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ウクライナ紛争の兵器シリーズー7 ロシア・メディアで新型攻撃機Su-34のバージョンアップをチラ見せ~NATOを牽制?


【画像① 世界で最も空力的に洗練され優れた運動性能を誇るスホーイ設計局のSu-27戦闘機をベースに開発されたSu-34攻撃機。シリア内戦、ウクライナ「特別軍事作戦」でも高性能ぶりを発揮し、西側軍事関係者の注目を集めている】

◆制空権なしで犠牲を重ねるウクライナ軍の反転攻勢、 ロシア空軍、兵站ルートや集積地を空爆で痛撃

6月から始まったとされるウクライナ軍の「領土奪還」をめざした反転攻勢は、どんなに日本のメディアが「前進が続いている」とか「防衛第一ラインを突破した」とか、ソースも分からぬ情報で勝手気ままにしゃべるコメンテーターに言わしたとしても、実際はロシア軍占領地域に何か所かで数km食い込んだに過ぎない。それで少なく見積もっても3カ月間で6~7万人の兵員を失い、西側から供与されたレオパルド2戦車やチャレンジャー2戦車などを数十両も失っている。

ともかく、軍事的常識に照らしてみれば、ウクライナ側は制空権を完全に失っている状況下、地上にまとまった戦力を投入しても反撃に成功する可能性はあまりないとしかいいようがない。攻撃をしかける相手側が濃密な地雷原を敷設すると共に、空から立体的に反撃を仕掛けるのだから、力押しで地上からだけ攻撃をしかけても損害ばかりが大きくなるのだ。

今回のウクライナにおける本格的な戦争について、あらためて考えさせられるのは「制空権」だ。概念的には、航空機が初めて偵察から攻撃用途にまで使われるようになった第一次世界大戦(1914~18)以来使われているのだが、地上部隊の上空を屋根のように守る空のカバーがないなら、敵航空機による攻撃、あるいは上空から把握された情報によって正確に飛んでくる砲弾やミサイルで、頭上から叩かれることになる。これは、防御戦闘であれ、攻撃戦闘であれ、勝敗を左右する重要な要素となる。

昨年2月24日、ロシア軍はウクライナに対して「特別軍事作戦」を発起した時、戦術級の弾道ミサイル、巡航ミサイル(艦艇、地上発射式)、そして攻撃機による高速侵入による一斉打撃作戦を展開。ウクライナ軍の部隊集積地、補給拠点、更に空軍基地やレーダーサイト、対空ミサイル・システムの所在地など、計百数十か所に同時打撃を加えた。結果として、特にウクライナ空軍機のほとんどが地上に留まったまま破壊され、以後、航空戦力は劣勢のまま今日まで推移している。

その後、ウクライナ軍はロシア側に制空権を完全に奪われた下でも、航空機によっては撃墜が困難で長時間滞空が可能な偵察・戦闘用ドローン(トルコ製のバイラクタルなど)を巧みに運用し、ロシア機械化部隊に大きな損害を与えるなどして崩壊しかかった戦線を建て直す余裕を得ることが出来た。生き残った数少ないウクライナ空軍機は”奮戦”が伝えらえているが、性能的にはロシア空軍機には見劣りのする旧ソ連時代のままのMiG-29などの邀撃戦闘機(敵の攻撃機を迎撃する任務を持つ)で、
速度や運動性は良好だが、防空レーダーシステムと連携した全体としての電子性能は21世紀以降、大幅に改善されてきたロシアのSu-27シリーズとは格段の差がある。

さらに最近のロシア機は、各種兵器の搭載性能が格段に向上し、搭載機器(アビオニクスと呼ばれる航空機用管制・兵器統制機器類)のバックアップで敵機との空中戦闘はもとより、相当離れた地上目標に対する精密攻撃も可能となっている。日本では全く取り上げられないが、ウクライナの戦場上空で相当な万能ぶりを示して西側軍事関係者から改めて注目を集めている機体が、スホーイ設計局によるSu-27をベースにした複座型攻撃機Su-34である。


◆シリア内戦から威力を示してきた新型攻撃機Su-34

Su-34攻撃機は、1997年から生産が開始されたもう20数年運用される”ベテラン”といえるが、軍用機の世界では新型に属すると見てよい。ゼレンスキー大統領がウクライナに供与するよう、西側諸国に働きかけてきた米国製戦闘機、攻撃機のF-16やF-15は、1980年代から現用で改良を重ねて使われてきた第一線機で、Su-34に比べたら”大ベテラン”なのだ。

Su-34の最大の特徴は、世界的に見て最も運動性能が優れた戦闘機Su-27をベースに、高い運動性や速度性能(音速の2倍で、各国戦闘機標準)はそのまま維持させながら、各種航空爆弾(250kgから1500kgまで)、長射程対地ミサイル(射程100km)、長射程空対空ミサイル(同120km)など12箇所のハードポイント(搭載ラック)に計8tを搭載できる。機体内燃料で約4000kmを飛べるが、これは追加の落下式増加タンクを用いれば約7000kmまで延伸できる。空戦と地上掃射に使える機関砲も搭載し、乗員はパイロットと武装操作・管制員の2名が並列式の操縦席があるコックピットに搭乗する。コックピットは厚さ18mmのチタニウム装甲が施されており、被弾から乗員を防御する。

現在、200機以内が就役しているが、初めて実戦使用されたのはシリア内戦で、ウクライナでの「特別軍事作戦」でも重要攻撃目標への攻撃に使用されており、いまのところウクライナ軍によって撃墜されたという情報はない。高い運動性、速度性能と防御性能を備えるため、現在運用されている戦闘用航空機の中では撃墜が困難な機体の1つといえる(しかし、なんとバフムート周辺で自国軍の対空システムによる誤射で1機撃墜されたことが作戦7月には確認されている)。


【画像② ドネツク州の激戦地バフムート地区で味方の誤射で撃墜されたと見られるSu-34の残骸。ロシア機の中でも高価な機体(1機あたり約69億円)で、運用開始から20年以上になるのに調達数は200機に達しない】


◆「対NATO戦仕様」に改修の情報~Su-34のバージョンアップで異例のロシア報道が

Su-34の高性能ぶりは、もちろん米英を含むNATO軍首脳部や特に空軍関係者の注目を集めるところとなっているが、ごく最近、このロシア空軍の精鋭攻撃機が「対NATO戦仕様」に順次改修されるのではないか、との情報をロシアの公式報道機関の1つ、リア・ノーボスチ通信が流している。

どうも以前から開発が進められていた航空機搭載用の射程965kmの超音速巡航ミサイルをSu-34の搭載兵器に導入するということのようだ。

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