理転文転を繰り返した結果、どちらも諦められずに情報系研究員をしながら人文社会系の研究室で社会人博士を始めた話
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理転文転を繰り返した結果、どちらも諦められずに情報系研究員をしながら人文社会系の研究室で社会人博士を始めた話

Yuri Nakao

はじめまして。社会人学生 Advent Calendar 2021の6日目の記事を書かせていただきます。こちらに参加させていただくのは初めてなので自己紹介からはじめます。

私は富士通株式会社という会社の研究部門(富士通研究所 研究本部)のAI倫理研究センターという、AIの倫理的な問題を研究する部署に属しています。なかでも、主に多文化・他分野間で異なる公平性の認識をいかにAIモデルに反映するか、というHCI(ヒューマンコンピュータインタラクション)的な研究をやっています。(ご参考までに同僚と受けたインタビュー記事がこちらです。)

同時に、今年の4月から東京大学大学院 総合文化研究科の博士後期課程の学生にもなりました。もともと修士課程まで在籍していた研究室に再び所属させて頂いています。専門は科学技術社会論 (STS: Science, Technology and Society) という、科学技術について生起する様々な問題を人文社会科学的な視点から分析・批判などを行うという学問です。私はそこで、責任ある研究・イノベーション(RRI: Responsible Research and Innvoation)という社会的に責任を果たす(=レスポンシブルな)技術を開発・運用するガバナンスの方法論の研究を行っています。技術を単にアセスメントするだけでなく、より工学的な観点からレスポンシブルな技術を作る枠組みを考えています。

この記事では、なぜ情報系の研究所に勤める人間がこうした社会科学系の学問に進もうと思ったのか、そもそもその前になぜ社会科学系の学問を行っていた人間が情報系の研究所に進もうと思ったのかということを紹介したいと思います。技術系と人文社会系を行ったり来たりするという変わったパスですが、どなたかの参考になれば幸いです。

高校から大学2年まで:文系志望→理系入学

人文社会系と理数工学系を行ったり来たりする流れは高校から始まりました。もともと国連職員になりたかったので高校では文系志望で、どこかそれなりの大学の法学部に入りたくて3年分の世界史を高校1年で終わらせたりしていました。しかし、高2で文理を選択するときに、このまま理系のことがわからなくなってもいいのかな..という思いに苛まれました。高校の図書室にあるブルーバックスを読んで「こういうのだけで将来勉強するので十分なのだろうか?」と一晩考えた結果、大学に入るまでは少なくとも理系志望でいこうと学校に理系として申請しました。

結局、理系志望のまま東京大学理科一類に入学しました。もともと文系志望だったこともあって理系の力も文系の力も使える、それらの力を融合して考えられるような学問に興味があり、科学技術社会論の研究室が入学前から気になっていました。

しかし、入学してからは様々な学問に触れる機会に恵まれ、情報系もいいな、経済系や政治学も面白そうだと夢を膨らませる毎日でした。しかし、完全に技術の方面に行こうかと思う度に「いい技術を作ったらそれで終わり」という考え方になじめず、社会系の学問のことを考えるたびに「科学技術に直接アプローチできない」というもやもやを感じていました。

結果的に、東京大学の2年生の中ごろに行われる進学振り分けで、受験期に考えていたのと同じく科学技術社会論が学べる後期教養学部 広域科学科 広域システム科学系(現学際科学科 科学技術論コース)を選択しました。

大学3年から修士2年まで:理系→社会科学系

無事に広域システム科学系に進んだのち、もともと情報技術に興味があった私は卒論と修論でそれぞれGoogle BooksとYouTubeという二つの情報サービスを対象に調査を行いました。卒論では世界中の著作権者を巻き込んだGoogle Books訴訟の過程でGoogleがサービスの形をどのように変化させていったかを分析し、修論ではもともと日本で違法とされていたYouTubeが、どのようにしてJASRACなどの権利者団体との交渉と技術的解決策で自社のサービスを合法のものにしていったかを明らかにしました。

これらの科学技術社会論の研究はかなり熱意をもって行っていました。しかし、技術をうまく運用する方法を提言したとしても、当時の自分は政策決定者や企業の人には遠く、無力感を感じる毎日でした。
(今となっては、その頃よくお話していた方のお名前を省庁や各所のの資料などで見かけることが多くなり、そうして声を上げている人の動きというのは次第に伝わっていくということがわかるようになりましたが、当時の私はそういうことがよくわかっていませんでした。)

そこで、批判や提言をするだけではなくて、自分も何かを作る方に回った方がいいということを考え、コンテンツ事業者やITベンダーなどの技術系の就職を考えるようになりました。結果的に、何社か研究部門に採用してくださった会社の中で、今の職場である富士通研究所に入社しました。

