”ウクライナの後始末”から足抜け出来ないドイツと日本~長距離巡航ミサイル「タウルス」の供与可否に揺れるショルツ政権
◆ドイツに対して強まる「もっと装備・兵器をウクライナへ」の圧力
ドイツのショルツ政権に対して、「ウクライナへもっと装備・兵器を送れ」との圧力が内外から強まっている。社会民主党と緑の党を中心としたリベラル左派連合政権で、「反原発」と共に「平和指向」だったはずのショルツ政権は、2022年2月24日にロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始した当初は「殺傷兵器は渡せない」などと武器支援に消極的だったものの、同年秋以降には「殺傷兵器の供与」へ踏み切り。その後、強力なレオパルド2戦車シリーズや自走りゅう弾砲、分隊支援用機関銃など小火器などをウクライナ軍に訓練サービスと共に引き渡し、西側諸国でも武器支援国の中心的役割を担うようになった。
しかし、昨年夏以来のウクライナ軍の反転攻勢は、甚大な損害を出しつつ頓挫したことが年末までに誰の目にも明白になり、ロシアに対する脅威感からウクライナ支援を支持してきたショルツ政権支持者たちを焦らせるようになった。ドイツ国内では、一部の社会民主党支持者たちがショルツ首相に対して従来の「平和指向」を捨てた”裏切者”と見なし、強く反発して保守層と共に「ウクライナから手を引け」との声を高めているが、そうでない政権支持者は「このままではウクライナは敗北する」「ウクライナの次はドイツがやられる」とヒステリックにこれまで以上の武器供与・軍事支援を要求するようになった。ショルツ政権は、そのはざまで揺れている。
◆モスクワにとどく「タウルス」巡航ミサイル、供与すべきか否か?
いま、ドイツに対して内外から圧力が高まっているのは、長距離巡航ミサイル「タウルス」のウクライナ供与についてだ。昨年から議論されているが、ドイツ政府は10月に「当面はウクライナにタウルスを供与しない方針」であることを明らかにした。長射程兵器は、ウクライナが首都モスクワなどロシアの中枢部を直接攻撃する能力を与えることになり、現在悪化している独ロ関係をさらに悪化、緊張状態に導く可能性が高いことが懸念されたのである。10月には、以下のように報じられている。
「ドイツは当面、ウクライナに巡航ミサイル『タウルス』を供与しない方針であることが分かった。…ドイツ政府はウクライナの要請を正式に断ったわけではないものの、当面はタウルスを供与しない方針だと伝えたという」
「ウクライナの当局者はドイツに自衛のための兵器の提供を求めてきたが、ドイツはロシア領への攻撃に使用される可能性への懸念から、長距離ミサイルの供与には慎重な姿勢を取っている」
(参考)「ウクライナへの巡航ミサイル『タウルス』の供与、当面は行わず ドイツ報道」2023/10/5 CNN(日本語版)
https://www.cnn.co.jp/amp/article/35209911.html
巡航ミサイル「タウルス」KEPD350は、今世紀はじめにドイツとスウェーデンが共同開発した空中発射式の巡航ミサイルだ。重量1400kgながらそのうちの481kgが弾頭部で射程は500km超とされる。慣性(GPS等)・カメラ誘導式で超低空域(40~50m)を這うように飛行し、電子妨害を排除して個別建物クラスの標的に対して高い命中精度を有する。現在、ドイツ連邦空軍の他、韓国空軍、スペイン空軍で運用中で、ヨーロッパ標準型の攻撃機トーネードや米国製戦闘機など西側諸国の標準的な戦闘用航空機で使用できる。
あまり難しく説明しないでも、ウクライナ東北部の国境からモスクワまではちょうど500km程度の距離であることを示せば、「タウルス」をウクライナ軍が持つことの意味を理解できるだろう。もちろん、いきなりモスクワ攻撃でなくとも、現在の戦線でのウクライナ軍とロシア軍の対峙状況からいえば、ウクライナ東部国境近くで現在、攻撃も受けたベルゴロド市やボロネジ市、南部のロストフ=ナ=ダヌー市、更にクリミアの全域が攻撃圏に入る。
いま、ボロボロになったウクライナ軍の敗勢を挽回するには、再び「戦場のゲームチェンジャー」が必要との声が高まっており、その切り札が「タウルス」だと、ウクライナ支援支持派の人々には痛切に感じられているのだ。それで、「ウクライナが消滅するのは困るが、紛争のエスカレート(最終的には核戦争)は困る」との態度をとるショルツ政権が揺さぶられているという訳だ。
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