へ続く~
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