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米国、ポーランドなどが新たな武器供与を躊躇する中、突出してウクライナへの新兵器供与へ情熱を燃やし始めたドイツ~”好戦女性外相”ベアボック氏(緑の党)の前のめり


【画像① 9月12日にドイツのベアボック外相(右)は4度目のウクライナ訪問を行い、ウクライナのクレバ外相(左)と会談した。会談に際してクレバ氏が発した「長距離ミサイル供与にドイツが躊躇してウクライナ人が死んだ」との発言は、ドイツ国内で反発を呼んだ】




◆ウクライナ外相クレバ氏、ドイツに「巡航ミサイル供与を遅らせるな」と強硬に要求



他の欧米諸国同様、「ウクライナ支援疲れ」で国内が動揺し始めているドイツだが、ゼレンスキー大統領が赴いても武器供与の追加に躊躇する姿勢が目立ち始めた米国や、首脳が明確に「今後、ウクライナへの兵器供与や難民支援の継続はしない」と発言して波紋を呼んでいるポーランドとは違い、同国の政府は特に兵器供与の拡大を軸にウクライナ軍事支援に積極姿勢を示し始めている。

昨年夏までは「ウクライナ軍事支援は非殺傷兵器を除く装備にとどめる」としていた現ショルツ政権も、秋からは積極的に自走砲、戦車の供与とウクライナ軍兵員の訓練引き受けに路線を転換するようになり、自国製レオパルド2戦車及び旧型のレオパルド1戦車の供与にことしから踏み切った。この路線転換に好感触を得たと判断したのか、ウクライナのクレバ外相はより強力な兵器の早期供与を求めてドイツを揺さぶるようになり、波紋を起こしている。


◆「ドイツが長射程巡航ミサイルの供与をためらったから、ウクライナの死者が増えた」~ウクライナ・クレバ外相の揺さぶり



ドイツの女性外相、ベアボック氏はリベラル左派「緑の党」所属ながら、ウクライナ支援に最も熱心な閣僚と見られる。昨年から現在まで、数度にわたって”戦時下”のウクライナを訪問し、ことしの1月にはロシア側と交戦する最前線に近い東部ウクライナまで電撃訪問・視察し、その都度、ドイツからの軍事装備供給の強化に努めることを約束してきた。

9月12日には4回目のウクライナ訪問をしたベアボック外相は、ウクライナのEU加盟交渉に向けた準備支援や迫る冬をにらんだ特別な支援の実施、さらに「ロシアに拉致された」とされるウクライナの子供たちの捜索への強力などを表明した(実際は、「戦地から子供を避難させ保護している」とするロシアの説明の方が説得力がある)。しかし、これほどまでに好意的な発言や約束を繰り返すベアボック氏に対し、クレバ首相が冷ややかに「ドイツが長射程巡航ミサイルの供与をためらったから、ウクライナの死者が増えた」と述べたことが、ドイツ国内に反発を引き起こした。

「フランクフルター・アルゲマイネ」紙の9月12日付は、クレバ外相のドイツに対する批判的発言は「誤っている」と報道している。


【画像② ウクライナがドイツに提供を要請している「タウルス」巡航ミサイル(KEPD350)。ドイツ/スウェーデン共同開発で2006年から配備が開始された。総重量1400kgで超低空域(高度40~50m)を自己誘導システム(GPSその他を活用)で撃ちっぱなし飛行し(速度はマッハ1)、射程500kmまで到達できる。低空域を音速飛行するため、地上部での撃墜が極めて困難な巡航ミサイルだ。空中からの発射が通常。価格は、1発あたり95万ユーロ(約1億5000万円)】



<ドイツは”逡巡する武器供給国”ではない>

「(ウクライナ外相、クレバ氏の発言、)『ドイツがタウルス巡航ミサイルの供給をためらったことがウクライナでの死者の原因だ』との論を事実とみなすことは困難だ。むしろ、こうした発言はキエフ政権自らの立場を害したものとなると言わざるを得ない」

