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パレスチナーイスラエル紛争で仲裁、難民対応でロシアの後塵すら拝せない岸田政権の際立つ無能ぶり


【画像① パレスチナ自治区ヘブロンで「プーチン氏がイスラエルの残虐行為を止めようとしている」として現地住民がプーチン大統領の大きな肖像を掲げて”感謝デモンストレーションを行っている。10月27日。】



◆”どっちつかず”で漂う日本政府のパレスチナ対応~”政権危機”でそれどころではない岸田文雄首相


10月7日のハマスによるガザ地区からのイスラエル奇襲以来、激化したパレスチナーイスラエル紛争への外交的対応で岸田政権が”漂流”している。紛争開始後、日本以外のG7諸国は「イスラエルへの連帯」を表明していたが、日本は10月10日、イスラエルのネタニヤフ首相、パレスチナ自治政府のアッバス議長に対して停戦を呼び掛けた。


ウクライナへのロシアの軍事攻撃(「特別軍事作戦」)の開始の際のひたすらの対米追随、自主性のない対応(ウクライナのゼレンスキー政権側に一方的に肩入れ、国内法制を乗り越える自衛隊装備の迅速な提供など)に比べるなら、米国の対応(「市民への攻撃への懸念」をj表明しつつ、イスラエルに軍事支援を実施)と一線を画した対応であるのが印象的だった。これは、日本が中東などのイスラム諸国からエネルギー資源の大部分を輸入している事情が背景にあるのだが、その後の対応はいったい何をしたいのか不明瞭なまま、独自の取り組みを押し出すことなく、一見外交上の”漂流”を始めてしまった。




【画像② 12月2日、岸田文雄首相は、ドバイでヨルダンのアブドラ国王と会談し、1億ドルの支援提供を約束し、「ガザの人道状況改善と事態の早期沈静化に向けた連携」と確認したというのだが、違和感が否めない。なぜイスラエルやガザ地区(ハマス)に直接働きかけをせず、ヨルダンの影響力を”カネで買う”ようなまねをするのか?】



「岸田文雄首相は(12月)2日、訪問先のアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで、ヨルダンのアブドラ国王と会談した。岸田首相はパレスチナ自治区ガザ地区を巡る情勢の影響でヨルダンが厳しい経済状況に陥っているとして、同国に約1億ドル(約150億円)を支援する準備を進めていると伝えた」


「岸田首相はイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘再開について『残念だ』と語り、『自体の沈静化が必要だ』との認識を表明。民間人の被害を防ぐため『あらゆる措置を講じる必要がある』と強調した」


(参考)「首相、ヨルダンに約150億円支援表明 『ガザ情勢で苦境』理由に」2023/12/2 毎日新聞

https://mainichi.jp/articles/20231202/k00/00m/030/204000c


この記事を見ただけで、「インテリジェンス・ウェポン」読者なら岸田首相の”迷走ぶり”は明らかだろう。紛争そのものに向き合うのではなくて、紛争のとばっちりを受けている隣国に支援する姿勢を見せて、”ご機嫌取り”をしているのだ。つまり、ハマスとイスラエルの戦闘再開については「残念」と無力に言いつつ、国内の支持率低下を睨みながら”やってるポーズ”だけとることしか出来ない無能ぶりなのだ。


例えば、岸田首相のみならず日本の歴代首相や政治家たちがよく口にする「人道」という面で、生命と生活全体が大変な危機に直面しているガザ地区の住民が難民化しつつも逃げ場所がない状況について、何ら手を差し伸べようとしていない。今まで疎遠だったウクライナからは少ないながらも難民を受け入れているというのに。


実態的には、各種世論調査が行われるたびに支持率を下げ、とうとう内閣支持率が20%台前半、不支持率6割以上の”危険水域”に達した岸田政権は、腰を据えて新たな国際的な紛争に対応する余裕など失っているということだ。



◆自らが紛争当事国であるのに踏み込んだ対応を行うロシア、プーチン大統領


米国のバイデン政権も、対応の中途半端さは否めない。イスラエルが「地下にハマス軍事拠点がある」と一方的に宣言してガザ地区の病院や住民の密集した居住区に空爆を加え、民間人の犠牲者を多数出す「人道上の問題」を引き起こしても、これを止めることなく”懸念”を示すのみで、停戦などは主張すらしない。難民への対応も何ら言及しないままだ。


一方、EU諸国も過去からのシリア内戦にともなう難民受け入れや、ウクライナからの難民受け入れと支援疲れもあり、パレスチナ難民の受け入れには背を向けている。エジプトなどからの要請を一顧だにしない。こうした中で突出して熱心に関与し出しているのがロシア、プーチン大統領だ。


