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AIが発明者と認められないとの判決が出る

AI発明に関して画期的な判決が出されました(令和5年(行ウ)第5001号、東京地裁)。

AIを発明者とすることは認めないという裁判所の判断です。これは国際出願(PCT/IB2019/057809号)で日本に移行された特許出願(2020-543051号)です。

発明者の欄には、「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能」と記載されていました。特許庁は、この記載は認められないとして、「自然人の氏名を記載するように」との補正命令を出しましたが、出願人は「この補正命令には法的根拠なし、補正による応答不要」との上申書を提出しました。
特許庁は出願を却下する処分を下しました。
出願人はこの処分は違法であると主張して、処分の取り消しを求め、提訴しました。

裁判所がAIを発明者と認めなかったのにはいくつか理由があります。

①特許法にいう「発明」は、人間の創作活動により生み出されるものであると解釈するのが相当であること
②特許法36条には「発明者の氏名」「特許出願人の氏名」を記載すべきことが規定されており、ここでいう氏名とは、自然人の氏名をいうものであること
③特許法29条1項では、「発明をした者は特許を受けることができる」と規定しており、AIは法人格がないから、「発明をした者」には該当しない
④もしAIを「発明者」と認めてしまうと、実際の発明者は、
AI又はAIのソースコードその他ソフトウエアに関する権利者、
AI発明を出力するハードウエアに関する権利者又はその排他的管理者、
その他AI発明に関係している者
のいずれの者を発明者とすべきかについて法律に規定されていないから問題が生じる
⑤発明の進歩性の規定(特許法29条2項)があるが、これは、当業者が容易に創作できない場合に進歩性ありと定義されている。しかしAIによる発明を認めてしまうと、当業者を基準に進歩性を判断するという基準を変えざるをえない
⑥AI発明を認めると、存続期間も変える必要性も生じるかも知れない

このような様々な問題が生じるという理由です。

特に進歩性は問題です。人間の創作能力を基準に進歩性の有無を判断しています。判断する主体は審査官であり、当業者(その業界の専門家)の創作能力を基準に判断していました。つまり、判断主体と判断基準はすべて自然人です。

しかしAI発明を認めると、人間からみてあらゆる発明が進歩性ありとの判断が下る可能性もあります。
また特許権者としての「名誉」という点でも問題があると私は考えます。特許を与える趣旨として発明者に名誉を与える意味があります。
AIに名誉を与えることは無意味です。そうなると、AI発明は特許制度を根幹から揺るがすこととなります。

今回の判決は、AIの発達によりAI発明まで認めてほしいとの時期尚早の請求に歯止めをかけた頷ける判決であるといえます。

弁理士、株式会社インターブックス顧問 奥田百子
翻訳家、執筆家、弁理士(奥田国際特許事務所)
株式会社インターブックス顧問、バベル翻訳学校講師
2005〜2007年に工業所有権審議会臨時委員(弁理士試験委員)英検1級、専門は特許翻訳。アメーバブログ「英語の極意」連載、ChatGPTやDeepLを使った英語の学習法の指導なども行っている。『はじめての特許出願ガイド』(共著、中央経済社)、『特許翻訳のテクニック』(中央経済社)等、著書多数。