就職から博士課程進学を決めるまで:社会科学系→情報系

入社後は、情報系の研究所では技術開発が評価されるため、特許の書き方や技術開発を覚えていきました。幸い、最初に配属されたのが社会的な課題をヒヤリングして、技術的に解決するということを狙ったチームでした。そのため、私が持っていたインタビュースキルなども活かすことができました。(私の直接の成果ではないのですが、同じチームからは自治体向けの保育所マッチングなどの今でも使われている技術が生み出されました。チームでドコモモバイルサイエンス賞の奨励賞を頂いたりもしました。)私自身は、移住希望者におすすめの移住地を推薦するというインタラクティブなレコメンドシステムの開発を行っていました。その後、何回かの部署異動を経て、今の機械学習の公平性×ヒューマンコンピュータインタラクションという研究テーマに辿り着きました。

こうした研究の過程で考えていたのが、「我々は本当にエンドユーザーの意見を聞いて技術開発を行えているのだろうか」ということでした。確かに、課題を持っている当事者に対して度重なるヒヤリングを行うことで、必要とされる技術を作ることができているようには思えます。そのために参加型デザインや共同デザインといった様々な枠組みが提案されていることも知りました。

しかし、やっぱり技術的な意思決定をユーザー自身に行ってもらうことはハードルが高く、どうしても技術的な施策は研究者側から一方的に提示するだけにとどまっているのではないかという懸念が常に自分の中にありました。そして、そのことが暗黙的に技術者・工学者の特権性や、社会が人間主導でなく技術主導になっているのではないか、という思いがありました。本当に人間の意志、自律性を尊重した技術開発をどうすれば実現できるのかを一度落ち着いて考えてみる必要があると考え、社会人博士の選択肢を考えるようになりました。

研究室決定から入試、入学:情報系→人文社会科学系

本当に人の価値観を反映した、人の自律性を尊重した技術開発のために何を研究すればいいのでしょうか。このことについて、私の中には就職してからも細々と勉強していた科学技術社会論の議論の一つである責任ある研究・イノベーション(RRI: Responsible Research and Innvoation)が重要なのではないかという感覚がありました。(edXでDelft工科大のRRIの授業などが開講されています。)

しかし、入学前に調べた段階では、RRIの議論は主に技術開発を管理、ガバナンスする枠組みにとどまっていて、技術者が現場で何をすればいいのかという指針を示してくれるものではないように思えました。これでは、人を尊重して技術を開発しろ、とか倫理を考えて技術を作れと言われたところで、では一体何から始めればいいのかが肝心の技術者にわからないのではないかと思われました。そこで、博士課程ではRRIを用いて技術者・工学者が実際にどうすれば人の自律性を尊重し、社会や人にとってレスポンシブルな技術を作れるのかの枠組みを構築したいと考えました。

博士進学先を探すにあたっては、一応会社から3年で出ることを条件とした支援制度もありました。しかし、国内外の研究室を幅広く考えたい、3年で終わらない可能性が高いという考えたので自費で進学することに決め、研究室を探しました。RRIのメッカとなっているオランダのTwente大学やDelft工科大学やそのほか国内外の研究室も見てみましたが、結局古巣の研究室に戻ることにしました。

それは上記のような、従来のRRIの枠組みからやや逸れるかもしれない議論をするときには母国語で会った方が伝わりやすいだろう、ということと、指導教官に内容を相談したところ理解を示して頂けたという部分が大きいです。また、海外の研究室にちょうどいい公募がなかったというのも大きかったです。その後、入学のための面接試験を受け、入学に至ります。

入学後:情報系+人文社会科学系の融合

入学後は会社の仕事と並行して夜間や休日に博士課程の研究を行う生活を続けています。研究費を獲得するためにJST ACT-X「AI活用で挑む学問の革新と創成」領域に応募して採択頂いたことでありがたいことに開発のための資金を手にすることができました。

最近では、ユーザーにヒヤリングした課題に基づいて技術開発を行うやり方や、ユーザーに技術開発の中に入ってもらういわゆる参加型デザインのようなやり方の中に、Second-order reflexivityという、技術だけでなく社会のことも考えて技術的な意思決定を行うという志向性を取り入れる方法論を研究しています。まだまだ博士課程は始まったばかりなのですが、着実に前に進んで、しっかり成果を出せるようになっていきたいとおもいます。またこのnoteや、社会人学生advent calenderでもいい報告ができればと思います。

振り返ってみて、高校のころから文系とも理系とも、人文社会系とも技術系ともいえない経歴を積んできたのですが、ここにきて思うのは文理の違いはそんな明確にはつかないということです。学際研究といった言葉を使うまでもなく、基本的に自然言語を使っていても数字を使っていたとしても人間の思考や世界を表象しようとするのが学問の基本的な姿勢であって、そこにいわゆる文理の差というのはないのだと思います。今後も、二兎を追っていたはずが最終的にはそれが一兎だったとわかるまで、研究を続けていきたいと思います。

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Yuri Nakao
人の価値観を反映する技術を考えています。 豆乳とビールが好きです/企業研究者/社会人博士学生(1年目)/STS/HCI/著作権制度と情報技術。文理を分けることなく分野を転々としています。法学部志望→理系学部(B1-B3)→社会学系分野(B4-M2)→情報系の研究員←今ここ。