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生成AIにより声の権利が浮上

AIが声優の声を合成し、声質、喋りの癖、歌い方、話し方を再現できるようになっています。
これに伴い、声優の声を無断で使用されるという事件が多発しています。

ChatGPTの最新版には、女優のスカーレット・ヨハンソンさんの声に酷似した合成音声が搭載されていると思われ、ヨハンソンさんは怒りを覚え、ChatGPTのOpen AI社に抗議し、同社はこの声を一部、取り下げたそうです。

ヨハンソンさんにはOpen AI社から声のオファーがあり、ヨハンソンさんはこれを断り、同社からの再度のお願いにより話し合いをする前に、声が公開されました。
しかしOpen AI社は別の女優を起用しており、この声がたまたまヨハンソンさんに似ていただけである、というのが同社の言い分です。

他方で、声を使用することに寛容な声優もいます。

人気声優である梶裕貴氏は、自身の声を公式に利用してもらうための音声合成ソフトをリリースしました。彼自身も、声をファンによって生成AIで創作され、その声で楽曲を歌われる、という被害に遭った経験があります。
しかし彼はこれを逆手に取り、「CeVIO AI 梵そよぎ ソングボイス」「CeVIO AI 梵そよぎ トークボイス」により、彼の声で歌ったり、語ることを解禁しました。

これまで一般人の肖像権、有名人のパブリシティ権により、顔を製品などに使用されることを抑えてきましたが、AIにより声の合成音声を作成することができる今日、「声の権利」が問題になっています。
声や朗読を録音して流すことはこれまでもできましたが、声色、声の調子、喋り癖などを創作することは、AIだからできることです。

「声の権利」をいかなる法律で保護するかは、今後の課題です。著作権は表現されたもののコピーであるときに働く権利であるため、声色、声の調子を模倣する行為に及ぼすのは難しいです。

声色を不正競争防止法に規定する商品等表示(営業を表示するもの)であると解釈する余地はあると思います。つまり声優にとって声色は「営業表示」です。これを真似されたということは、営業表示の模倣であると解釈することはできます。

参考サイト
https://news.yahoo.co.jp/articles/8d6215774744c0a0dafb5678e94fbf813cae286d?page=2
https://www.cnn.co.jp/tech/35219152.html
https://robotstart.info/2024/05/28/yuki-kaji-speech-synthesis.html

弁理士、株式会社インターブックス顧問 奥田百子
翻訳家、執筆家、弁理士(奥田国際特許事務所)
株式会社インターブックス顧問、バベル翻訳学校講師
2005〜2007年に工業所有権審議会臨時委員(弁理士試験委員)英検1級、専門は特許翻訳。アメーバブログ「英語の極意」連載、ChatGPTやDeepLを使った英語の学習法の指導なども行っている。『はじめての特許出願ガイド』(共著、中央経済社)、『特許翻訳のテクニック』(中央経済社)等、著書多数。