ハマス、イスラエルの両者に停戦を訴える一方で「恒久的な解決」のため、国連が過去決議した「イスラエル、パレスチナ2つの主権国家」を確立する方向での和解提案を行っている。更に数的には大量ではないものの、ロシア連邦内のイスラム諸国(ダゲスタン、チェチェン)を中心にパレスチナからの難民受け入れとケアを開始した。


プーチン大統領は、11月28日「パレスチナ連帯国際デー」に当たっての挨拶を祝電としてアッバス大統領に送り、現在のロシアのスタンスを示した。




【画像③ パレスチナ・アッバス大統領(左)とプーチン大統領。2020年。】



<1967年の国境に基づくパレスチナ国家の創出を主張~オバマ大統領提案を踏襲したプーチン大統領>


「【モスクワ、11月28日、インターファックス通信】 ウラジーミル・プーチン大統領はパレスチナのマフムド・アッバス大統領に宛てた祝電の中で、東エルサレムを首都とするパレスチナ国家を1967年の国境で創出することを支持するロシアの一貫した姿勢を確認した」


「パレスチナ連帯国際デーに寄せた祝電の中でプーチン大統領は、『現在、流血の紛争がパレスチナ市民の方々に多大なる苦難を強いる中で、東エルサレムを首都とし、1967年の国境に基づいた自らの主権国家を創出するという閣下の民族が有する法的な権利の実現を、ロシアは支持するという一貫した姿勢を確認することは特に重要なことだと思われます。パレスチナ・イスラエル問題の包括的かつ長期的、公正なる解決の鍵となる条件は、まさにそこに見いだされます』…『我々は共同の努力によって、ロシアとパレスチナとの間の伝統的な友好関係、様々な分野における互恵的協力をさらに発展させることができる』『それは当然、お互いの利益にかなうことであり、地域の安全と安定に貢献するものです。大統領閣下のご健勝をお祈りするとともに、すべてのパレスチナ人の皆様に、自らの故郷での平和、幸福、繁栄をお祈りいたします』としている」


(参考)「プーチン大統領、1967年の国境でのパレスチナ国家創出に関するロシアの立場を確認」2023/11/28 インターファックス通信(ロシア語報道)

https://www.interfax.ru/russia/933646


「1967年の国境でのパレスチナ国家創出」とは、歴史的な中東和平交渉の中での妥結点として、1967年に第三次中東戦争が起きる前の国境に基づいて(これを「1967年ライン」という)、パレスチナを正式国家にしイスラエルと共存させる目標を指す。2011年5月19日に米・オバマ大統領が中東政策演説でも主張している。


(参考)「オバマ大統領『パレスチナ国境、1967年ラインで』」2011/5/20 日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXNASGM2000P_Q1A520C1000000/


この妥協案はイスラエルのネタニヤフ首相からも、ハマスからも受け入れられていないが、「再び戦端が開かれることのない根本的解決策はこれしかないだろう」という点で多くの国の賛意を得ている。これを、どういうわけか”オバマ後継政権”というべきバイデン政権が主張していないのだが、ライバルであるロシアのプーチン大統領が解決策の柱として押し出す形に今回はなっている。




【画像④ 第三次中東戦争(1967年6月5日~10日)は、ヨルダン川西岸地区やガザなどのパレスチナ住民居住地域をめぐり、イスラエルとアラブ諸国(エジプト・シリアからなるアラブ連合共和国、ヨルダン、イラク)が軍事対決し、イスラエル側の全面勝利に終わった戦いだ。別名「6日間戦争」とも呼ばれ、この結果、ガザ地区や東エルサレムを含むヨルダン川西岸地区、エジプトのシナイ半島やシリアのゴラン高原がイスラエルの占領下におかれた。その後の第四次中東戦争を経た後の和平交渉で、シナイ半島はエジプトに返還され、ゴラン高原は国連の停戦監視部隊が入って緩衝地帯化されているが、ガザ、ヨルダン川西岸地区の扱いは未解決のままだ。写真はシナイ半島に侵攻したイスラエル機甲部隊のM48戦車群(米国製)。】



◆パレスチナの新たな難民発生へも先行して手を差し伸べたロシア


永続的な停戦、和平のための根本解決策として「イスラエル、パレスチナ2国家並立」を唱えるだけでなく、ロシアはイスラエル国防軍の反撃の域を超えた対ハマス殲滅戦の中で7割が住居を捨てざるを得なくなり、難民化しているガザ地区のパレスチナ住民たちの問題にも手を差し伸べている。見方によっては、「自分たちがウクライナに武力攻撃を行って、多くの難民を発生させていることと真逆なスタンスでおかしい」と言ったことになるのだろうが(ロシア側から見ると、ウクライナ東部、南部のロシア系住民を”ジェノサイド”から救う立場で「特別軍事作戦」を実施しているのだから、一貫性があることになる)、EUや日本などの西側諸国が手をこまねいている中、「有言実行」の措置をロシアは矢継ぎ早にとっている。

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