「ウクライナは、その外相がドイツのパートナーとともに推し進めようとしている”降りかかる寒さからウクライナ国民を守る傘”計画をどうしても必要としているはずだ。ロシアは今後も同国の発電所などのインフラを攻撃して弱体化を狙ってくるだろう。モスクワがどれだけ頻繁に「自分たちは軍事標的を攻撃しているに過ぎない」主張しても、実際の被害を受けるのは何よりも一般市民であることは確かだ」

「ドイツがこうした計画の主な推進者となるにとどまらず、もはやドイツは昨年に見られたイメージに基づく”逡巡する武器供給国”というレッテルを貼るに相応しい状況は全く見られない。実際、現在においてドイツは米国に次いで規模の強力な兵器を含む大規模な軍事装備供与をウクライナに対して行っている」


<ウクライナ人を殺しているのはドイツ人ではなく、ロシア人~巡航ミサイル供与に関わるリスクを含めたあらゆる側面の慎重な検討は当然>

「ベアボック氏のキエフ訪問中にクレバ氏が、『ドイツが巡航ミサイル「タウルス」の供給をためらったことでウクライナ軍兵士や
一般市民の死亡が増大している』との発言したことは、正しくない。…ウクライナ人を殺しているのはロシア人であって、ドイツ人ではない。まして、ベルリンに駐在していた元ウクライナ大使もクレバ氏と同様の発言を行ったが、これはかえってドイツ政府が行うウクライナ支援に対する国民の支持を損なうことにつながっている」

このような発言は、ベルリンの元ウクライナ大使からも聞かれたが、キエフの指導者たちは、ドイツ政府が国内でウクライナに対する国民の支持を保つことを難しくしている。

「”ためらう”ために時間を使うのではなく、ドイツ政府が当該兵器の対ウクライナ供与について、安全保障上の国益やNATO諸国内での調整、戦争の拡大リスクを高めないかの評価を注意深くあらゆる側面において検討するのは当然なことである。クレバ氏の「ためらう」ことによる「時間の無駄」などでは決してなく、責任ある政府としては当然の義務なのだ。そして、彼のカウンターパートであるベアボック氏は、何よりもそのドイツ政府の外交政策、安全保障の重責を担うひとりなのである」

「英国の元国防相が最近、(散々、「追加武器供与」をねだる)キエフ政権に対し、「我々は武器納入のためのAmazonではない」と発言したのは、間違っていないことは明らかだ。こうしたウクライナの態度によって作られる西側諸国内の雰囲気は、ウクライナ軍反転攻勢を巡る戦線の情勢と同様に、このたびの戦争の帰趨に決定的な影響を与える可能性がある」

(参考)「クレバ外相の誤った論に立ったドイツ批判」2023/9/12 「フランクフルターアルゲマイネ」紙(ドイツ語報道)
https://www.faz.net/aktuell/politik/ausland/ukraine-krieg-falscher-tonfall-bei-kritik-an-deutschland-19169270.html


◆メディアの「過度な要求を厚かましくするウクライナ」への批判にも関わらず、更なる「強力な武器供与」に邁進しようとするベアボック外相



上記の新聞論調は、ウクライナ・クレバ外相の乱暴かつ厚かましい要求に対する怒りが行間からにじみ出るように感じさせるものだ。しかし、ベアボック外相はクレバ外相の言に反発するどころか、よりいっそうウクライナへの「強力な武器供与」を進めようと邁進し始めているようだ。

いったいどういうことなのだろうか?
日本に暮らす人に分かりやすく説明するなら、現在、ベアボック外相が所属するオラフ・ショルツ政権は首相を出したドイツ社会民主党を中心に「緑の党」などリベラル政党が連立した政権なのである。平時には「平和志向」な上、「地球温暖化への対応」「脱原発」「再生可能エネルギー推進」などを掲げる、いうなれば日本で立憲民主党を中心にれいわ新選組、社民党、場合によっては国民民主党などで組まれた連立政権のようなものである。

ベアボック外相が「強力な兵器供与」に前のめりになるのは、日本の岸田文雄首相が”宗主国”である米国からの要請を受けながら言いなりでウクライナ支援を進めているのとは訳が違う。ドイツ自体がより主体的であると共に、何よりも左派政権なのだ。


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