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「困っている生産者を応援したい」 現場を支える6次化って?

「旅するバイヤー」「結い物で繋ぐ会代表」の岸菜賢一(きしな・けんいち)は、「6次産業化中央プランナー」としての活動も大切にしています。

全国各地の生産現場を訪ねては、商品開発や販路開拓、後継者不足などの課題に直面している生産者の相談に乗って、「困っている生産者を応援したい」と語っています。


沖縄で特産の豚やニンジン そして人に出会った


——沖縄によく行くのですね。


沖縄県の養豚場が生産するブランド豚「キビまる豚」があります。生産者と一緒になって、とびきりおいしい「キビまる豚 ソーセージ」を開発しました。

店頭のシンボル商品を目指した「極上の材料を使った無添加ソーセージ」です。地元産の塩15種類ぐらいを比べて、どの塩が最もおいしい味になるかを試しました。

子どもが喜んで食べる味にと、タマネギやニンニク、砂糖も加えて、沖縄らしい少し濃い味のソーセージに仕上がりました。

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——どんな出会いがあったのですか。


沖縄に行く際、なぜかニンジンが気になりました。ニンジンを調べると、「キャロットアイランド」と呼ばれる離島があることがわかりました。自分で確かめたくなり、ニンジン産地の離島に行きました。


島の農家の人に話を聞いて回って、いっぱいニンジンを入手しました。宿泊していたうるま市の旅館でニンジンのジュースや料理をつくってもらうと、めちゃくちゃ、おいしかったんです。

春の一時期だけ季節限定で出荷される春ニンジンを送ってもらいます。沖縄のニンジンは糖度が高く、皮が薄く、とてもおいしい。きしな屋の隠れた人気の商品です。

沖縄の島ニンジン2


人間関係は数珠つなぎに広がる


——大切にしていることは、何ですか。


人と人の関係でしょうか。相手を好きになったら、その人を深く知り、応援したくなる。長く、つき合える関係を大切にしたい。特産品を求めて、全国各地を訪ねます。

そこで出会った人が「こんな面白い大阪のバイヤーがいるよ」と地元のキーパーソンに紹介してくれるようになり、商談会にも声がかかります。そうして、人間関係は数珠つなぎに広がります。

相手を好きになるほど、その土地に通い続けることになります。


——支援しているのは、どんな地域ですか。


もともとは、北海道から始まっています。北海道では会社勤めをしたことがありますから。北海道、沖縄、島根、香川、佐賀、長崎、大分……。

どちらかというと、大阪より西が多いかもしれません。

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作り手の気持ちになると「6次化は困難」


——6次産業化とは、どのような取り組みですか。


6次産業化を支援する講師を引き受けると、セミナーでは新規参入事業者には「6次化は困難です」とはっきり説明します。


6次化とは「1+2+3=6」を意味し、1次産業、2次産業、3次産業のプロセスをつなげることを示す表現です。

生産だけでなく、加工や流通・販売まで手掛けようと。農林漁業に従事する生産者の所得の向上や地域の活性化を狙う試みです。


しかし、規模が小さく人手も少ない生産者に、その余裕はありません。生産するだけで手いっぱいなのです。むしろ、加工や流通・販売を任す仲間やパートナーを見つけることが現実的な対応だと考えます。


——どのような支援を目指していますか。


もともとメーカーの経験もあるため、全国各地の生産現場を訪ねて、作り手の気持ちがより一層分かるようになりました。


作り手の気持ちも現実の問題も知って、市場側の事情も説明してから、「どうしたいですか」と尋ねると、生産者もちゃんと考えることができます。


加工品の開発支援は、生産物の魅力発見、デザインやパッケージも含めたブランディング、衛生面の管理、値段の決定や営業、企業努力で何ができるのかまで広がります。

一連の流れを最初から最後まで一手に引き受けると、生産者も安心して相談できます。販売まで出口を想定して、生産者と一緒に加工品の開発に取り組みます。


きしな屋には、現場で出会った作り手との共同作業で完成した商品が多く並んでいます。だからここは、作り手と消費者をつなぐショールームなんです。

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このコロナ禍、ピンチをチャンスに


——今、どのような課題がありますか。


コロナ禍で現地に行けない状態が続いています。商品開発の支援も、オンラインをつなぐリモートの会議が増えています。

直接会って相談相手に向き合わないと、本当の課題が伝わらずに表面的なアドバイスになりかねない、と不安になることもあります。


一方で、うまくリモートを活用できたら、移動の時間を節約できるメリットもあります。複数回あるなら、最初と最後は対面でやって残りをリモートにするとか、対面とリモートを組み合わせるハイブリッド型を使い分けられたらいいですね。


コロナ禍で困っている人は多く、私も、コロナ禍のために中止になった仕事が少なくありません。しかし嘆いていても始まりません。このピンチをチャンスに変えたいですね。(つづく)


岸菜賢一の過去のインタビューはこちら
vol,1「旅するバイヤー」のこだわりコロナ禍に〝買い支える〟ことの大切さ
vol,2  木桶には夢とロマンが詰まっている



語り手・岸菜 賢一
interval studio 食物販と商品開発 アドバイザー/客員コンサルタント
食のセレクトショップ「きしな屋」代表。木桶職人集団「結い物で繋ぐ会有限責任事業組合」代表。6次産業化中央プランナー。複数の食品メーカーで商品開発・品質管理・生産管理・営業に携わった後、食のセレクトショップ「きしな屋」を立ち上げる。食のプロフェッショナル目線で「旅するバイヤー」として自ら全国各地を駆け巡り安心と信頼性の高い食品を探し続ける。「きしな屋」店主の傍ら、6次産業化中央プランナーとして、全国各地の農林水産物生産者から依頼を受け、商品化の企画からデザイン、製造、品質管理、販路開拓、販売を手掛ける。また食品のみならず木桶文化の復活を目指して木桶職人集団「結い物で繋ぐ会」を主宰。伝統ある民芸品の普及にも取り組んでいる。
聞き手・中尾卓司
interval studio  “column”(note)欄 編集・監修
1966年、兵庫県篠山市生まれ。1990年、毎日新聞入社。
松山支局、奈良支局、大阪本社社会部、東京本社外信部、ウィーン特派員、岡山支局次長、社会部おおさか支局長を経て、社会部編集委員を歴任。
2020年3月、毎日新聞を退職後、新聞記者として30年の経験をもとに「情報発信の伴走支援サービス」として「つなぐ、つながる、つなげる」をテーマに新たな情報発信サービスや取材・執筆事業にチャレンジ。現在、大阪大学と関西大学で、「ジャーナリズム論」の非常勤講師も担当。


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