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通訳あるある_睡魔:通訳者も眠くなる

通訳の仕事の前は、たいてい大量の資料を読み込む。会議で使われるプレゼン資料そのもののこともあれば、関連資料というだけでどの部分をどう使うのか分からない場合もあるし、全くの参考資料だが一通り目を通さなければならないこともある。その資料がいつ手元に来るかが、分からない。もちろん早めに用意して頂いて、週末を準備に費やせるのであれば、ありがたい。しかしほとんどの場合、クライアント側は直前まで資料を作り込み完成度を上げようとするし、上長承認の後に正式資料として通訳者にも共有されるとなると、前日の夜や当日の朝になる。前日の夜、ひたすら待っていてもよいが、果たして当日中に来るかどうか分からないものを待っているのも、特に翌日の朝が早い場合は辛い。思い切って早く寝て、翌朝早く起きて、来ていればそこから読み始めることもある。しかし思っていたよりも分量が多かった場合に、読み切れないかもしれない。どちらをとるにせよ、寝る時間は確実に短くなる。
 
明日に備えて早く寝るとか、合間に仮眠を取るとか、決めたつもりでもいざとなると眠れない。そもそも仕事の前は興奮状態にあるのか、目も冴えて寝付かれないものである。かくして、前夜はギリギリまで起きていて、翌朝早く起きて、準備時間に充てる。気が張っているので、寝不足だという意識はない。通訳現場へ出向いて、本番を迎えるころが気持ちのピークである。
 
しかしそこで無事今日という日を迎えた安堵感からか、急に眠くなることがある。自分の番ではなく、パートナーが通訳している時などである。前日だけでなく寝不足がしばらく続いていたりすると、このあたりで緊張の糸が切れるのだろう。しかしここで船をこぎ始めるわけにはいかない。ブースの中だったとしても、クライアントからは丸見えなのだ。どれほどこの日のために準備をして、そのために今まさに刃折れ矢尽きた結果、意識が薄れたのだとしても、クライアントからすれば単なる居眠りなのだ。(パートナーも自分が訳している時に寝ていた相方を決して許さないだろう。)ここから眠気との戦いが始まる。できることはカフェイン系の何かを飲むくらいしかないが・・・。
 
解決策があるとすれば、割り切って睡眠時間を確保することなのだろうと思う。しかし前日に熟睡する境地に達する日が来るかどうかは、心許ない。

“執筆者:川井 円(かわい まどか) インターグループの専属通訳者として、スポーツ関連の通訳から政府間会合まで、幅広い分野の通訳現場で活躍。 意外にも、学生時代に好きだった教科は英語ではなく国語。今は英語力だけでなく、持ち前の国語力で質の高い通訳に定評がある。趣味は読書と国内旅行。”