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【中国語講座】一緒に

日本の皆さんに中国語を教えさせていただくようになって、もう10年は余裕で過ぎていますが、語学にあまり興味のない人は、「主語だ」「目的語だ」というような意識を持たずに中国語を読んでいるようだなぁと思うことがたびたびあります。文構造をあまり考えていないようなのですね。

たとえば、次の文をご覧ください。

我比他大三岁。
Wŏ bŏ tā dà sān suì.
私は彼より3歳年上だ。

この文を訳してもらうと、いきなり「私より」と言い始める人が、多くはないですが一定数存在します。

つまり漢字を意味の塊ごとに理解しようとしていないのでしょうね。“”“比他”…というふうに区分けができる人は「“我比”だから『私より』だね。」とは思わないはずです。

日本語は「私は彼より」「彼より私は」「私の方が彼より」「彼より私の方が」といろいろな言い方があるので、最初に出てきたからといって主語だとは限りません。だから中国語を読む時もいろいろな可能性を考えてしまう(?)のかもしれませんが、そこは頭を切り替えて、中国語の語順を頭にしっかり入れておきたいですね。

こんな文はどうでしょうか?

我们一起去吧。
Wŏmen yìqĭ qù ba.
(私たち)一緒に行きましょう。

この文の場合、こんなふうに訳す人が一定数います。

私たちと一緒に行きましょう。

これでいいでしょうか? ・・・ いや、ダメですよね?

一見大丈夫なようにも見えますし、もしかしたら「伊藤って細かいね」と思った人もいるかもしれませんが、「私たちと」と「と」を入れてしまうと意味がずれてしまいます。この文は「(私たち)一緒に行きましょう。」と訳すべきです。

例えばAさんがBさんと話していて、Bさんが「ディズニーシーに行きたいんだよね」というような話をしたとします。それを聞いたAさんが「僕も行きたいと思っているんだよね」と返したとしましょう。するとBさんが「じゃぁ、僕たち一緒に行こう。」と言ったとします。

これが“我们一起去吧。”ですね。

ここでもしBさんが「じゃぁ、僕たちと一緒に行こう。」と、つまり「僕たちと」と言ったら、どうでしょうか。BさんはすでにCさんやDさんらと一緒にディズニーシーに行くことになっていて、それにAさんを誘っているような発言になりますね。

「と」があるかないかだけの違いですが、意味が大きく違います。そのあたりを、僕たち日本語ネイティブは、割とおろそかにしがちというか、適当に訳してしまいがちです。特に「私たち一緒に行きましょう。」と主語を明示することは日常的には非常に少ないので、訳すと違和感があって、ついつい「と」を補ってしまうのかもしれませんが、意味がずれないようにしたいものです。

特に、分かりやすい日本語に意訳しようとする時に犯してしまいやすい間違いなので、意味がずれないように気をつけたいですね。

通訳・翻訳家 伊藤 祥雄
大阪外国語大学外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院文学研究科 博士前期課程修了。通訳・翻訳業に加え、明治大学、東洋大学等の中国語講師を務める。NHK国際放送の中国語ネットニュース番組元キャスター。
著書に『すぐに役立つ中国語の基本単語集』(ナツメ社)をはじめ、『中国語検定対策2級問題集』(白水社)などの中検対策書多数。NHKテレビ「中国語!ナビ」のテキストで「中国語お悩み相談室」好評連載中。