そっちじゃないほう
3人掛けの長机の端に、外国人のクライアントが座っている。日本人スタッフが「通訳さんのお席、すぐお隣がいいですよね。ご用意します」とおっしゃるので安心していたら、長机の空いている側ではなく、通路側に折り畳み椅子をポツリと置いて下さっていた。「隣って、そっちですか…。そっちじゃない、机のある方はダメなんですね…。メモを取ったり資料を見たりするので机のある方だとうれしいんですけど…。」とは今さら言えず、自分の膝を代わりにするしかない。膝にクリップボードとメモ用紙を載せることになるが、どうしても前かがみになってしまう。脚を組んで高さを上げる方法もあるが不安定になるし、ふんぞり返っているように見えてしまうだろう。短時間だし「耐えよう…。」と覚悟を決めたが、会議が盛り上がり、結局一時間以上もその姿勢でいる羽目になった。
こんな「そっちじゃないほう」問題もあったものの、普段この「そっちじゃない」概念は大事にしている。例えば通訳案件の資料(会議資料など)で新しい言葉が出てきたときだ。Aというコンセプトを打ち出している、Aというアドバンテージがある、Aというテクノロジーがある場合。このAが何なのか、自分の言葉で理解し説明できるようにしておきたい。もちろん資料を読み込めば、Aが何なのか、定義をある程度まとめることはできるだろう。
では、「Aではないもの」は何なのか。Aがディスアドバンテージになるのはどんな時か。A以外のテクノロジーで、Aのデメリットを解消できるものは存在するのか。というように、Aを外側から定義できるような、反対の概念を探すようにしている。これが自分で説明できなければ、Aを理解したとはいえない気がするからだ。…といっても、Aを含む全体を俯瞰していなければ、Aの対極にあるBやら、実はAの一部でしかないCやら、Aがその一部にしか過ぎないDやら、といったものが何なのかは分からない。資料作成者とお話しできる、事前打ち合わせの機会があれば、「どういったところが議論点になるものでしょうか?」と伺ってみて、BやCやDが何なのかをさぐるのも一つの方法だろう。少々回りくどい気もするけど。